【特集】柴を介護する#1〜柴は認知症になりやすい犬種トップ!獣医師に聞く予防法から心構えまで〜
獣医療の進歩や良質な食生活などにより、近年はペットの高齢化が進んでいます。内臓が強く、中型犬の中では長生きだと言われる柴犬は、特に“要介護”になりやすい犬種。いつかはやってくる我が子の老後に、精一杯の愛を注げるよう心の準備をしておきたいもの。そこで今回より、介護をテーマにした特集がスタートします。
記念すべき第一回目は、特に柴犬がなりやすい“認知症”がテーマ。シニア犬&老犬介護医療のエキスパート・『キュティア老犬クリニック』の佐々木彩子先生にお伺いしました!
目次
動物医療や飼育環境の進歩で愛犬の寿命は延びました。しかし、“加齢”は決して止められるものではありません。
寿命が延びたぶんシニア期が長くなり、人間と同じような《認知症》を発症する犬も少なくないのが現状です。
徘徊、夜鳴き、昼夜逆転、トイレの失敗など、目の当たりにすると「あれ、もしかして…?」と不安になってしまう、愛犬の変化。
いち早く気づいて、愛犬とのハッピーライフのためにやれることを実践しましょう!
そこで今回は、柴犬と認知症の意外な関係性から、知っておきたい認知症の初期症状や治療法、オーナーさんの心構えまでを、シニア犬&老犬介護医療のエキスパート・キュティア老犬クリニックの佐々木彩子先生にお伺いしました!
【キュティア老犬クリニックとは】
西洋医学を尊重しつつも、東洋医学の考え方に基づいた各症状の緩和ケア、リハビリ、介護医療を専門とする動物病院。
治療は、東洋医学の鍼灸治療、整体、漢方薬処方が中心。
また、認知症を発症した愛犬を抱えるオーナーには心強いデイケアでの預かりや、通院が困難な場合の往診もおこなっている。
ーー近年、ペットの高齢化に伴って犬の認知症が増えていると言われていますが、その実感はありますか?
佐々木先生:
ありますね。それこそ10年くらい前までは“認知症といえば柴ちゃん”というほど、柴犬特有の疾患というイメージだったんですが、今ではどんな犬種でも認知症を発症しているし、その数も増えているように思います。
“認知症といえば柴ちゃん”は、いきなり衝撃的なお言葉でした。その要因として考えられることは?
佐々木先生:
柴ちゃんは内臓が強いのか、長寿犬なんですね。長生きをすればするほど、やはり認知症にかかるリスクは高まります。
と同時に、認知症は怒りっぽい子、イライラが強い子、ストレスが溜まりやすい子がなりやすい印象なんですが、柴ちゃんは犬種的に神経質な子が多い。
その点でも発症リスクがあるのかもしれません。
それから、これは一説なんですけど、もともとは魚を食べていた柴犬のような日本犬は、ほかの西洋犬よりもDHAやEPAの要求量が高いので、普通のドッグフードでは足りなくなって認知症になってしまう…というふうにも言われています。
認知症の初期症状とは? ここをチェック!
では、柴犬ならではの予防法もありそうですね。それはのちほどおうかがいするとして、そもそもどんな症状が現れたら認知症を疑えばいいでしょう?
佐々木先生:
症状は、それぞれ異なります。
でも、最初は部屋の中を一方向にウロウロするようなところから始まって、壁のほうに吸い寄せられるようになったり、机やイスの下のような狭い場所にもぐり込んで出られなくなってしまったりする。
それは一般的な認知症の初期症状のひとつなんです。
あとは、昼夜が逆転して夜中に吠えちゃったり、異様なくらい食事の量が増えたりすることもあります。
満腹中枢がおかしくなってしまっているのか、脳のほうから栄養吸収の指令がうまく出なくなってしまったのか、そこらへんは詳しく解明されていないのですが、“食事の量が増えたのに、下痢もせずに痩せてくる”のも認知症の兆候です。
ただ、オーナーさんが「もしかして認知症かな?」と思っても、じつは病気のこともあるので、「いつもと様子が違うな」「おかしいな」と思ったら、まずはかかりつけの病院で診てもらうことをオススメします。
《CHECK!まだある認知症を疑う初期症状》
*意味もなく単調な声で鳴く
*前にのみトボトボと歩く
*名前を呼ばれても無反応
*飼い主が来ても喜ばない
*直角のコーナーで方向転換ができない
*学習したことを忘れてしまう
*おもらしなど、トイレの失敗が多くなった
認知症と区別がつきづらい病気とは?
佐々木先生:
脳腫瘍ですね。脳腫瘍でも認知症と同じ症状が出ることがあります。
人間には若年性の認知症もありますが、ワンちゃんの場合、犬種にもよりますが、だいたい12〜13歳を超えてから認知症を発症するものなんです。
なので、それ以前に先ほどのような症状が出てきたときは、脳腫瘍の可能性も疑います。
脳腫瘍だった場合は、外科的処置などで症状が改善することもあると思います。
認知症になったらしてあげたいこと&認知症を予防するためにしてあげられること。
一方、「やはり認知症だった…」という時に、有効な治療法はあるのでしょうか。
佐々木先生:
認知症自体を完治させる治療法は、残念ながらありません。
ただ、先ほど「怒りっぽい子、イライラが強い子は認知症になりやすい印象」とお話ししましたが、“怒り”の感情をつかさどる内臓“肝”の巡りをよくして、整えてあげることで、認知症の症状が多少軽減されることもあるんです。
そのため、うちの病院では認知症のワンちゃんに鍼灸治療や漢方薬の処方もおこなっています。
認知症は予防できるのでしょうか?
