【特集】柴を介護する#3 「整体」で何歳になっても歩ける体を目指す〜自分でできるストレッチ&マッサージ方法も紹介〜
内臓が強く、中型犬の中では長生きだと言われる柴犬は、特に“要介護”になりやすい犬種と言われています。そこで、いつかはやってくる我が子の老後に、精一杯の愛を注げるよう、介護ノウハウや老犬ならではのケアについて紹介するのが、この特集『柴を介護(あい)する』。
今回は、ロコモティブシンドロームを予防、改善し最期まで元気に歩ける体作りを目指せる“犬の整体”について、『キュティア老犬クリニック』を取材してきました。
自宅でもできるストレッチ&マッサージもレクチャーしていただいたので、ぜひ参考にしてみてください。
目次
老犬のケアには整体が最適
体の歪みやこわばりが体調不良の原因になりうるのは、人間も犬も同じ。
家族の一員、最愛のパートナーである愛犬が、少しでも健康で長生きできるように、“整体”を取り入れてみませんか?
手術や薬を用いない整体は、老犬にも安心しておこなえる施術。思い立って、すぐに始められるのも特徴のひとつです。
そこで今回は、整体治療で大きな成果をあげているキュティア老犬クリニックの佐々木彩子先生に、実際に施術をしていただきながら、整体がもたらす効果や、自宅でもおこなえるストレッチ&マッサージ法などを教えていただきました!
キュティア老犬クリニックとは
西洋医学を尊重しつつも、東洋医学の考え方に基づいた各症状の緩和ケア、リハビリ、介護医療を専門とする動物病院。
治療は、東洋医学の鍼灸治療、整体、漢方薬処方が中心。
愛犬とオーナーがより楽しく暮らすための環境、食事、運動や生活習慣など、ホリスティックケアの視点からもトータルサポートをおこなっている。
整体で筋肉をほぐし、最期まで歩ける体へ
整体には、どのような子たちが通っているのでしょう。
佐々木先生:
加齢や病気、ケガなどによって後ろ足がふらついたり、うまく使えていなかったりして歩行困難な子、立てない子は多いです。
そのほかにも、寝たきりになったワンちゃんや、アジリティー(犬の障害物競技)をおこなっているワンちゃんがボティメンテナンスのために通っていたりもします。
柴犬の割合はどうですか?
佐々木先生:
多いですよ。柴ちゃんは、犬種的に神経質な子が多くて、体にギュッと力を入れていることが多いんです。筋肉が固まりやすい傾向にあるので、それを整体とマッサージでほぐしてあげたほうがいいんですよね。
犬に整体をおこなう、一番の目的はなんでしょうか?
佐々木先生:
整体で筋肉をほぐしてあげることによって、全身の筋肉バランスを整え、関節の可動域を広げてあげる。それがいちばんの目的です。
整体というと、骨と骨のズレを治すイメージでしたが、筋肉も関係あるんですね。
佐々木先生:
関節というのはすべて筋肉でとまっているので、その筋肉をほぐして緩めてあげることは関節の可動域を広げることに直結します。筋肉が硬く、正しく動かせていない状態で歩いていると、だんだん骨格が歪んできてしまうのですが、筋肉を緩めて関節を正しく使えるようしてあげると、骨格も整ってくるんですよ。
関節の可動域を広げてあげること、正常な骨格にすることで得られる効果は?
