『音もたてずにやってくる』ーアキナ山名とおまめのラブい日々#5
お笑いコンビ「アキナ」の山名文和さんは、2020年6月9日に愛柴のおまめを迎えました。保護犬施設からやってきた彼女は、当時8歳。
長年夢みてた“柴犬ライフ”を、ようやく実現した山名さん。おまめとどのように出会い、どんな生活をおくっているのでしょうかー。
アキナ山名と柴犬おまめの最高にラブい日々を、山名さんご本人が綴っていきます。
#5は、“誰かと過ごす”を改めて考えるー。
『音もたてずにやってくる』ーアキナ山名とおまめのラブい日々#5
おまめは、毎日毎日見せつけてくる。その可愛さを。昨日までの記憶が嘘みたいに消えてしまったように毎日毎日笑ってしまう。
昨日と同じ表情、昨日と同じ寝相、昨日と同じせびり方。そんな繰り返しが、何故か毎日真新しく、初めて見たいつかと等しい重量で僕の心に飛び込んで来る。
何も求めていないからかもしれない。
おまめは話すことが出来ない。急な用事があるときに、遠慮気味に泣くくらい。その用事は、おやつやトイレ。ほとんどのことを、自分では達成することは出来ない。だから、その手助けをする為に僕がいる。
当たり前だけど、寂しいときにそばにいてほしいとか、美味しいものがあるから一緒に食べたいとか、面白い小説があったから勧めたいとか、腹が立つことがあったから一緒に解決したいとか、そんなことを望んだことはない。
家の中でトイレを雑にする、食べちゃいけないものをすぐ口にする、無駄吠えをする。そんなことさえしてくれなければ、もうゴール。そして、奇跡的におまめはそういったことをしない。
ありのままに、元気に、瞬間瞬間を余すことなく豪快に居てくれさえすれば、僕が犬を飼うというずっと持っていた欲求は満たされている。
「ただ、居る」というその状態が、状況が、僕を幸せにしてくれる。その状況を重ねていくために、身の回りの事をしてあげればいい。
「おまめ」と呼んで嬉しそうに来てくれること、寝ている僕のそばで添い寝をしてくれること、抱っこをして嫌がることなくちょこんといつまでも腰をおろしてくれていること。こんなことは奇跡で僕にとってはただの儲け話。本来種の違うものが、共存し、とりわけ一緒に住むとなれば、人間の欲求を押し付けてはいけない。人間が犬を飼うというのは、まず真っ先に世話をする義務があるということを含めて考えるべきだと思う。何かを教えるのは二の次だ。
出来ると思ってしてくれないから残念がり苛立ち絶望する。
そもそも出来ないと思っているから、してくれたときに喜ぶ。いい意味で、彼女に求め過ぎないことがペットと共に暮らす術なのだと思う。
折角ペットを買って、捨てる、手放す方というのは、もしかすると何かを求めすぎたり理想の形を無意識に、作り過ぎたのかもしれない。そういう意味では保護犬を預かるときに、一、二週間のトライアルがある様に、ペットショップにも導入してもいいのかな、と思う。一、ニ週間だけでも共に過ごせば、初歩的なズレを矯正できるかどうかを確認できるし、本当に一緒に暮らしたいかを再確認し、最悪の事態を免れる割合は大きく減らすことが出来ると思う。それは返品ではない。動物は野菜じゃない。だから、最大限の保険、保証を揃えた上でそんな仕組みが出来ていいと思う。
おまめを引き取る際、僕はいくつかの事を諦めた。赤ちゃんから育てること。同じ柴犬でも色々選んでみること。健康そうな犬を選ぶこと。色んな選択をする上で大きくはその3つを捨てた。
飼う前からなにかしらの病気を持っていると知っていた。それを含めて引き取った。
腑に落とし、躊躇いなくおまめを選んだ。そうして今、美しくなっていくその姿は感謝しかない。色んなことを許してくれた気がするし、見たことのない景色と会うはずのなかった世界を僕の前にみるみる広げてくれた。
今この文章を作るのもおまめのおかげ。おまめが来なければこんなこと知り得もしなかった。感じなかった。また、感じていたことに、厚みが増した。と思っている。
僕らは、誰かと過ごしたり、何かをやっていく上で求めすぎてはいけない。何かをしたいなら、無意識に付随してくる欲求を削ぎ落とすこと。したいことだけをやっていれば、勝手に何かがついてきて、要らないものは自然とぼとぼと落ちていき、クリアになっていく。そして、時々、思いもしなかったご褒美がこっそり音も立てず目の前に落ちてくる。気づく人と、気づかない人。それに気づき、すこしだけ改まってありがとうと呟き、その喜びを心に付け加えれば、目の前に広げられた地図に新しい道が増える。どこを歩いて行けばいいかわからないけれど、わかっているのは後悔しないこと。一番ドキドキ出来る道を選び続けることをやめなければ、もう僕の人生はずうっとゴール。
【プロフィール】山名文和(アキナ)
1980年7月3日生まれ。2012年、秋山賢太とお笑いコンビ「アキナ」を結成。
レギュラー番組を多数抱えるほか、『キンブオブコント』『M-1グランプリ』『THE MANZAI』で決勝進出を果たす。
愛柴は、保護施設から迎えたおまめ(9歳)。
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