【特集】柴を介護する#14 夜鳴き・徘徊・粗相は認知症じゃないことも!老犬介護がラクになるしつけ・習慣をプロが伝授
特集『柴を介護(あい)する』シリーズでは、いつかはやってくる我が子の老後に備え、老犬介護の情報をお伝えしています。
今回は愛犬の柴犬を介護した経験もある『ペットケアサービスLet’s』の伊藤みのりさんに、柴犬のオーナーさんが悩む「夜鳴き」「徘徊」「排泄」の問題の対策と、将来のために子犬から教えたい生活習慣についてうかがいました。
目次
「柴犬は歳をとったら認知症になる」と思い込まないで
「柴犬は認知症になるから介護が大変」と思い込んでいませんか?
柴犬のオーナーさんの三大悩みである「夜鳴き」「排泄」「徘徊」の問題は、認知症の症状とされているからでしょう。
しかし『ペットケアサービスLet’s』統括責任者の伊藤みのりさんは、別の原因も考えてほしいと言います。
伊藤さん:
「私たちのところには柴犬のオーナーさんからの問い合わせが最も多いですね。特に夜鳴きの相談が最も多く、次いで排泄と徘徊の問題です。
老犬だとすぐに認知症と決めつけられてしまいますが、これらは子犬や成犬でも見られる行動でしょう。
何歳であってもしつけや生活習慣を変えれば改善できる可能性があります。
年齢にとらわれず、まずは3つの行動の理由を考えてみませんか?」
(1)夜鳴き……要求して吠えている
夜鳴きは「夜の要求吠え」の可能性があります。
柴犬はもともと要求吠えの少ない犬種ですが、老犬になると自分の思うように動けなくなるため、吠えることで訴えるように。
さらに老犬は昼夜が逆転しやすいので、夜の要求吠えをしやすくなります。
伊藤さん:
「柴犬は賢い犬種で、オーナーさんをうまくコントロールするんです。
柴犬は家族にアピールするときに、吠えるよりもオスワリしたり人を見つめたりすることが多いと思います。
要求吠えは問題行動として扱われるのに、“要求オスワリ”や“要求視線”はむしろとても良い子に見えますよね。
要求していることは変わらないのに、オーナーさんは応えてしまっている方が多いと思います。
自分の経験を振り返ってみると、犬に動かされていることに気づかないのが日本犬のオーナーさんの特徴かも、と思ったりしますね。
犬の要求に繰り返し応えている習慣が、老犬の夜鳴きを助長する原因になるんです」
たとえば「オスワリして良い子にしているから、ちょっと早いけど散歩に行こう」というケースは、 “柴犬の飼い主あるある”ではないでしょうか。
知らずしらず要求に応えている方は要注意です。
(2)排泄……室内トイレやオムツに慣れていない
柴犬は成長すると屋外でしか排泄しなくなる犬が多い犬種です。
しかし室内トイレの習慣がないまま老犬になると、排泄の問題が起こります。
伊藤さん:
「屋外でのみ排泄していた犬が、室内やオムツをした状態で排泄するのを嫌がるのは当たり前とも言えます。
歳をとると排泄の間隔が短くなり漏らしてしまうことも。夜間に排泄したくなってオーナーさんを吠えて呼ぶこと(夜鳴き)もよくあります」
また、洋服などを身につける習慣がなかった犬だとオムツを嫌がって脱いでしまい、排泄の掃除が大変になるケースも少なくありません。
(3)徘徊……ストレスのサインや脳の疾患
ウロウロと歩き回るのはストレスのサインかもしれません。
自分の体を舐めたり、尾を追いかけたりするのも同じくストレスサイン。
このように同じ行動を繰り返す理由は、続けることでストレスを解消しようとするためなのです。
伊藤さん:
「身体機能が衰えた老犬は不安を抱えやすくストレスも感じやすくなるので、解消するためにウロウロと歩き回ります。
その様子が認知症の徘徊に見えることもあります」
また、筋力の低下や脳の疾患が原因で姿勢を維持できず、傾いたりまっすぐ歩けなくなったりすることも。
狭いところに入ってUターンができなくなるケースも、認知症が原因とは限りません。
今すぐ始めよう、介護を楽にする生活習慣
施設への介護に関する問い合わせは、柴犬オーナーさんからの相談が最も多いそうです。
伊藤さんは愛犬の柴犬を看取るまで世話をした経験を生かし、柴犬オーナーさんにアドバイスをしています。
ここでは伊藤さんがすすめる介護を楽にするための生活習慣を紹介。子犬でも老犬でもすぐに始めましょう。
◆犬の要求に応える前に指示を出す
犬がオスワリをしたり見つめたりして要求しているとき、応える前に「フセ」などの別の指示を出して、それに犬が従ったらごほうびとして犬が望むことに応えましょう。
要求に応えられないときは、無視を徹底することが重要です。
◆一日の水分摂取量は「体重×50〜70ml」
水をあまり飲まない柴犬もいるので、一日の水分摂取量(食事に含まれる水分を含む)は「体重×50ml」を心がけましょう。