佐々木先生:
関節・骨・筋肉などの運動器が衰えることで要介護になったり、その可能性が高まることを“ロコモティブシンドローム(運動器症候群)”というのですが、まずはその予防・改善につながります。
単純に筋肉疲労を取ってあげるという点でも効果的ですし、全身をほぐしてあげることで血流やリンパ、気の流れがよくなるので、機能バランスが整い、自然治癒力を高めてくれる効果も期待できますね。
なるほど。いいことだらけのような気がしてきました。
佐々木先生:
そうですね。筋肉が弱ると立てなくなる、歩けなくなるだけじゃなく、血流が悪くなって体温も下がってしまいます。それが免疫力の低下につながってしまうこともあるので、筋肉・関節・骨格を整えるというのは、とても大切なことです。
また、筋肉や骨格とは一見関係なさそうな内臓ですが、胃や腸は手足を動かすことで動いているので、筋肉の衰えは内臓の働きも悪くしてしまう。なので、“最期まで歩ける体”を目標に、鍼灸治療や整体をおこなっています。
日々の習慣が骨格を歪ませることも
骨格が歪む原因として考えられるのは、加齢によって筋肉が弱ってくる以外に、どんなことがありますか。
佐々木先生:
寝る時に左右どちらか一方、決まった方を下にして寝るクセのある子は背骨が歪みやすいと思います。それから、おすわりや伏せの時に足を横に流している子も骨格が歪んでいる可能性が高いですね。
日々の習慣も歪みにつながってくるわけですね。
佐々木先生:
そうですね。ワンちゃんは、正常な状態でも7対3の割合で前足に体重が乗っているので、“3”しか使っていない後ろ足の意識が弱くなり、後ろ足から弱っていきます。
疲れがちな前足は筋肉をほぐしてケア、後ろ足は正しく筋肉を使えるように整えてあげる、これを同時にできるのも整体のいいところだと思います。
犬はとにかく首が凝る!
また、人間は頭の重さや体重が重力と同じように縦にかかるのでいいのですが、ワンちゃんは横向きで、首だけで頭の重さを支えているので、首がものすごく凝ってしまう。
それが原因で肩や胸あたりもまたカチカチに固まってしまいがちなんですが。そこの筋肉が硬くなってしまうと呼吸が浅くなってしまうんですね。
それがまた、交感神経でイライラが優位になってしまう原因にもなるので、首まわり、肩や胸まわりの筋肉を緩めてあげることは非常に大事です。それによって、深く呼吸ができるようになるので。
整体を始めるべき時期は? 年齢が高くても効果はあるの?
整体を始めるタイミングでオススメなのは?
佐々木先生:
筋肉は、うまく使えていないと衰えるスピードが早く、その機能を取り戻すのは年齢が上がるほど難しくなってきます。なので、気づいた時、思い立った時に始めてあげることが大切です。
実際には、オーナーさんがワンちゃんの歩き方などにちょっとした違和感を感じた段階で来院する場合もあれば、ほとんど歩けない状態になってから来院する場合もあるんですが、その子の今の症状にあった施術方法を探していくので、どの段階でも諦める必要はありません。
《CHECK! 整体・マッサージ・ストレッチの違い》
*整体……筋肉を緩めて関節や骨格の歪みを矯正し、全身の機能バランスを整える。
*マッサージ……体の表面を押す、揉む、さする、などの手技。硬くなった筋肉をほぐすことで血流やリンパの流れを改善し、体の疲れやコリを取り除く。リラクゼーション効果も大。
*ストレッチ……しなやかな体づくり。硬くなった筋肉を伸ばすことで体の柔軟性を高めるのと同時に、関節の可動域を広げる。ケガの予防にも効果的!
キュティア老犬クリニックでおこなわれている整体は、どのようなものなのでしょうか?
佐々木先生:
“整体”というと、骨や関節をボキボキ鳴らすイメージをお持ちの方が多いんですが、それとはまったく違います。マッサージとストレッチを合わせて、あくまでも優しい力で、ゆっくりと筋肉を緩めてあげる施術なので、気持ちがよくて寝てしまうワンちゃんもいるくらいなんですよ。
先生の病院でもおこなわれていて、同じくロコモティブシンドロームの予防・改善に効果があるといわれている鍼灸治療との使い分けは?
