【特集】柴を介護する#9 人より早く「老いる」犬だから。やってくる変化と心の準備を17歳のハナちゃんに学ぶ
特集『柴を介護(あい)する』シリーズでは、いつかはやってくる我が子の老後に備え、老犬介護の情報をお伝えしています。
これからシニア期に入る柴犬のオーナーさんが知っておきたいのは、老いによる変化です。犬は人よりも早く老いていくからこそ、その変化を受け入れる準備をしておきましょう。
18歳のハナちゃんと暮らす料理研究家の岸田夕子さんに、老いの兆候と変化をうかがいました。
アメリカで生まれ育ち、13歳で日本へ
料理研究家の岸田夕子さんと柴犬のハナちゃんが出会ったのは、意外なことにアメリカ。
ご家族とシカゴで暮らしていた2002年のことでした。
シニア世代の13歳のときに日本へ来ても、すぐに順応して元気に過ごしていたとか。
長生きの秘訣はアメリカでの日々にも関係があるのでしょうか?
まずは岸田さんにハナちゃんとの出会いやシカゴでのエピソードをうかがいました。
岸田さん:
「最初に犬を飼いたいと言い出したのは長女なんです。
物心ついた頃から『犬!』と言い続けていて(笑)。
あるとき夫と一緒にペットショップに立ち寄ったら、柴犬の子犬がいたんですよ。他の子と違ってアクティブで遊び回っていましたね。
しかもコロコロフサフサでかわいくて美人! 長女も次女も即決でした」
生後2カ月のハナちゃんを連れ帰り、岸田さんの柴犬ライフがスタート。
あっという間に家族の中心にいる存在になりました。
岸田さん:
「柴犬に多いと聞くアレルギーもなくて、元気いっぱいの健康優良児でした。
検診や注射以外で動物病院に行ったのはハチに刺された時だけ。
裏庭に来る野生のウサギを狩ってしまう猟犬の一面もありましたね。
脱走して娘のスクールバスの列に並んでいたりと、ハナには驚かされっぱなしでした」
ハナちゃんが8歳のころに、岸田さんとお嬢さんたちが日本へ戻り、ご主人とハナちゃんがアメリカに残りました。
岸田さんは頻繁に渡米していたので、忘れられることはなかったそう。
それから13歳のときにご主人と日本へ来ることになりました。
犬を輸入するには空港の動物検疫所で最長180日の係留検査が必要でしたが、アメリカで過去の予防接種の記録を含めた獣医の証明書、その他複雑な書類を事前に揃え農務省の許可証を取れば日本の到着空港からすぐに連れ帰れるように変わりました。
書類を揃えるのに、ご主人はかなり苦労されたそうですが、おかげでハナちゃんは空港に何ヶ月も滞在する必要が無くなり、負担を減らすことができたそうです。
元気の秘訣は運動と歯みがき
日本にやっってきた13歳のときも、ハナちゃんは元気いっぱい。
家族は老化を感じることもありませんでした。
心配だったのは、アメリカと日本の環境の違い。
シカゴの家はドアを開けたら庭を走り回れましたが、日本での住まいはマンションだったからです。
岸田さん:
「運動不足になると老化が早くなるのではないかと心配で、毎日2回近くの河川敷やドッグランに連れて行っていました。
幸いにもリードをつけるのにもすぐ慣れてくれて、日本への順応は娘よりもずっと早かったですね(笑)。
ハナは筋肉がついていて体重が12kgもあったので、共有部分を抱っこする私が大変でした」
ハナちゃんのことは英語と日本語のバイリンガルで育てていたので、近所の飼い主さんとコミュニケーションも問題なかったとか。
運動のほかに心がけていたのが、歯磨き。
岸田さん:
「犬の歯みがきの大切さも知ってほしいですね。
アメリカでは年に1回、全身麻酔をして歯石を取って、自宅でも歯みがきをするのが当たり前でした。柴犬も歯が命だと思います」
ハナちゃんの老いと生活の変化
来日後も元気だったハナちゃんですが、15歳を過ぎた頃から急に衰えが目立ち始めました。