人では水分不足によって認知症の症状に似た「せん妄」が起きることが報告されているので、犬も同様の可能性があります。
◆昼夜逆転の対策に「おやすみ」の合図を
寝るときに、マッサージをしたりアロマオイルを使ったりする習慣をつけておくと、老犬になってもこの合図で眠くなるので昼夜逆転の対策になります。
すでに老犬の場合で、夜泣きがひどくて睡眠導入剤を処方されている場合は、薬を飲ませてから効くまでの間にマッサージやアロマオイルを取り入れてみてください。
犬は薬で眠くなったとは思わず、この習慣を眠りの合図として覚えてくれやすいです。
◆留守中にも明かりをつけて体内時計を整える
日中留守にする場合、日が落ちても部屋が暗くならないように明かりをつけておきましょう。
家族が寝るときに明かりを消して暗くし、一緒に寝る習慣をつけるのがポイントです。
◆ハーネス、洋服、オムツを着用する練習
老犬の介護には歩行時補助ハーネス、防寒用の洋服、排泄対策のオムツの着用が必要になります。
なるべく若い頃から身につける練習を。難しい場合は体の下にオムツを敷いておくことから慣らしましょう。
◆預けることを想定して家族以外の人に触られる練習
老犬ホームに預けたりケアマネージャーに世話を頼んだりすることを想定して、家族以外の人に触られる練習を行うこと。
柴犬は接触が苦手なタイプが多いので特に重要な練習です。
◆刺激を得られる知育トイで脳トレ
日常に刺激を与えるために若い頃から知育トイを活用しましょう。ボードゲームタイプの知育トイは、首を動かせれば寝たままでも遊ぶことができます。
老犬は遊び方を覚えるまでに時間がかかることもあるので、根気よく教えてあげましょう。
◆筋トレで介護がいらない体づくりを目指す
散歩で歩くだけでは鍛えられない筋肉を意識した運動で、寝たきりにならず介護がいらない体づくりを目指しましょう。
たとえば坂道を上り下りする、後ろ向きで歩く、砂浜を歩く、木の根をまたぐ、でこぼこの場所を歩く……など。
散歩のときはもちろん、室内でもできるトレーニングです。
柴犬の気質や体質を考慮して改善を目標に
近年の研究では、14歳を過ぎた犬は認知症の発症に犬種差がないことがわかってきました。
それにもかかわらず、柴犬のオーナーさんから相談が最も多い理由とは何でしょうか。
伊藤さん:
「柴犬はプライドが高く賢い犬種なので、老犬になっても動くことをあきらめず、オーナーさんを自分の手足として使おうとします。
要求に応え続けてきたことがそれを助長し、介護が大変になってしまうのではないでしょうか。
生活習慣やしつけのことを相談できるドッグトレーナーや老犬介護士などの専門家を早めに見つけておくといいですね」
認知症に似た症状や行動には、柴犬の気質や体質が影響することもあります。
伊藤さん:
「研究が行われている段階ですが、柴犬は脳の疾患が多いという説もあります。
他にもホルモンバランスが崩れて更年期障害のようになり、イライラしたり攻撃的になったりすることも。
特に若い頃に噛んだり食事やおもちゃを守ったりしていた犬は、一旦収まったとしても老犬になると再発することが多いと感じています」
異変に気づいたら「歳だから仕方がない」「認知症だから治療法はない」と思い込まず、動物病院を受診して必要な検査や治療を行うこと。
そのうえで生活習慣の改善も目指しましょう。
犬の痛みやつらさを取り除いてから、ケアやリハビリで体のメンテナンスをしていくことが重要です。
「介護をラクして楽しむ」ことを考える
伊藤さんはオーナーさんに、「介護をラクして楽しむ」ことを提案しています。
伊藤さん:
「家族が笑わないと、犬も笑わないんですよ。介護の中にも楽しみを見つけてほしいと思います。
たとえばオムツのカバーをかわいいデザインに変えてみるとか、散歩の介助が大変ならカートを利用してみるとか、ちょっとでもいいから喜びを感じられるアイデアを取り入れてみてくださいね」
愛犬の体調に一喜一憂する日が続くと、どうしても気持ちは沈みがちになりますよね。
しかしそんなオーナーさんを見て、愛犬が元気でいられるはずがありません。
介護や生活習慣に困ったときには、『ペットケアサービスLet’s』に相談してみてはいかがでしょうか。
【施設DATA】
ペットケアサービスLet’s
東京都江戸川区中葛西2-19-13-1F
電話番号:03-3675-0250
※介護がいらない一生を目指す『犬の介護ZERO教室』を定期的に開催。シニアドッグケアアドバイザーから暮らしに関するアドバイスを受けられると好評です。
取材・文/金子 志緒
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