【取材】噛む柴犬と幸せに暮らすには?問題行動犬専門家・北村紋義さん(ポチパパ)に聞く「柴犬が噛む理由4つと解決策」
明るい笑顔やとぼけたしぐさがSNSで話題になる柴犬。しかし『柴犬ライフ』に寄せられる愛柴についての相談の8割は「噛みつき」です。
“かわいい犬”というイメージで柴犬を迎え、「思っていた柴犬ライフと違う」と悩んでいるオーナーさんが多いことを表しているのではないでしょうか。
『どんな咬み犬でもしあわせになれる』(KADOKAWA)の著者、北村紋義さん(ポチパパ)は、「問題は信頼関係ができていないこと」だと言います。
縁あって迎えた愛柴と幸せにくらせるように、付き合い方を見直しませんか?
目次
柴犬が噛む理由は「主張」と「恐怖」
今回お話をうかがう北村紋義さんは、“噛む・吠える・暴れる”という三拍子そろった秋田犬を迎えたことをきっかけに、問題行動を改善する専門家になりました。
大阪府富田林市に『保護犬達の楽園』をつくって保護活動を行い、新たな家庭へと譲渡した元・問題犬は100頭を超えています。
「噛む犬を直す方法は、噛まれてみないとわからへんな」と、体当たりで犬と向き合い続けている北村さん。
YouTubeに開設した『保護犬達の楽園』チャンネルで紹介している、家庭犬向きの“体罰を使わないしつけやトレーニング”もいま注目されています。
そんな北村さんに、“柴犬が噛む理由”を聞いてみました。
北村紋義さん(以下、北村さん):
「僕のところに寄せられる相談の8割が柴犬です。さらに相談内容の9割が噛みつきです。
こう言うとすべての柴犬が危険と思われそうですが、決してそんなことはありません。
まずは柴犬が噛む4つの理由を知ってほしいと思います」
柴犬が噛む4つの理由
(1)主張
食べ物、おもちゃ、場所などを「これは自分のだ!」と主張するために噛むことが非常に多い。
また、柴犬にとって嫌なこと、苦手なこと(触られる、抱き上げられるなど)に対して「それはやめろ!」と主張することもよくある。
(2)恐怖
怖くてとっさに噛みつくこともよくある。
急に触られたり動かれたり、ブラッシングのときに嫌なところに当たったりして、驚いたときに噛む“びっくり噛み”も少なくない。
“主張”の噛みつきに比べて、噛むスピードが速いと感じる。
(3)繊細
柴犬は日本犬の中でも繊細なところがあり、内面が不安定になりやすい印象がある。
心にずっとさざなみが立っていて落ち着かないから、些細な物事に対して大きい反応(噛みつきなど)が出やすいのかもしれない。
(4)病気
脳の病気(てんかん)や常同障害などが原因で噛みつきが出やすくなることもある。
北村さんの経験では『(1)主張』が圧倒的に多く、次いで『(2)恐怖』だとか。
保護犬を引き取ったときは、犬が入っているクレートやケージを揺らしてみて、激しく噛みついてきたら主張と判断しているそうです(家庭犬には当てはまらないこともあります)。
「かわいがりすぎ」が噛むきっかけになることも
柴犬の問題が増え始めたきっかけの一つは、生活環境の変化だと北村さんは考えます。
かつては都市部でも番犬として外飼いでしたが、2000年頃から室内飼いが増え、同じ頃から昔にはなかった問題が出てきたからです。
北村さん:
「外飼いの場合、オーナーさんと関わるのは食事や散歩、遊びなど、犬にとって良いことがあるときだけ。
それ以外の時間はひとりで気ままに過ごしていたのです。
ところが室内飼いになってから犬にとって嫌なことが増え、ひとりの時間もなくなってしまいました。
人間の夫婦や親子でも、同居してから仲が悪くなるのはよくある話でしょう(笑)」
もう一つのきっかけは、柴犬を迎えるオーナー層の変化。
北村さんが柴犬オーナーさんから受けた相談の8割は、「柴犬が好きだから」と“犬”に主眼を置くのではなく、「かわいいから」「家族団らんを増やしたいから」「子どもの遊び相手がほしいから」と“人”の都合で選んだケースだといいます。
北村さん:
「柴犬は小さくても日本犬。独立心が強く、自分より大きな動物に向かっていく狩猟犬であるため、しつけが重要。
紀州犬や甲斐犬を飼うのと同じ覚悟が必要です。
しかも繊細さを考えると、日本犬の中でも難易度が高い犬種だと思います。
初心者が愛玩犬のようなイメージで迎えると、手に負えなくなってしまうこともあるでしょう。
あとは、柴犬を猫っかわいがりしたり、甘噛みや威嚇を怖がったりする、やさしすぎる人も要注意です。
柴犬は賢いから、オーナーさんがひるむことを学んでいきます。
“うなれば主張が通る”といったことを学んでしまうと主張がどんどん強くなり、問題行動を起こすようになります。
僕は威嚇されても“なに言うてんの(笑)”と相手にしません」
室内飼いで家族との距離が近くなったところへ、愛玩犬のように接するオーナーさんが増えたことで、問題が起きるようになったということでしょう。
ただし「柴犬を室内で飼ったり初心者が迎えたりしてはいけない、ということではありません」と北村さんは言います。
実は北村さん自身もアパートで暮らしていた頃に犬を飼い始め、殺処分が迫っていた秋田犬を見かねて保健所から引き取ったこともあります。
問題行動の宝庫だった秋田犬との関係づくりを自分なりの方法で試しては失敗を繰り返し、犬との付き合い方を学んできました。
その経験から、「犬を変えるためには、オーナーが変わればいい」という考えにたどりつきました。
