『カスになって留まる』ーアキナ山名とおまめのラブい日々#8
お笑いコンビ「アキナ」の山名文和さんは、2020年6月9日に愛柴のおまめを迎えました。保護犬施設からやってきた彼女は、当時8歳。
長年夢みてた“柴犬ライフ”を、ようやく実現した山名さん。おまめとどのように出会い、どんな生活をおくっているのでしょうかー。
アキナ山名と柴犬おまめの最高にラブい日々を、山名さんご本人が綴っていきます。
#8は、おまめを連れて救急病院へ行ったときのことー。
『カスになって留まる』ーアキナ山名とおまめのラブい日々#8
ゆっくり時間をかけて噛み潰して呑み込んでも、消化されることのないままカスになって留まる怒りがある。便になるわけでもなく、身体の中にいつまでもとどまる。なんの役にもたたない感情。指の先を蚊に刺されたような小さなストレスがずっと居座り続ける感じ。いっそ屁になって豪快な音をたてて嗚咽する様な匂いを発してもいいから、出ていってほしい。
先日、おまめを救急病院に連れて行った。
夜、散歩をしていると、突然見たこともないくらいの早足で、さも走っているかも同然に物凄いスピードで歩きだした。時折、くうぅぅぅんと鳴きながら、右前足を庇っている。
すぐに抱きかかえ、足を確認した。ガラスの破片でも踏んだのかと。目視ではわからない。痛い所に触れたのかまた鳴く。
病院は開いてない時間だったのですぐに救急病院に向かった。
先に結果を言うと、アレルギー反応だった。頂いた犬用のソーセージがおまめのアトピーに反応した様だった。
「ガラスの破片か何か踏んだんですかね」
若い女性医師は、「違うと思います」ときっぱりと否定した。
「なにか最近珍しいもの食べましたか」
「犬用のソーセージをあげました」
先生は鼻で笑った。
その笑い方は、あー、なるほど、それやね! うんうん! 心配しなくていいよ! の笑い方じゃなかった。
お前、なにしてんねん。そんなもん、それに決まってるやろ。飼い主としてどう? なにそれ? みたいな笑い方に見て取れた。
「足の裏みてください。少し赤み帯びてますよね? アレルギー反応やと思いますよ。ソーセージなんてあげたら駄目です。アトピー持ってる子になんでもかんでもあげないでください。アトピーの子には、アレルギー対策のドッグフードだけを出来るだけ与えてやってください」
一瞬で腹がたった。
なんでもかんでもあげてるわけやない。どれだけ気を遣ってるか。確かに、ソーセージは良くなかった。
でもソーセージはたまたま頂いたもので、なんなら目の前で買ってくれたし、店員さんにも直接訊いたし、おまめも嬉しいかなとあげた。
自分なりに色んなことを少しずつ試して来た一年。赤みはひいて肌も綺麗になってきた。そんなことも知らずに、先生は鼻で笑い、Tシャツ短パン丸坊主の僕を全否定した気がした。
だけど、言い返さない。この一年僕結構色々やりましたよ、というのは野暮やし、ださい。そのマウント心は、おまめにも失礼な気がした。それはいらんプライドやな、と冷静に考えながら、でも怒りに震えながら、ただ先生の話を聞いてた。
そんな気持ちになると良くない方に全て転がる。
「足の裏、消毒しとくんで、声かけてあげてください」
わかってる。やるに決まってる。腹立ってるから、ワンテンポ遅れただけ。俺、そういうの出来る人間。試すような感じで言うてこんといて。
「おまめ、すぐ終わるからな、大丈夫やでー」
と、いつもより少し声が小さくなってしまった自分がみっともなかった。目の前の最優先のおまめに申し訳なかった。
帰る頃には、おまめはもういつも通りに戻っていた。僕だけ戻れないまま帰宅した。
たぶん、向き合い方の違いだろうと思った。
僕はおまめと暮らしながら、決めたこと。
当初、かかりつけの先生に言われた、【アトピーだから、マラセチアだから、指定されたドッグフードだけあげること】この考え方を全否定する方向にチェンジした。
犬にとっての幸せは、家族と遊ぶこと(これが一番のウエイトを占めるだろう)、眠ること、ご飯を食べること、この3つだと思っている。
その3つの内の、食事が、一生一つに限定されることなんて絶対にありえないと思った。一つだけの食事でおまめを元気にするのは、可哀想過ぎる。生きる上の幸せの何割かを奪う気がした。だから、手作りで、一つ一つ出来るだけ上質なおやつを見極めながら、様子を見て与え、元気にしようと決めた。
結果として、おまめは随分良くなったと思っている。そしてなにより、人と居る時間が増えて良かったと思っている。結婚しておまめが一人の時間が減ったのも本当に良かった。
人間のアトピーにも色んな原因がある。こちらにはこのやり方が合ったからといって、全ての方に合うわけじゃない。
おまめに合ったのは、誰かと過ごす時間。充たされた時間。が大きかった様に想う。随分寂しかったんやろうな、と。
幸せに対する向き合い方は違う。
その先生は、おまめがアトピーでマラセチアなら、身体に負担をかけない食事を与えることを優先される方なんだろうと思った。勿論絶対に間違っていない。ある種、正しいと想う。たくさんのワンちゃんを診察し、そして飼い主の負担なども考えた場合、そのやり方を薦めるのは安牌。
でも僕は、おまめとだけ生活している。朝起きて、夜眠るまで、仕事以外の時間、おまめを見ている。だから、もっと掘り下げることが出来る。おまめだけの幸せを深く考えることが出来る。
そのズレから生じたそれぞれの怒り。
それでも押し付けるのは違う。どんなときも、自分のやり方が正解だと思いこむのは違う。自分を正義だと思うとき、反省はなくなる。怖い。今回はそれを存分に感じた。
ソーセージをあげちゃったことは本当に申し訳ない。褌を締め直します。
【プロフィール】山名文和(アキナ)
1980年7月3日生まれ。2012年、秋山賢太とお笑いコンビ「アキナ」を結成。
レギュラー番組を多数抱えるほか、『キンブオブコント』『M-1グランプリ』『THE MANZAI』で決勝進出を果たす。
愛柴は、保護施設から迎えたおまめ(9歳)。
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