佐々木先生:
認知症は脳の萎縮から起こると言われているので、脳を刺激してあげることが大切です。
それに加えて、DHAやEPAの不足も認知症発症のリスクになっているのでは…と言われている柴ちゃんに関しては、12歳を過ぎたころからサプリメントなどでDHAとEPAを補ってあげてもいいかもしれません。
ただ、今のドッグフードにはだいたいDHAもEPAも添加されているので、そこまで気にする必要はないですよ。
あまり過剰に摂取しすぎると、逆に体に炎症を引き起こしてしまう炎症物質を活性化してしまうこともあるので。
“適量”って難しいですね。
佐々木先生:
サプリメントの場合は、パッケージなどに記載されている容量を守っていただければ大丈夫です。
それから、亜麻仁油は体内に入るとDHA・EPAに変化することで知られていますよね。
手作りフードに亜麻仁油をかけるならいいんですが、市販のドッグフード+サプリメント+亜麻仁油となると、これはちょっと過剰摂取かな、と思います。
その代わりに…と言ってはなんですが、ビタミンCは抗酸化作用、ビタミンB群は神経の修復作用があるので、このふたつを与えてあげるのもいいかもしれません。
脳への刺激やサプリメントは、認知症の予防だけでなく、対症療法としても有効ですか?
佐々木先生:
そうですね。それによって多少症状が改善したり、進行を遅らせることができたり…というのはあると思います。
そのほかにオーナーがしてあげられることは?
佐々木先生:
発症後も、たくさん話かけてあげるなど、脳を刺激し続けることが重要です。
シニア犬やすでに認知症を発症している子は、耳や目など五感が衰えてきているので、耳元で大きな声で話しかけてあげるようにしてあげてください。
それから、お散歩は足腰を鍛えるだけじゃなく、脳の刺激としてもすごく大切です。
外に出るといろんな音を聞いたり、においをかいだりして五感が刺激されますし、日光を浴びるのもとても重要なこと。
たまに「家の庭に出してるから大丈夫です」とおっしゃるオーナーさんがいらっしゃいますが、それでは一定の刺激しか受けられません。
できれば、公園まで抱っこして行って芝生の上で降ろしてあげるとか、いつもとは違った刺激を与えてあげてほしいです。
歩ける子でしたら、お散歩コースを変えてみたり、車で遠くの公園へ行ってみるのもいいですね。
家庭でもできる認知症ケア
“脳への刺激”という点では、マッサージなども効果がありますか?
佐々木先生:
はい。皮膚や手足をマッサージすることは脳の活性化につながりますし、スキンシップという意味でもとてもいいと思います。
それから、東洋医学では“腎”の間に精気が貯められていて、シニア犬は加齢によりその精気が少なくなってしまうことで体に様々なトラブルを引き起こすと考えられています。
なので、腰まわりを温めて“気”を補い、巡りをよくすることは症状の予防と改善につながると思います。
それには鍼灸治療が望ましいですが、うちの病院ではホットタオルを用いたハーブの温湿布もおこなっています。
ご自宅でも、ホットタオルやカイロなどで温めてあげるのがオススメですね。
カイロを用いる場合は、低温やけどしないように、腹巻きや服の上から貼ってあげましょう。
認知症に関しては“予防”と発症後の“対策”、やるべきことは変わらないんですね。
佐々木先生:
そうですね。ですが、“対策”にひとつ加えたいのが、徘徊してしまうワンちゃんがケガしないように、お部屋の環境を整えてあげること。
具体的には、床を滑りにくい素材にしたり、クッション性のあるもので家具と家具の隙間をなくす、などです。
実際、オーナーさんの外出中にソファーの下や家具の隙間に挟まって窒息しかけた子もいて、危ないので。
愛柴が認知症になったら…「ひとりで抱え込まない」こと
最後に、現在認知症の愛犬を介護されているオーナーさん、「愛犬が認知症になったらどうしよう…」と不安を抱えているオーナーさんへアドバイスをいただけますでしょうか。
佐々木先生:
認知症とはうまくつき合っていくしかないのが現状です。ひとりで抱え込まず、不安なことはかかりつけの先生に相談してください。
たとえば、認知症で夜鳴きがひどいワンちゃんに鎮静剤を使って眠らせることは、悪いことのように思いやすいんですけど、そうとは限りません。
オーナーさんにも仕事があるし、ご近所トラブルを避けるためにも使ったほうがいいことはあるんです。
オーナーさんが疲れて倒れてしまっては、愛犬の面倒を見ることもできません。
介護は終わりがわからないだけに、薬やデイケアなどの一時預かりも上手に利用して、ある程度割り切った介護をすることも大切です。
リラックスした状態で鍼灸治療や整体をおこないながら獣医師や病院スタッフとゆっくり会話できるのも、このクリニックの魅力。介護の悩みを相談できます。
《CHECK!認知症の予防と対策》
*鍼灸治療や漢方、腰まわりを温めることで気の巡りを整える
*サプリメント(DHAやEPAなど)で脳神経細胞を活性化
*声かけやお散歩で脳に刺激を与える
*日光を浴びさせて体内時計を整える
*マッサージで脳への刺激とスキンシップを!
*部屋を安全な環境に整える
愛犬が認知症とわかったら、少なからずショックを受けることでしょう。
しかし、認知症を発症するということは、それだけ長生きをしている証し。
信頼できる獣医師の力を借りながら、たくさんの癒しをくれた愛犬への恩返しの気持ちで介護も楽しみたいものです。
【病院DATA】
キュティア老犬クリニック
神奈川県横浜市青葉区美しが丘4-7-28
メゾンドアミ1F
045-903-1334
受付時間9:30〜17:30
(日曜・祭祝日は休み)
HP www.cutia.jp
撮影/Okapi焙煎所
取材・文/永野ゆかり
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