佐々木先生:
鍼にもこわばった筋肉をほぐしてあげる効果がありますが、本当にガチガチにかたまってしまった筋肉は、手で直接触らないとほぐれないものなんです。
どちらかと言うと、鍼は“体の中から立つ力をつけてあげる”ものであり、整体で“より立ち上がりやすく、歩きやすくする”といったイメージ。
整体だけでも、ヨロヨロしながら来院したワンちゃんがシャキッとして帰った…というケースはよくあるんですが、併用していただくとなおいいのは確かです。
ただ、鍼灸治療は気を補い、巡らせる施術なので、多少体内のエネルギーを使います。なので、年をとったワンちゃんや寝たきりのワンちゃんには、リラクゼーションと血流改善を目的として、整体やマッサージだけをおこなうこともあります。
キュティア老犬クリニックでは、床にマットを敷いてそこで整体とマッサージをおこなう。診察台ではないんですね。
佐々木先生:
稀に診察台じゃないと暴れまわっちゃう子がいて、そういう子は診察台で施術することもあるんですが、基本的にはみんな診察台は嫌いなので(笑)。
整体にはリラックスしてもらう目的もあるので、通常はマットの上でおこなっていますね。ちなみに、うちの病院では、鍼灸治療もマットの上での施術です。
オーナーさんになでてもらいながらの施術で、ワンちゃんがとてもリラックスしていますね。同時に、先生や整体師さんとオーナーさんが、文字通り“膝を突き合わせる”カタチでのじっくり&ゆっくりコミュニケーションをとっている様子も印象的です。
佐々木先生:
鍼灸と整体をどちらもやると1時間くらいかかるので、そのあいだに普段の心配事をお聞きしたり、かかりつけの病院でやった検査結果のデータを見せていただきながら対策を練ったりしているんです。
そういう時間を持てるのは、オーナーさん的にも嬉しいですね。1時間あれば「あ、これも聞いておきたかった!」というのも思い出せそうですし。
佐々木先生:
オーナーさんが不安だったり、ストレスを抱えた状態でいると、全部ワンちゃんに伝染してしまうんです。
なので、オーナーさんの気持ちを明るくしてあげることは、すごく大事。この施術中の時間を利用して、なんでも相談してもらいたいですね。
“柴犬は神経質な子が多い”とのこと。整体やマッサージは問題なくおこなえますか?
佐々木先生:
柴ちゃんに関しては、確かに体を触られるのがあまり好きじゃない子が多いです。特に足先を触られるのがイヤ、っていう子も少なくありませんね。
そういう場合はどうするんですか?
佐々木先生:
そういう場合は、おやつでごまかしたり、あやしたりしながらなんとか…(笑)。オーナーさんに抱っこしてもらったまま施術する場合もありますしね。
決して、無理やり押さえつけたりすることはないので安心してください。
具体的な施術の流れを教えてください。
佐々木先生:
鍼灸治療との併用の場合、鍼灸治療と整体のどちらを先にやるかは、その時によりますが、基本的には鍼灸治療を先に行います。鍼灸で身体があたたまり筋肉もゆるむのでより整体でほぐれやすくなるからです。
予約の関係で先に整体をおこなう場合や、整体だけ施術する場合は、代わりにハーブ温湿布で首、背中、脚、足先と、全身を温めます。その後、本格的な施術に入っていきます。
こちらがハープ温湿布に用いるハーブパック。リラックス効果があるラベンダー、おなかの不調や痛みを緩和し、皮膚の炎症も沈めてくれるジャーマンカモミール、気分を上向きにしてくれるローズマリーなど、数種類のハーブを独自に調合。
このパックをつけたお湯でホットタオルを作り、全身を温めてあげます。
ホットタオルを背中に当てているところ。
整体は、継続的な施術が必要ですか?
佐々木先生:
そうですね。筋肉や関節を正しく使えるように整えてあげても、歩き方や姿勢のくせですぐに戻ってしまうので、鍼灸治療と同じく、最初のうちはあまり間隔を空けずに、何度か通っていただくほうがいいと思います。
整体とマッサージにはリラックス効果もあるので、継続してあげるとワンちゃんの癒しにもなると思いますよ。
自宅でできるケアもあるのでしょうか?
佐々木先生:
家でできるのは、ストレッチがメインになりますね。筋肉を強く揉みすぎちゃうと、逆に筋繊維を痛めてしまって、もみ返しのようなことにもなってしまうので。
ただ、適度なマッサージはスキンシップにもなっていいので、首や体幹などの太い筋肉のところは軽い力で揉んであげても大丈夫です。
逆に、自己判断で揉まないほうがいい箇所は?
