【取材】保護犬を迎えて広がった世界。「ウチの犬たちが世界で一番幸せ!」と思えるまで #9ちい
“保護犬と家族になって感じた幸せ”をテーマに、元保護犬を迎えた柴オーナーさんに愛柴との出会いから、家族になっていくまでの過程などを伺う特集「保護犬と家族になって」。今回登場するのは、先住犬である柴犬のららちゃんと暮らす、おそらく柴の血を引く女の子、ちいちゃん。ちいちゃんを迎えたことで、オーナーである佐藤さんも、先住犬ららちゃんも、世界が大きく広がったそうです。
ちいちゃんプロフィール
年齢&性別
1歳の女の子
保護されていた理由
野良のお母さん犬から産まれたため
性格
活発で人も犬も大好き!
出会いはアクシデントから
元々、柴犬のららちゃんと暮らしていた佐藤さん。保護犬のちいちゃんを迎えたのは、こんな理由からでした。
「ららはペットショップから迎えたのですが、後から調べてみて、ペットショップには色々問題があることを知りました。
その時に保護犬の情報も見て、救える命があるなら救いたいと思ったのがきっかけです。それで保護施設を探し、トライアルを申し込みました」(佐藤さん=以下「」内同)。
何頭もの保護犬の中から選んだ子は、実はちいちゃんではなく別の子でした。ところが、その子にアクシデントが起きてしまいます。
「最初に希望していた子が、トライアル前日に骨折してしまったんです。回復するまで待とうと思っていたのですが、いつ治療が終わるか分からないと言われて。
ちょうどその時、施設に保護されたのがちいでした。施設の方からすすめられ、ちいをトライアルで迎えることになりました」。
ちいちゃんはおそらく柴の血を引いているという雑種の子。愛媛の山で産まれ、すぐに地域の方に保護されました。
そこから関東の保護施設に移り、偶然も重なって佐藤さんと出会えたものの、家族になるにはまだ越えなければならないハードルがありました。
まさに“試練”のトライアル
小さかったちいちゃん(右)が、今ではこんなに大きく!
まず大変だったのが、元々持っていたお腹の寄生虫です。
「保護施設の方からお腹に虫がいることは伺っていました。薬もいただいたので飲ませていましたが、完治までは2カ月くらいかかったと思います。
家に来た翌日からぐったりしてきて、嘔吐や下痢で虫を出し続ける日々でした。その間は体重も増えませんでした。
でも寄生虫が治ってからは体重も増え、他の病気もなく元気に育っています。因みに母犬はフィラリアも陽性だったそうですが、ちいは幸い陰性でした」。
迎えてすぐ、しかも仔犬で保護犬ということもあり、対応はさぞ大変だったことでしょう。ただ原因も対処法も判っていたため、何とか乗り越えることができました。
ほとんどの保護施設では、この施設のように譲渡前検査と必要な処置をされていると思いますが、譲渡を受ける側も、早めにかかりつけ医を受診しておくと安心ですね。
またこの施設では、義務ではないものの、譲渡後も月1回の状況報告を求められたそう。佐藤さんもこまめに連絡していましたが、今ではインスタ更新がその代わりになっています。
これでトライアルはOK⋯となれば良かったのですが、もう一つ大きな問題がありました。先住犬・ららちゃんの反応です。
ららちゃんストレスMAX!
