2023年5月1日8,669 ビュー View

『ひとり』ーアキナ山名とおまめのラブい日々#20

お笑いコンビ「アキナ」の山名文和さんは、2020年6月9日に愛柴のおまめを迎えました。保護犬施設からやってきた彼女は、当時8歳。

長年夢みてた“柴犬ライフ”を、ようやく実現した山名さん。おまめとどのように出会い、どんな生活をおくっているのでしょうかー。

アキナ山名と柴犬おまめの最高にラブい日々を、山名さんご本人が綴っていきます。

#20は、犬の時間、人の時間、そして孤独ー。

『 ひとり』ーアキナ山名とおまめのラブい日々#20

おまめは室内犬。

結婚して僕一人ではなくなったので、留守番の時間は格段に減った。

それでも、どうしても留守番する時間がある。

 

不思議なのは出かける空気がすぐに伝わることだ。

前の晩から「おまー、明日お出かけやでー」と言っておけば、次の日は朝から玄関に伏せてスタンバっている。少し外に出て出かける準備をしたものなら、玄関でくるくる動き回り、連れていけと吠えたりする。

出かける日の朝は、散歩も遠くまで行かない。常に家への距離感を見ながら自分も絶対に付いて行くんだといつもはゆったり歩くのに、近場を走っている。そもそも、ここにリードを持った主人がいるのだから裏切ることはないのに。放って行こうにも行けないのに。睨みをきかせている。面白い。

柴犬ライフ、アキナ山名

撮影:山名文和(アキナ)

 

おまめをどうしても連れていけない時もある。朝から着替えたりしていると、また玄関にスタンバっている。胸が痛くなる。

ただ不思議なのは日常の仕事の着替えのときは微動だにしない。リビングでだらだらとして勝手に行ってこいな風。

何が違うんだろう。

流れている空気が違うのか。

 

人間の一秒は犬の六秒という。

鼓動が六倍速いと聞いたことがある。

だから寿命も僕らと比べたら六分の一。

それはわかる。

じゃあ、時間の感覚も変わるのか。

一時間で六時間に感じるのか。

もし一日会えないとしたら、六日間会えなかったことになるんだろうか。本当に途轍もない長い時間なのか。

逆に僕らの動く速度は六倍遅く見えてるんだろうか。その割にはおまめの全力疾走に追いつけてしまう。

しっかり六倍だとしたら、六日で二食しか食べていない。想像しただけで地獄。ただ、一日の大半を眠って過ごすのは合点がいく。寝なやってられへん。

そもそも人間の一日にあてはめてしまっていることが最早馬鹿げたことなんだろうか。

いや、違う。

お日様が昇って没む一日を軸に考えれば、別に押しつけていることにはならない。

あとは犬がもつ感覚だけど、それはもうわからない。

 

わからないけれど、三時間の留守番が犬にとっての十八時間というのは、腑に落ちない。

これを考えているのも結局人間の僕。

わかりっこない。

人間の一秒は犬の六秒。

どういうことなんだろう。

 

なんにせよ、できる限り孤独な時間は作ってあげたくないと思う。可能な限り一緒にどこへでも行けたらいいなあと。

柴犬ライフ、アキナ山名

撮影:山名文和(アキナ)

 

だけど

 

人間には孤独な時間があっていいと思っている。一人にならないと見つからないものがきっとある。

 

十代から二十代後半まで、全身を覆うような孤独があった。誰と居てもその孤独は目の前に横たわっていた。

どうしてこの人は笑っているんだろう。

どうして皆歩いているんだろう。

なんの目的があって、どこに行くんだろう。

なんのために毎日があるんだろう。

根っこにはいつもそんな感覚があった。

だからといって笑っていなかった訳じゃない。

夜中に集まってひそひそと話したり、永遠に続けばいいなあと思うくらい笑ったりした。

そんなふうにありたいと思ったし、そうすることが健全だと思ったから。

でもそんな自分をくだらないと卑下した。こんな時間はなんの意味もない、もっと根本的に見つめないといけないものがある気がした。いや、考えすぎだ。いやいや、考えないわけにはいかない。

その繰り返しだった。

 

本を読んだ。

本を読むと色んな言葉が並んでいて、気に入った言葉をノートに書き写した。

その言葉にあてはめるように生きたりもした。

これも違うこれも違うと、また履き替えて、新しい言葉を纏って、外に出た。

そんなことを繰り返すうちに、時々ぴたっと着心地のいい言葉が見つかったり、あぁあれはこういうことかと急に解ったり。少しだけ温かくなった。

そうなると誰かと話す余裕が出来て、あぁこんな人も居るんだと。

柴犬ライフ、アキナ山名

撮影:山名文和(アキナ)

 

だから、孤独があって良かったとおもう。

自分にしかわからない、説明しようのない孤独。

僕の場合は。

 

詰まっていた息がゆっくり吐けるようになり、身体が軽くなり、得体のしれない苛立ちがなくなりだすと、靄がかかって見えなかったものがすっかり見えて、目的地が出来ていった。

 

 

あんなときにおまめに出会わなくてよかったなあと思う。まあ、出会うことは決してなかったと思うけど。

 

 

本当に今で良かったし、人生はそうなるように順序だてられているなあといつも驚く。

 

 

【プロフィール】山名文和(アキナ)

柴犬ライフ,アキナ山名,おまめ

1980年7月3日生まれ。2012年、秋山賢太とお笑いコンビ「アキナ」を結成。

レギュラー番組を多数抱えるほか、『キンブオブコント』『M-1グランプリ』『THE MANZAI』で決勝進出を果たす。

愛柴は、保護施設から迎えたおまめ(10歳)。

 

 

 

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