佐々木先生:脚ですね。ふくらはぎや太ももは思ってるよりも筋肉が細いので、ハードなマッサージよりもストレッチがオススメです。
整体のほかに、ロコモティブシンドロームの予防に役立つことがあれば、ぜひ教えてください!
佐々木先生:普段から言ってるのは、お散歩で坂道を上ったりして、脚を鍛えておくこと。
脚が弱ってたら、足首にヘアゴムやリストバンドみたいなのを巻いてあげるのもいいです。あくまでも脚に意識をいかせるために巻くので、ギュッと締めつける必要はありません。テーピングでもいいですね。
脚に意識をいかせることが大切なんですか?
佐々木先生:
はい。意識しながら歩かないと、なかなか筋肉がついていかないので。ほかには、お部屋の中が滑らないよう、床にマットを敷いてあげたり、ごはんの時に食器の高さを少し上げて、無理のない姿勢で食事を摂れるようにしてあげるのも、骨格の歪み防止やロコモティブシンドロームの予防には効果的です。
自宅でできるストレッチ&マッサージ
佐々木先生が、自宅でもできるストレッチやマッサージを教えてくださいました。
(1)まずは、体幹をほぐしましょう!
(※寝かせた状態がオススメ)
人差し指と親指で首から腰まで、背骨に沿って揉みほぐします。指を開いたり閉じたりしながら移動させるのがポイント。難しければ、さするだけでもOK。
(2)足のストレッチ
足先から順におこないます。まずは指を1本1本、爪の生え際を優しく揉んであげましょう。
そして指を1本ずつ上下に動かしてあげます。
次に、手のひらで足先全体を前後に曲げ伸ばし。ゆっくりと5〜6回繰り返します。
肉球間を押して、指を開いてあげます。
体重を乗せていない足先はすぼまってきてしまうので、しっかりパーができて踏ん張りがきく足へ。
続いては足首のストレッチ。優しい力で足首を前後に曲げ伸ばししていきす。右手は腿の付け根あたりに添えておきます。
前後に曲げ伸ばすのは、嫌がらない程度の範囲でOK。無理に可動域を広げようとしないこと!
膝〜股関節を前後にストレッチ。伸ばす時は、膝のあたりに手を添えて、後ろに引くようなイメージで。
寝たきりのワンちゃんでも、足を後ろに引いた時、反射的に自分で元に戻そうとすることがあります。
それだけでも太ももの筋肉をほぐすことにつながるので、ぜひやってみましょう。
引くだけでは反応しないようであれば、同時に足先を揉むなどして刺激を与えてみるのも◎。
(3)前足〜肩のストレッチ
指〜手先〜ヒジまでのストレッチを後ろ足と同様に前足にもおこなったあとに、肩のストレッチをしていきます。
片手を肩甲骨に添えながら、優しい力でゆっくりと前後に伸ばします。ほとんどのワンちゃんが股関節よりも肩の可動域のほうが広いですが、無理は禁物です。
(4)胸の筋肉をほぐします
胸の筋肉がかたいと呼吸が浅くなる原因に。前足のつけ根〜胸のあたりを手のひらでさすってほぐしてあげましょう。
今回撮影に協力してくれたピッキーちゃん(18才)も気持ちがよくて、この表情。
全身のバランスを整えてあげることは、愛犬の年齢に関係なく大切なこと。
血流や内臓機能にも影響を与える筋肉は、正しく使わないと、次第に使えなくなってしまいます。
そうなる前に、初めの一歩を。
自宅でのストレッチ&マッサージを併用して、愛犬とのスキンシップも深めましょう。
【病院DATA】
キュティア老犬クリニック
神奈川県横浜市青葉区美しが丘4-7-28
メゾンドアミ1F
045-903-1334
受付時間9:30〜17:30
(日曜・祭祝日は休み)
HP www.cutia.jp
※整体施術料は、小・中型犬3500円・大型犬4000円(税込)。
初診の場合は、初診料1800円+カウンセリング料3200円。
2回目以降は、再診料1000円が別途かかります。
撮影/Okapi焙煎所
取材・文/永野ゆかり
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