トライアル開始直後は、ちいちゃんをサークルに入れていました。ですが、とても嫌がる素振りを見せたため、サークルから出して自由にしたところ⋯。
「自分の縄張りにズカズカ入ってこられたせいか、ららがすごいストレスを感じたようで、体調を崩してしまったんです。
毛が抜けたり、ごはんを食べなくなったり、吐いたり下痢したり。1週間くらいで点滴が必要なほど弱ってしまいました。
治療してくれたお医者さんに相談したら、サークルトレーニングをすすめられて。ちいは分離不安もあったので可哀想とは思ったのですが、やってみることにしました。
すると2カ月ほどでサークルに慣れてきて、ちいがサークルにいる時間が長くなると、ららのストレスも減り、ちいがいることを受け入れ始めた様子でした」。
ららちゃんのストレスの大きさに、何度もちいちゃんの受け入れを止めようと思ったという佐藤さん。
2週間の予定だったトライアルは、中断も挟んで1カ月まで延びました。
その間、お医者さんや保護施設に度々相談したほか、多頭飼いをしている方からの“群れで生きる動物だから、きっと慣れる”というアドバイスもあって、何とか頑張れたそう。
そうして根気強く2頭のケアを続けるうちに、ららちゃんがちいちゃんとの暮らしに慣れ、体調も上向いたことで、正式に受け入れ決定となりました。
因みに、今ではちいちゃんのサークルも不要で、2頭とも自由に過ごせるようになっています。
個性も協調性もあります
大変な時期を経て、徐々に距離を狭めていったちいちゃんとららちゃん。その後はケンカすることもなく、良い関係を築けています。
「ちいが調子に乗ると、ららがちゃんと叱ってくれますし、ちいがららに譲る姿勢も感じます。新しいおもちゃを買っても、先に遊ぶのはららで、ちいはじっと待っているんです。
関係性としてはららが上なのですが、2頭とも空気が読めて、わがままを言わないタイプだから、ケンカもせずうまくいっているのかもしれません」。
何ともお利口な2頭ですが、性格は割と違います。
ららちゃんは人は好きですが、犬にはあまり興味がなく、自分を犬と思ってないようなところがあるそう。
そんなららちゃんが唯一仲良く遊べる犬がちいちゃんで、そのことも2頭の絆を強くしているようです。
一方のちいちゃんは、保護犬とはいえ仔犬の頃から佐藤さんとららちゃんに可愛がられ、怖いもの知らずで人も犬も大好き。
ただ、親犬が野良だったことを感じさせる特徴もあります。
「他の犬との関係を作るのがとても上手なんです。犬の世界での社会性があるというか。親犬が、人を介さない犬だけの世界で生きていたせいでしょうか。
あと、1歳になった頃から人見知りになり、大人の人を少し警戒するようになりました。ららは全然そんなことないので、そういう警戒心の強さも親犬譲りなのかもしれません」。
まだ若い2頭ですが、序列や協調性は保ちつつ、それぞれの個性を持った良いコンビに成長しています。
ちいちゃんが広げてくれた世界
ららちゃんだけでなく、佐藤さんの“犬との暮らし”にも、ちいちゃんを迎えたことで変化がありました。
「ちいが人も犬も大好きなので、ららだけの時は行かなかったような、大きなドッグイベントに行くようになりました。
そこで他のオーナーさんと仲良くなれたり、インスタのフォロワーさんに会えたりもするので、私もすごく楽しいです。イベントにはかなり頻繁に行っています。
それと私が服も好きなのですが、ちいは嫌がらずに着てくれるので、そういう楽しみも増えました」。
イベントやドッグランでは、ちいちゃんが他の犬とがっつりじゃれ合う“ワンプロ”を楽しむ一方、ららちゃんは人になでてもらったり、犬とも少しだけ交流するようになったそう。
また、“入場できるのは柴犬と家族犬”といったイベントもあるので、ちいちゃんもららちゃんのおかげで色々なイベントに参加できています。
家族や友だちに付き合ってみたら、意外に楽しかったり、思わぬ交流が広がったり。犬も人間と同じように世界を広げていくのですね。
世界一幸せ!
最後に、保護犬を迎えて良かったこと、そしてこれから保護犬を迎える方へのアドバイスを伺いました。
「今はとにかく可愛いの一言ですね。もちろん迎える前は、どんな犬種が入っているか、どこまで大きくなるかも判らないといった不安はありました。
でも迎えてからは、犬種が混ざっていることはむしろ楽しみに変わりました。どんな子に成長するか楽しみだし、“世界に一つだけの犬種”とも言えますよね。
それに何というか、どんな犬もオーナーの接し方や家族の環境で変わると思うんです。ちいも最初は病気があったり、皮膚や毛並みも悪かったりしていました。
でも良い病院を探してちゃんと治療すれば病気も改善でき、毛並みも食生活などのケアで皆さんに褒めてもらえるほどキレイになりました。
アドバイスになるか分かりませんが、私は“ウチの犬たちが世界で一番幸せ!”と思って暮らしています(笑)」。
宣言のようでもあり、実感も籠っていて、とても良い言葉だと感じました。そう思って接してもらえる犬たちは、本当に幸せになっていく気がします。
もちろん言葉や気持ちだけではありません。24時間対応のかかりつけ医を探したり、手作りのフードに無添加のスキンケアなど、しっかり手もかけられています。
そんな佐藤さんが一番嬉しいのは、明るく元気で毛並みもツヤツヤのちいちゃんを見た方たちから、“ウチも次は保護犬にしようかな”と言われること。
保護犬という選択肢が多くの人に広まることを願いつつ、佐藤さんはこれからも世界一幸せな2頭と暮らしていきます。
取材・文/橋本文平(メイドイン編集舎)
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