Instagramにハナちゃんの写真を投稿していたので、岸田さんはその変化を細かく思い出せるそうです。
続いて、老いの兆候や変化などをうかがっていましょう。
認知症に歩行困難……15歳からやってきた「老いの波」
◆15歳後半:老化を実感して散歩を減らす
散歩のときに遠くまで歩けなくなってきたことで老化を感じるようになります。
また、散歩に行くためにマンションのエレベーターに乗ると鳴くようになり、「歩くのがつらいのかも」と思って散歩を1日1回に減らすことにしました。
◆16歳:後ろ足が弱ってきた
後ろ足に力が入りづらい様子でしたが、介助しなくても散歩には行かれました。
「散歩をやめると歩けなくなってしまうと思って、ハナに無理がないように出かけていました」と岸田さん。
◆16歳3カ月:認知症の兆候が現れる
座ったり寝たりする前に回るようになりました。
最初は1〜2回だったのがすぐに10回に増え、さらに増えた頃に夜鳴きとお漏らしが始まりました。
「兆候が現れてから、認知症が進行するのが早かった」と岸田さんは振り返ります。
◆17歳:歩くのがおぼつかなくなる
起きている時間には回ることが多くなり、歩行がおぼつかなくなってきた頃。
家の壁に体を預けて支えにしながら歩くこともありました。
◆17歳半:オムツを使い始めた
歩きながら漏らしてしまうことがあったので、オムツをはかせることに。
回っていても2、3歩で転んでしまうことも目立つようになりました。
◆17歳8カ月:寝たきりの状態になった
転び始めてからの衰えが早く、すぐに寝たきりになりました。
「右向きで寝ているほうが楽だったようですが、床ずれ防止のため左向きに寝かせると、首を持ち上げて『戻してほしい』とアピールしていました」と岸田さん。
また、足だけバタバタと動かしていることもありました。
◆17歳10カ月:首を持ち上げるアピールをしなくなる
「どうしても留守にせねばならなかったときに人に預けたところ、帰ってきたハナは首を持ち上げてアピールしなくなりました。環境の変化がストレスだったのでは」と心配になったそう。
それ以来、出かけなければいけないときは、お嬢さんに来てもらうことにしました。
◆17歳11カ月:食事をふやかして腹痛を防ぐ
小さいフードであっても固形物を食べた後は鳴くように。
「消化しづらくてお腹が痛くなるのかもしれない」と思い、やわらかくふやかしてあげることにしました。
老いは一気にやってくる
人間の何倍もの速さで歳を取る犬。まだまだ元気だと思っていても、老化するスピードはあっという間なようです。
シニア犬を飼うオーナーは、そのスピードを覚悟しておくことも必要なのかもしれません。
岸田さん:
「振り返ってみると、16歳のときに認知症のような症状が出てから、一気に老いが進んだように思います。
それまで元気で過ごせていたのは幸いですね。
ハナは家族との楽しい思い出をたくさんつくってくれたので、これからも一緒に穏やかに歳を重ねていけたらと思います」
ハナちゃんをやさしく見守りながら話してくださった岸田さん。
取材を終えた数週間後、4月14日20時30分に、ハナちゃんは岸田さんの腕の中で旅立ちました。18歳の誕生日を迎えてまもなくのことでした。
心からご冥福をお祈り申し上げます。
【取材・撮影協力】
岸田夕子さん
料理研究家・JSA認定サケエキスパート
オフィシャルブログ:「勇気凛りん*おいしい楽しい」(リンクhttp://yuko-kishida.blog.jp)
Instagram:@y.kishida
※お問い合わせはブログのコンタクトフォームからお願いします。
取材・文/金子 志緒
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