2022年2月22日5,265 ビュー View

【特集】柴を介護する#21 犬の「認知症専門外来」ってどんなところ? 飼い主の負担が減り愛柴との時間がもっと楽しく!

特集『柴を介護(あい)する』シリーズでは、いつかはやってくる我が子の老後に備え、老犬介護の情報をお伝えしています。

柴犬の平均寿命は15歳を超えるというデータもあり、長生きをしてくれる一方、歳を重ねるごとに食事などに介助が必要になることもあります。飼い主さんと愛犬の暮らしをサポートする『Dyplus(ディプラス)西麻布』で認知症専門外来を担当する小澤真希子先生に、老犬の食事の選び方や介助の方法をうかがいました。

老犬ホーム開業のきっかけは20歳の犬の世話

 「柴犬は認知症になりやすい」と聞いて、愛柴の老後が心配な飼い主さんもいますよね。

 

20年前の研究では柴犬と日本犬系MIXに認知症が多いという結果でしたが、最新の研究では柴犬が特別に多いわけではないことが明らかになりましたが、それでも認知症になった愛柴を介護している飼い主さんは少なくありません。

 

Dyplus(ディプラス)西麻布で認知症専門外来を担当している小澤真希子先生に、柴犬の認知症の特徴をうかがいましょう。

 

獣医師小澤先生

Dyplus西麻布の認知症専門外来を担当する小澤真希子先生。獣医師、博士(獣医学)、獣医行動診療科認定医。

 

小澤先生:

「柴犬が認知症になりやすいとは言えないものの、私が動物病院で診察する認知症の犬の中では柴犬が少なくないのです。

 

鳴き声が大きくて甲高いので、飼い主さんの悩みが大きくなりがちなのでしょう。他の犬種は症状があっても我慢できてしまう範囲なのかもしれません。

 

認知症でトラブルになる柴犬は16〜17歳で、飼い主さんも高齢の方が多いのが特徴です。

 

夜鳴きや寝たきりの介護はご家族に負担がかかるので、認知症の介護はご家族だけで支えるのは難しいもの。

 

病院などのサポートを適切に使っていただけたらと思っています」

 

老化が原因で認知症のような行動が見られることもある

Dyplus, 動物病院 

認知症の診断は、認知症と決めつけないことから始まります」と小澤先生。

 

高齢期の愛犬が今までと違う行動をすると認知症を疑いたくなりますが、老化が原因になっていることも。

 

以下の5項目は認知症の症状に思われがちですが、決めつけるのは早計です。

[老化と認知症の両方に見られる行動]

□歩き続ける

□円を描くように歩き続ける

□家具や部屋の隙間で行き詰まってしまう

□家族への反応が変化する

□排泄習慣が崩れてトイレの失敗が増える

 

小澤先生:

「これらが1つだけであれば老化の可能性もあります。

 

視力が落ちてうろうろすることもあれば、関節炎のためトイレシートで踏ん張れず失敗することもあるからです。2つ以上重なると認知症の疑いが強まります

 

認知症の研究は始まったばかりで、正確な診断が難しい場合も。

 

正確な診断を受けて適切な治療につなげるためには、かかりつけ病院のみならず、『認知症外来』を設けているなど、認知症に詳しい動物病院の受診をすすめています。

 

認知症だから夜鳴きをするわけではない

柴犬

Wirestock Creators/shutterstock

 

認知症の柴犬が問題になりがちなのは、夜鳴きや徘徊です。ただし、認知症になったからこれらのトラブルが起きるわけではありません。

 

小澤先生:

夜鳴きをするのは認知症になったからとは限りません。実は認知症にはいろいろな病気がからんでいます。

 

私の経験では、深刻なトラブルを起こす犬は、認知症に加えて別の病気を患ってしまっているケースが多いですね。

 

そのため、認知症の症候(特徴的な症状)が出ているか確認し、除外診断(他の病気の可能性を除外する診断)を行うことが、認知症の診断の決め手になります」

 

よくあるのは、皮膚炎の痛みやかゆみを訴えて鳴いているパターン。

 

認知症になると毛づくろいや耳をかくなど、これまで自分自身でできていたケアができなくなるため、鳴いてアピールするのです。また、飼い主さんがケアしてあげていたとしても皮膚炎を起こしやすくなるそう。

 

まずは皮膚炎を治療して、認知症単独の症状を見極めることが診断の一歩になります。

 

認知症外来では飼い主のカウンセリングが重要

柴犬

AkaneHY/shutterstock

 

認知症は血液検査などの客観的なデータで診断できる病気ではありません。

 

犬の状態から判断するためには、飼い主さんからの情報が大きな手がかり。小澤先生は初診のカウンセリングに少なくとも60分はかけるそうです。

 

CCDR改訂版ver.2認知症診断用

小澤先生が使用している診察用の質問票。世界的に使用されて精度も高い。問題がなければ0点、5点から認知症の疑いが強まる。

 

