【さらに大反響ありがとう!】雑誌版『柴犬ライフ』編集部が贈る永久保存版コラム「柴犬情緒夜話」を全文掲載!
大反響をいただいている、雑誌版『柴犬ライフ 春号2020』。
今回は個性派ドッグトレーナー小野洋平さんに語ってもらいましょう。リアリストでいてロマンチストでもある彼が、一筋縄ではいかない柴犬という犬種を、数々の経験からじりじりとあぶりだすような、感性あふれる言葉で深堀りしていきます。
こちらの原稿は雑誌版『柴犬ライフ 冬号2020』に掲載されていますが、増補改訂しました。さらに、この号は完全に売り切れなので、貴重な全文掲載となります。
もっと柴犬のことを深く知りたいという方はぜひ、雑誌版『柴犬ライフ 春号2020』をチェックしてくださいね!
雑誌版『柴犬ライフ』絶賛発売中!
雑誌版『柴犬ライフ』は、柴犬と暮らす人々に向けた、かなーりコアな雑誌。
柴犬と暮らす楽しい一面だけでなく、彼らの難しさや保護柴の現状など、少し踏み込んだ内容もお届けしています。
絶賛発売中の『柴犬ライフ 春号2020』では、プロドッグトレーナーによる「柴犬座談会」や、多くの保護団体のみなさんから聞いた言葉など。
読み応えたっぷりの内容に仕上がっています。
緊急事態宣言が解除されたとはいえ、おうちで愛柴と過ごす時間が増えた今こそ、じっくり読んでいただきたいコンテンツが盛りだくさん。
Amazon・楽天でもお買い求めいただけますので、「我こそホンモノの柴好きだ!」という方は、ぜひこのご機会にお手にとって頂けると嬉しいです。
良くも悪くも生真面目な日本人にはぴったりな柴犬
柴犬と過ごすと気づかされることがある。
変化を望んでいないと感じる。変化が嫌いなのだと思う。
朝から夜までの流れ、変わらないことが恐らく彼ら彼女らには大切なのだ。
勘違いしないで欲しいのだが、決して何もしないことが好きということではない。
むしろ普段の生活の中で何かをすることは好きな方だ。
人により楽しさを学んだ柴犬は楽しさを求める。だが、求める時間、求め方が変わらない。
他の犬種よりも「いろいろ」を求めてこないし、こちらから「いろいろ」を提供すると戸惑うか少し引いてしまう。
いつも一緒でいいのかい? とこちらが思うほどだが、それでいいのである。
そしてそこが、今も昔も日本人の気質や性格に合ってきたんだなと感じる。
良くも悪くも生真面目な日本人にはぴったりだと思う。規則正しい日本人には合う犬という印象だ。
そして、実際に柴犬は他の犬よりも生きるための無駄を省くかのように子犬から成犬に成長していく。食べること、寝ること。ものすごくシンプルなことを大切にしている。
器量がない、容量が少ないと言ってしまえば、それまでだが、社会化不足とか経験値の問題とかそういうのとは別物の話。
ドッグトレーナーをやっていれば、社会化不足という答えにしたくなるが、犬種特性という曖昧だけど確実に存在しているものを含めて社会化を考えなければならないと思う。
飼い主への服従などは一切持ち合わせていない
柴犬は飼い主に従順だと聞くことが多い。
飼い主が好きだから? では、なぜ好きなのか?
変わりない生活をもたらしてくれるから? おやつをくれるから? ご飯をくれるから?
どれもそうは思わない。飼い主そのものが好きというよりは、その変わらない、いつもの状態が好きなのだ。
いつもの状態になることを他の犬種以上に求めているので例えば飼い主が帰宅した時などは喜ぶ。
確かに喜んでいるのだが、洋犬のそれとは何か違う。
その喜んだ姿を見たり、変化が嫌いなので、何か起こった時でも態度がなびかないので従順な様に見えるのではないか。
変化が嫌いなので従順に見える態度の裏には、ただただ「自分が嫌だから!」という気持ちが働いている気がしてならない。
飼い主のことを「大好き」「尊敬」「怖い」、そんな気持ちで従順に見えるようにしているわけではなく、ただ単に変化が嫌で側にいたりする生活をしているのだ。
その態度が大人しいので従順に見えるのかもしれない。飼い主への服従などは一切持ち合わせていない。
だが、人は見た目、犬という存在でその態度を「従順」「可愛い」「健気」などと捉える。
飼い主が帰宅するなど、一時的な感情の昂りに耐えられず喜んでしまう姿が出ちゃう時がある。
この喜ぶ姿というのが飼い主の理解を狂わせる。
あなたのことが好きで喜んでいるのではなく、「自分が思っている状態になったこと」、人に対してではなく「コト(事)」に喜んでいる。
そしてその態度を見て人は勘違いしてしまう。
あんなに「私」に喜んだり甘えたりしているのに「なんで噛むの?」にハマっていく。
その人が嫌だからではなく、その「コト(事)」が嫌だからである。
すべては「自分が嫌だから」が他の犬種よりも強く働いていると思う。
嫌なことが起これば噛む、これは犬としてはごく普通の反応だ。この「コト(事)」を上回れるのは関係性だけだ。
しかし、柴犬は他の犬種に比べて関係性で「コト(事)」の捉え方が変わりにくい。
たとえば、大好きな人に頭を撫でられたら嬉しいけど、知らない人だったら嫌になる。
それが、柴犬の場合は大好きだろうが知らない人だろうが嫌なものは嫌だという印象が強い。これはあくまで犬種レベルの大きなくくりの話である。
もちろんそうじゃない子もいる。
変化が嫌。嫌なものは嫌。
ドッグトレーナー泣かせではある。
