2023年8月15日5,076 ビュー View

『苦い思い出』ーKIKI連載・お転婆姉妹の椿と柊 #12

モデルや執筆家、写真家として活動するKIKIさんは、東京と逗子の二拠点で「柴犬ライフ」を満喫中。愛柴の名前は椿(つばき)で、キツネ顔とたぬき顔のハーフさん。そして忘れてはならないのが、KIKIさんの娘であり、椿の妹である柊(ひいらぎ)の存在。

お転婆娘たちが繰り出す、明るくにぎやかで、癒しに包まれた柴犬ライフー。KIKIさんご自身が、温かな文章で綴ります。

 

#12は、年月が経っても思い出すことー。

『苦い思い出』ーKIKI連載・お転婆姉妹の椿と柊 #12

椿がうちに来るずっと前の話。それも、柴犬の話ではなく、犬でもなく、猫の話だったりする。でも根本を辿ると、その猫の飼い主の話でもあり、その人は猫だけでなく犬も飼っていたから、やっぱり犬の話だったりもする。

 

15年くらい前のこと。当時お付き合いをしていた人が飼っていた猫を1週間ほど預かることになった。その理由は、他に飼っている犬が高齢で調子が悪く、若くて元気でちょっかいを出しがちの猫と、しばらくのあいだ隔離しようということだった。

 

そんなわけで一人暮らしのわたしのうちに来た1週間。それまで猫も犬も飼ったことはなかったけれど、従姉妹や祖母の家にいつも犬がいて、いつかわたしもと夢見ていたので、とても楽しみな出来事だった。

 

預かった猫はシンガプーラという猫種で、若いこともあるけれど、小柄ですばしっこい。愛嬌は抜群だけど、遊んでいるとしょっちゅう引っ掻かれて、わたしの腕や手は傷だらけになった。とはいえ、猫と長く触れ合うのは初めてだったので、そんなものかと受け入れていた。それ以上に、仕事を終えて家に帰ってきたときに、出迎えてくれる子がいるというのは、本当にうれしかった。当時、俳優としてテレビドラマの仕事をしていて、現場に慣れるのが大変な時期だったので、心境をよく覚えている。

 

柴犬ライフ,KIKI

photo:KIKI

 

1週間はあっという間に過ぎ、その後は、また別の知り合いの家に預けられた。今思うと、なぜはじめからそちらの家でなかったのかが不思議なのだけれど、たぶん旅行にでも行っていた、とかそんな理由だったのではないだろうか。そちらの家には先住猫もいて、猫に慣れている家族だったので、預ける方も安心だったと思う。

 

送り出してから2日経っても、部屋に猫の気配が残っていて、無性に寂しく感じていたところ、彼から電話。「キキちゃん、預かってもらっているあいだに、猫になんかした? いじめたりしてない?」「………。」わたしとしては、は?という感じで、とっさに返す言葉も出なかった。聞くと、つぎの預け先で、猫が餌を全く食べなくなってしまったとか。うちでは普通に食べて排便もして遊んで寝ていた。昼間の留守は多かったかもしれないが、思い当たる節はなにもない。

 

そう伝えて、「そうだよね」と返事をされても、電話口の向こうでは納得してない様子がひしひしと伝わってくる。疑われて、本当に嫌な気分だった。けれど、その翌日、疑いは晴れた。食事をしなくなってから2度目の動物病院の診察で、喉の奥に糸が絡まっているのが見つかり、それを取ったら何事もなかったように餌を食べ始めたのだという。疑ったことを謝られたかもどうかも、今となっては覚えていない。当時好んで付き合っていた人から、そんな疑いをかけられたことが、とにかくショックでならなかった。

 

このことが直接の原因ではないけれど、そんな人との仲がつづくわけがない。猫がその後どうなったかは覚えていないが、まだ付き合いがあったときに、先住の犬は亡くなった。高齢だったこともあり、病気を患っていたように記憶している。とはいえ、彼や周りの人から手厚くケアされていたなかで亡くなったので、幸せだったのではないかと思う。でも。この時も、わたしにとって忘れられない一言を彼から突きつけられた。お葬式を終えた後、参列したわたしに、「キキちゃん、ちっとも泣かなかったね。」と言われた。

 

当時30歳前後、今よりわたしのこころは脆かった。責められることを受け入れるしか手段はなく、とてもしんどい思いをした。年月が経っても、時折なにかをきっかけに思い出しては、悲しくなる。

 

柴犬ライフ,KIKI

photo:KIKI

 

でも、後年わたしが犬を、椿を迎えるにあたり、あの時の経験は無駄にはなっていない。先住犬が弱ってきたから、猫を飼った彼。なぜ、猫だったのか。シンガプーラを改めて調べてみると、「やさしくて甘えん坊」だが「野生味がある」。「わたしを見て!」というタイプなので、「多頭飼いに向かない」とある。すこし考えればわかることなのに、今らならはっきり言える。無責任である。

 

だからこそ、椿を迎えるにあたり、わたし自身が無責任なことをしないように、こころに誓った。ドキドキすることだけれど、子ども(人間の)が生まれてより思う。犬も猫も、人も、育て、一緒に暮らすのは覚悟がいることなのだ。

 

 

【PROFILE】KIKI

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東京生まれ。武蔵野美術大学建築学科卒業後、ファッション雑誌や広告媒体を中心にモデルとして活躍。

近年では写真家、執筆家として活動の幅を広げている。

著書は『KIKI LOVE FASHION』(宝島社)『山スタイル手帖 KIKI』(講談社)ほか

Instagram:@campagne_premiere

 

 

 

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