【特集】柴を介護する#20 ラクチンで楽しく。2頭の介護を経験して見つけた「きつい」を「楽しい」に変える極意とは。
特集『柴を介護(あい)する』シリーズでは、いつかはやってくる我が子の老後に備え、老犬介護の情報をお伝えしています。
今回は『柴犬ひかりといちごと猫ミルキー』という書籍化もされた大人気ブログの著者であるひろこさんに、17歳のいちごちゃんの介護生活について伺いました。歩行器の導入や暮らしのアイデアまで、いちごちゃんの日々にはたくさんの工夫と愛が詰まっています!
目次
若かりし日は山を駆け回るお転婆娘。17歳で本格的な介護生活に
現在17歳のいちごちゃん。じつはひろこさんの家で17歳まで生きた先代の柴犬、ひかりちゃんが産んだ女の子です。
自宅出産だったので生まれた瞬間からひろこさん宅で暮らし始め、散歩コースにある小高い山で友達ワンコと駆け回る毎日を重ねて17年。
今は歩行器を使用するとき以外はベッドで過ごす可愛いおばあワンになり、今年の3月から本格的な介護生活が始まりました。
今回は、柴犬の自宅介護について、ひろこさんの実体験から学んでいけたらと思います。
ひろこさん:
「我が家で生まれたいちごは、蝶よ花よと育てた目に入れても痛くない存在。
母犬のひかりと長く一緒に過ごし、愛猫とも一緒なのでひとりになったことがない子です。
2020年の夏頃から転ぶことが増え、認知症の症状も顕著になってきていたので、老いを実感し始めていましたが、若い頃はアクティブだったいちごが本格的に寝たきりになったのは今年3月。
母犬のひかりも晩年介護が必要だったので、その時の経験を活かしながらお世話をしています」。
ひかりの介護経験の失敗を糧に
ひかりちゃんで初めて老犬介護を経験したというひろこさん。そのときは失敗の連続で後悔もたくさん。
そこから得た自分なりの正解をいちごちゃんの介護に繋げているそう。
「認知症で生活バランスが変わり、夜に寝なくなったり、体が動かないことに戸惑って吠え続けたり、自力で立てなくなり歩行器を導入したのもひかりが最初でした。
例えばひかりのときは、彼女のスペースを窓際に作っていたけれど、今思うとそこからは家族の姿が見えず不安で寂しかっただろうなと。それでいちごはテレビの前をいちごエリアにしたんです。
いちごの空間に夫婦が暮らすというような状態ですが、お互いの様子がわかるので安心していると思います」。
ベッドの周りにはすぐケアできるようトイレシーツやティッシュといったケアグッズも置いています。
介護に特化したベッドで洗濯ストレスを軽減
また、ベッドにもこだわりがあるんだそう。
以前はベッドに粗相をされる度にストレスを感じていたそうですが、東洋紡が開発した『ブレスエアー®』という高機能クッション材を使ったベッドに変えてから、そのストレスが軽減されたそうです。
「ネットで色々検索し、辿り着いたのが今のベッドです。
高反発でヘタりにくいのに加え、通気性抜群で洗えて速乾というのが決め手でした。
介護ですから、やっぱりしんどいこともたくさんあります。
だけどこちらに余裕がないと優しくなれませんから、いかにラクで楽しい介護ライフを送るかが大事だと思っています。それがお互いのためなんですよね」。
パステルカラーのグッズに囲まれて暮らすいちごちゃんからは、介護にありがちな悲壮感は感じません。それにはひろこさんのこんな思いが。
「つらいこともあるのが介護。ひどい夜鳴きについ大声で怒ってしまい、自己嫌悪から車で泣いた夜もありました。
だからこそ、介護用品にはカラフルでテンションが上がる色やデザインのものを選んで、少しでも気持ちを明るくしたいと思っています」。
いちごちゃんはピンクがテーマカラーなので、歩行器もピンク色を選んでストロベリー号と名付けました。
そんな遊び心を忘れないのも、ひろこさん流の介護を前向きにする工夫だそうです。
歩行器の選び方&メリット
起きている時間の7〜8割を歩行器の上で過ごし、食事やうたた寝も歩行器に乗った状態で行ういちごちゃん。
今では手足として欠かせない歩行器について教えてもらいました。
「使っているのは『わん・ステップ』という会社の4輪タイプ。
芸人さんでドッグトレーナーなどの資格も持つ松本秀樹さんのブログで紹介されていて、まずは試乗車でお試ししました。
歩行器を使い始めたのは歩けなくなってから。
歩けるうちは筋力を持続させるために、あえて使わないようにしていました。
当初は乗るのを嫌がり、慣れるまでに2〜3週間かかりましたが、慣れてくると転んで起き上がれないストレスがなくなると分かったのか、すんなり乗ってくれるように」。
歩行器を使うことのメリットは、立ち姿勢を保て、支えられながらでも歩けることだけでなく、歩くことで血行が良くなるのか、毛並みがふわっとしてきたような気がするんだそう。
「何より、転ばなくなるのが一番嬉しい! これがなければ寝たきりなので、立ち姿勢を保てる歩行器は体に良いと信じています」。