問題は噛むことではなく、信頼関係と主従関係
北村さん:
「問題行動を改善するためには、きっかけになった生活環境や付き合い方を変える必要があります。
そのためにはオーナーさんとの“信頼関係”と“主従関係”を見直すことから始めてください。
日本犬は先に信頼関係を結べば、主従関係も自然にできます。
オーナーさんが主張に負けないこと、犬が落ち着く時間をつくることで関係を結び直せば、噛む理由の(1)主張、(2)恐怖、(3)繊細の3つは改善できると考えています。
(4)病気は、治療に加えて、てんかんなどの発作が出にくい環境を作ることも重要です」
北村さんが伝授する信頼関係の結び方
信頼関係とは、お互いに心を許し合い、理解し合った関係のこと。
犬の“要望”に応えて、“主張”には応えないことを心がけることが大切です。
要望とは、犬が生きていくために必要な食事や散歩、ほどよい触れ合いなど。
主張とは、これらを犬が「早くしろ!」と訴えること。
また、柴犬は繊細なので、生後半年頃まではオーナーさんが保護者となって世話をする必要があります。
成長とともに主張と自立心が強くなったら、室内で飼っていても、干渉しすぎない、ベタベタ触らないといった外飼いをイメージした暮らしに変えてください。
犬が本当に必要とすることだけにオーナーさんが関わることで、信頼されるようになります。
互いに自由な時間があって初めて関係がうまくいくのは、人間も犬も同じなのです。
主従関係の結び方
上がビフォア、下がアフター。(北村さん提供)。
北村さんとの信頼関係ができた柴犬は、同じ犬とは思えないほど表情が変わる(北村さん提供)
主従関係とは、オーナーさんが主導権を握り、犬が安心して身を任せられている関係のこと。
人が主導権を握るためには、自分の生活を犬に縛られすぎないように心がけることが大切。
食事や散歩のスケジュールを決めてしまうと、犬が覚えて「早くしろ!」と主張しやすくなるので、それを防ぐためにも世話の時間をランダムにしましょう。
生活のルール(食事前には落ち着いて待つ、リードを引っ張らないなど)を教える“しつけ”をしっかり行うことも大切です。
柴犬が「こっちへ来るな!」と相手にしてくれない場合、信頼関係ができていない可能性が高いでしょう。
まずは信頼関係を築くことを優先してください。
北村さん:
「柴犬は関係づくりが大切な犬種です。
噛む問題だけを直そうとしてもうまくいきません。
ドッグトレーナーに頼んだら噛みつきが悪化した、という話をよく聞きます。
心を許していない犬に対してトレーニングをしようとすると、力づくで従わせることになりますよね。
上がビフォア、下がアフター。緊張をほぐすために時間をかけて関係をつくる(北村さん提供)
力で抑えれば、力で向かってくるようになるのは当たり前。
“問題行動の改善”と“トレーニング”は分けて考えてください」
柴犬ともっと仲良くなるコミュニケーション
頑固、そっけない、ツンデレ……などと呼ばれる柴犬。
洋犬のように“オーナーに甘える犬”、“かわいい犬”というイメージで迎えたら、そのギャップにびっくりするかもしれません。
柴犬とのコミュニケーションのコツも知っておきましょう。
北村さん:
「日本犬はいつもつれない態度で、呼んでも耳だけ向けて知らん顔をしていることがよくありますよね。
僕の愛犬の秋田犬は、下手したら反対側へ走っていきます(笑)。
信頼関係も主従関係もできていないように見えてしまいますが、ここで叱ったりトレーニングに力を入れたりすると、逆に関係が崩れるので注意してください。
オーナーさんは“うちの犬は賢いから、自分に用がないときに呼んでもこないんや”と思い込んで暮らしてください。
信頼関係も主従関係も問題ないと自分に言い聞かせて。
本当に必要なときにはそっと寄り添ってくれるのが日本犬の魅力です。
柴犬は“なんであんたの言うことを聞かなあかんねん! でもかまってください”という、ちぐはぐで人を小馬鹿にしたようなところがあります(笑)。
オーナーさんも負けずにツンデレになると案外うまくいきますよ。
甘やかす(犬の要望を聞く)ときと厳しくする(犬の主張を通さない)ときと、メリハリをつけましょう」
最後に…
「柴犬の中には扱いにくい犬がいるのも確かだけれど、大抵はなんてことない、ごく普通の犬だと思います」と北村さん。
多くを望まず、日本犬らしく、柴犬らしく。
噛みつきなどの問題行動を起こした犬でも、オーナーさんと再び一緒に幸せに暮らす方法があるのです。
【取材者DATA】
ドッグメンタリスト(問題行動犬専門家)
北村紋義さん(ポチパパ)
YouTube:ポチパパ ちゃんねる【保護犬達の楽園】
とくに扱いが難しい秋田犬や柴犬などの日本犬、暴れや噛みつきがひどい犬などの問題犬を専門として保護し、飼い主の手に負えなくなってしまった超問題犬を専門に扱う北村紋義氏(ポチパパ)。体罰を一切使わず根気よく接する、愛情あふれるトレーニングと、それによって生まれ変わった犬たちの、愛情あふれる感動物語。保護犬を迎えること、自分に合った犬の選び方、信頼関係の結び方など、北村氏による「犬との向き合い方」や実践アドバイスもふんだんに収録しています。 著者:北村 紋義
『どんな咬み犬でもしあわせになれる』
出版社:KADOKAWA
取材・文/金子志緒
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