小澤先生:

「飼い主さんからしっかりと日常生活の様子をうかがいます。

 

たとえば不眠や夜鳴きの問題であれば、1日の睡眠のパターンを聞いて原因を探っていきます。

 

夜中に起きて必ず排泄をするなら、老化や病気で尿意があって起きたり、排泄を要求して鳴いたりしていると予想できますよね。

 

客観的に情報を得ながら診察し、認知症と要求(問題行動)と身体疾患を分けていくのです」

 

このカウンセリングを受けるだけでも、飼い主さんの心の負担が軽くなるそう。

 

「原因がわからないから不安になるので、原因がわかるだけでも飼い主さんのストレスが減りますよ」と小澤先生。

 

もし愛犬が認知症と診断されたら

柴犬

Pratchaya.Lee/shutterstock

 

認知症と診断された後、小澤先生が担当するDyplus(ディプラス)西麻布の認知症外来ではどのような治療を行っていくのでしょうか?

 

小澤先生:

「認知症の初期であれば2〜3カ月に1回程度の受診していただきます。

 

進行して歩行や動作がおぼつかなくなってくると皮膚炎などのトラブルがたくさん出てくるので、身体のケアも含めて2週間に1回程度の通院をおすすめしています。

 

初診はDyplus(ディプラス)西麻布にお越しいただきますが、再診はオンライン受診が可能です。

 

遠方で通院が難しい場合、認知症外来ではオンラインで行動面のケアや介護の相談、睡眠薬やサプリメントの処方箋を行い、かかりつけでは身体的なケアを行う、という協力体制がとれます。

 

初診のときにかかりつけの動物病院の紹介状を持参していただくとスムーズです」

 

オンライン受診では、おむつの付け方やごはんの食べさせ方などの介護の方法をデモンストレーションしながらアドバイスしているそうです。

 

睡眠薬とサプリメントを組み合わせて治療を行う

柴犬

thirawatana phaisalratana/shutterstock

 

認知症の症状によっては、薬やサプリメントも使うそう。

 

小澤先生:

「国内で承認された犬の認知症の薬がないため、今は海外で承認された薬を処方しています。

 

しかし残念ながらそこまで効果が高くないというのが実情です。

 

私は薬よりサプリメントを使うことが多いですね。マイルドに全体の状態を上げてくれることを実感しています。

 

配合された栄養素が老犬をいきいきさせることには役立っているのではないでしょうか。

 

認知症に伴う不眠や不安の症状には睡眠薬が使えるので、飼い主さんに日常の様子を聞いて処方します。

 

オンライン診療の場合は薬を郵送したり、かかりつけに処方を依頼したりしています。

 

薬やサプリメントは飲みやすさも重要。苦しいことをつづけるのは老犬の治療には相応しくないと思っています。おいしく食べて元気になるのが理想ですね」

 

睡眠薬を飲ませても効かなかったというケースもあります。その理由は、老犬になると量の調整が難しくなるため。

 

薬の作用は薬を代謝する酵素の影響などに左右されます。

 

若い頃は一定だった代謝が、歳をとると落ちたり逆に病気で高まっていたりするため、量の調整が困難になるのです。

 

また、どんな薬でも体が慣れて効きが悪くなるため、小澤先生は1カ月に1回程度は、薬の調整をすることを薦められています。

 

認証外来や老犬ケアを頼って楽しい時間を増やす

犬のリハビリ

リハビリ用の設備。ウォータートレッドミルなども利用できる。

 

認知症は進行すると体の症状も出てきて、動作が鈍くなったり転んだりすることが増えます。

 

痛みしびれなどのつらい状態を緩和するために、Dyplus(ディプラス)西麻布では整体やリハビリテーション、鍼灸なども行っています。

 

小澤先生:

姿勢が良くなると元気に歩けるようになり、運動すると脳も活性化されます。

 

すると好循環が生まれ、犬も生き生きとしてくるんです。

 

認知症の介護を家族だけで行うのは非常に大変なので、認知症外来や老犬ケアを行う施設を頼って、愛犬と飼い主さんがもっと楽しい時間を過ごしてほしいですね」

 

犬の認知症は社会的に注目され、Dyplus西麻布のように認知症外来を設ける動物病院や、老犬介護を行う老犬ホームのような施設も増えています。愛犬の柴犬が認知症になったら、“ひとりで悩まない”ことが大切です。

 

【施設DATA】

Dyplus(ディプラス)西麻布

Dyplus西麻布

 

Dyplus(ディプラス)西麻布では、医師をはじめ、理学療法士・ドッグトレーナーが「予防・健康」「マナー」「体づくり」「衛生・美容」「食事」「住環境」をサポートするオリジナルカリキュラムを提供しています。

 

住所:東京都港区西麻布4-22-7

電話番号:03-5464-1028

公式サイト:https://nishiazabu.dyplus-pet.com/

 

取材・文/金子志緒

 

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