とはいえ価格は数万円するため、導入を検討中の方にはまず様々な歩行器を試乗するのがおすすめ。ひろこさんもいくつかのタイプを試したそう。
「いちごが歩行器を試した当初はまだ歩けていたので、2輪タイプから試しました。
しかし元気すぎると歩行器には乗ってくれなかったので、転ぶ頻度が高くなってから試すのが良いかもしれません。
それと、サイズ調整などもありすぐに手元には届かないので、必要になってからではなく前からリサーチしておくのがベストです。
いちごは顔が下がってきたら首のバンドを調整したり、左に体が寄れば左側にクッションを付けるなど、使いながら試行錯誤を重ねています」。
カラバリが豊富なのも、このメーカーを選んだ理由のひとつだそうです。
介護の2大悩み「睡眠と排泄」へのヒント
夜に何度も目覚めることや排泄は、介護をする多くの方にとって悩み。ひろこさんはどう対処しているのでしょう。
「ゆっくり寝てくれるよう、毎晩夜9時に睡眠薬がわりの安定剤を飲ませます。すると10時から10時半頃には眠ってくれるんです。
私は薬を飲ませたらすぐに就寝するので、寝かしつけ係は夫。そして夜中に度々起きるいちごに対応するのは私。
夫婦でお互いの睡眠時間を確保するため、このスタイルにななりました。
寝不足は心身ともにつらくなるので、夫婦で協力して睡眠時間は確保しています」。
いちごちゃんが本格的に起きるのは大体明け方。
起きたらまずブラッシングし、薬をチュールなどで飲ませ、ご飯を食べてからストロベリー号を装着。
しばらくしたらまた寝て、起きたらご飯の繰り返しです。
ご飯は日に3時間おき程度に、4〜5回に分けてシリンジであげ、お水も動いた後や食後に飲ませているそう。
「少し前までは自家製チュールを手作りしていました。肉や魚、キノコ類、野菜などを茹でた後に人間の介護食のとろみ剤を混ぜてミキサーにかけ、食べやすいよう甘めに味付けをしたものです。
今は飲み込む力も衰えてきたので、市販のチュールにしています」。
いちごちゃんのごはん(ミキサーする前)。
ミキサー後のごはん。
睡眠や食事以外だけでなく、排尿にも驚きのテクニックが。
「オムツをしていた時期もあるのですが、紆余曲折を経て“圧迫排尿”のテクニックを身につけました。
抱っこをしたらおしっこがチョロチョロ出ることに困っていて、それならいっそ抱っこの時に膀胱の辺りを優しく押して排泄させてみてはどうだろうと自己流で試したのがきっかけ(笑)。
その後、圧迫排尿という方法がちゃんとあることを知って驚きましたが、これをするようになって以来、お漏らしがなくなったんです。
こういうのも全部、いかにラクするかを考えて試した結果です」。
夜長時間寝るときは寝床の下に瞬間吸収タイプのトイレシートを敷いて不快感を軽減するなど、トイレシートも使い分けています。
「ただ大きい方はタイミングが分からないから掃除あるのみ、ですね」。
介護で迷ったときは“いちごが快適な方へ”
現在は調子の良い時と悪い時の波が大きいといういちごちゃん。
2019年にはステージ5の悪性リンパ腫と診断されたため抗がん剤治療をしたり(現在は寛解)、今は毎日点滴に通っています。
実は病院選びにもひろこさんの信念がありました。
「かかりつけ医以外に、症状に応じて複数の病院にお世話になっています。
これは昔からで、人間でも病気によって内科や外科と分かれるように、獣医師さんも得意分野ごとに別の方にお願いするのがベストだという考えから。口コミなどから得意分野を見極めています。
どの先生も相談しやすい人柄であることを重視していて、すべての先生に他の医者にかかっていることを伝えているんですよ。
これは、病院は違えど、ひとつのチームのような感じでいちごを診てほしかったから」。
「あと、治療で迷いが生じた時には、それが先生の意見とはたとえ反対でも、いちご自身が心地良い方を選ぶ。これが私が自分で決めた指針。
その子その子で介護方法や治療法は違って当たり前。“必ずこうすべき”はありません。
でも“明るくいよう” “いちごが快適なものを選ぼう”など、自分なりの目標を定めておけば迷うことがないですよ」。
最後に現在介護で悩む人へのアドバイスを伺うと、こう教えてくれました。
「犬の介護は人間の介護とは違い、経験者が少ないので共感を得られにくいですよね。
私の場合は、ブログやSNSなどを通じて同じ悩みを持つ人と話したり、苦しみを分かち合うことが日々の励みになりました」と。
これから老犬介護が始まる方、今まさに介護に悩んでいる方はぜひ、SNSを活用してみてはいかがしょうか。
ひろこさんのBLOG
いちごちゃんは取材のあと、8月26日21時50分、家族が見守る中天国に旅立ちました。
ひろこさんからは「いちごとの暮らしが、少しでもどなたかのお役に立てたらうれしいなと思います」とのメッセージをいただきました。心からご冥福をお祈りします。
取材・文/横田愛子
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