そして必要以上に従順な部分があったりする。
そして、それはもはや従順という範囲は超えてると思う。
従順過ぎて従順じゃないという感じだ。
そしてその隙間に愛らしさを醸し出してくる。
たまらない瞬間はすべて柴のタイミングで現れる。
これがこの犬種のなんともいえない部分かもしれない。
生きる力が強いなと感じる柴犬
ドッグトレーナーという肩書きで活動しているが、人の影響やトレーニングやしつけを受けなかったらどうなるのだろうと犬種ごとに考えたりもする。
できるだけ、「素」「元」を感じたくなるし、見たくなる。
人においてはそれを邪魔しない程度の付き合い方をすればいいだけなのだが、現状お家の中に入れて「家庭犬」ともなれば話は変わってくる。
付き合い方の根底はお家の犬だろうが、野犬だろうが本当は変わらないのだけど。これはまた別の機会に。
素を考えたときに、生きる力が強いなと感じるのは柴犬だ。
生きていく勘所というかそういう部分を持ち合わせている子が多い。
あくまで犬種全体で考えた場合なので、それに当てはまらない子ももちろんいる。しかし印象としてはそうだ。
変化が嫌いだったり苦手だったりするのは、生きていく上ではとても大切なことである。
変化を自ら求め行動する時は、現状が命の危機に晒されているくらいしかないであろう。
それ以外は現状維持が命を守るのには最も効率的で有効的なのだ。
「今」を全力で生きる柴犬
人間はより良い方へ、悪い方向へ行かないように予防する力を持っている。
それは、ほかの動物よりも人間の優れた能力だと思う。
遠い過去と遠い未来に重きを置いて行動することが人にはできるが、犬たちにおいては遠い未来は無理だし、過去の経験が人間ほど活かされていないというか、犬たちの間で共有できていない。
人の過去は共有することで未来につながる部分が多くある。
熊に襲われたことはないけれど、過去に熊に襲われたことがある人からその経験を言葉、文字、映像で共有することができる。
普段あまりにも何気なさ過ぎて気にしていないかもしれないが、これはすごいことなのだ。
そして人間にはあまりにも普通過ぎて意識していないので、犬を見る時にこういう感覚も無意識に含めて犬を見てしまっている飼い主も多い。
犬たちは未来に対しての予防も過去の経験共有もできない(もしかしたらしているかもしれないが人間ほどではないだろう)。
その代わりに、現在を最も大事にしていると思う。
「今」を全力で生きる柴犬に、「今」手を抜いて過ごしているのであれば、ぼくたちは敵わない。
敵わないっていうのは戦って勝つとかそういうことではなく、生きているエネルギー、勢いなどでは敵わないということだ。
もし、吠えたり、噛んだりという人間にとって都合の悪いことが起こり、それを改善しようとして、エネルギーで負けていたらどんな方法を試してもうまくいかない。
人間が犬に対して全力を出す、というのは飼い主として犬のことを学ぶこと、満足のいく運動、食事を与えること、犬との時間を減らさないようにすることなのだ。
それは体力と気力と時間、金銭の確保と維持にほかならない。
なにか問題が起こった場合は、犬のことは置いておいて、まずはこの部分をおざなりにしていないか、飼い主は全力で向き合おう。
学ぶことをやめたり、仕事にかこつけて散歩に行く時間を減らしたり、一緒に遊ぶ時間を減らしたりすれば改善はできない。
というかそんな状態で改善を求めてはいけない。
これらを実行する時に飼い主は精神状態をフラット、もしくはそれ以上の状態で犬と向き合わなければならないのだ。
「イヤイヤ」でもやらないよりはずっといいが、それはもったいない、という言いかたができるだろう。
だって、犬がしんどい
それにしても柴犬は、飼い主が「イヤイヤ」やってることに対して物凄く敏感だと思う。
イヤイヤはストレスが溜まる。ストレスが溜まった動物のそばにいる動物もストレスが溜まる。
そのストレスにさらされ続ければ、どんな問題が起こってもおかしくない。
毎日の暮らしのなかで嫌なことがあったとして、犬に癒しを求めるのはできるだけやめた方がいいと思う。
だって、犬がしんどい。
でも、しかし、柴犬になら、ちょっと甘えてもいいのかもしれない。嫌だったら嫌だという態度をきちんと取れる犬種だから。
犬の散歩中、電話越しの喧嘩をしていてイライラしている人がいたが、犬の気持ちとしては離れていたい、というのが本心だと思う。
犬には伝わっていないと飼い主は思っているだろうが、ストレスフルな動物に逃げられないように拘束されたらどんな気分になるだろう。
いつものことで、慣れているかもしれないが、恐らくその飼い主のことは信頼していないだろう。
飼い主は事後、犬に通じない「ごめんね」を言って、自身の気持ちを整理しているだけということになる。
そういう些細なことだと思っていることの「積み重ね」で犬との関係性、犬から見た自分が出来上がる。
せめて、犬と接する時はストレスが少しでも和らいでいる状態で接して欲しい。無理な場合は接することをやめるのも大事な選択だ。
丁寧に犬との毎日を積み重ねていけば「私と犬」は特別な関係を作れると思う。
飼い主も犬も、世界で唯一の関係になれるように願ってやまない。
(ドッグトレーナー小野洋平)
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