2022年3月19日2,721 ビュー View

【取材】同居男性が、咳が怖い。トラウマを乗り超えて心の距離を縮める「世界一やさしい合言葉」とは #4あんじゅ

“保護犬と家族になって感じた幸せ”をテーマに、元保護犬を迎えた柴オーナーさんに愛柴との出会いから、家族になっていくまでの過程などを伺う特集「保護犬と家族になって」。

今回は、約1年と4か月前に正式譲渡されたあんじゅちゃんを取材しました。第一印象、トライアル初日と、何の問題もなく思えたあんじゅちゃんとオーナー夫妻との関係に異変が生まれたのはトライアル3日目のこと。それでも正式譲渡を決める決め手となった、ご主人の言葉とは―。

保護柴特集

あんじゅちゃんプロフィール

柴犬

年齢&性別

現在7歳4か月の女の子。迎え入れたのは6歳のときで、出産経験があることが分かっている。

保護されていた理由

繁殖場の縮小

性格

おおらかで細かいことは気にしない! 食べることが大大大好き。

 

保護犬について知る機会が増えて…

柴犬

 

オーナーの古屋(こや)さん夫妻があんじゅちゃん(愛称:あんちゃん)を家族として迎え入れたのは、2020年10月24日のこと。

 

いろいろな選択がある中、古屋さん夫妻が保護犬を迎えようと思ったきっかけは何だったのでしょうか。

 

「あんちゃんを迎える半年ほど前に、前に飼っていた柴犬の茶々がお空に行ってしまって。

 

私はまだ早いだろうと思っていたのですが、主人が『そろそろ次の子はどう?』と提案してくれたのをきっかけに、まずは調べてみるかとなったんです」(あんじゅちゃんママ・古屋さん=以下「」内同)。

 

茶々ちゃんと暮らした14年と5カ月の間に、テレビや雑誌等で保護犬を目にする機会が増えていたと話す古屋さん。「こんなに全国に新しい家族を待っている子達がいるなら。そのうちの一頭だけでも、我が家に迎えようか」と、以前からご主人と話されていたそうです。

 

「保護犬と暮らしている知人に、信頼できる保護団体さんを教えてとお願いしたら、柴犬専用のシェルター『ドッグシェルター大阪』さんを教えてくれて。

 

家から電車1本で行けて、HPの保護犬の情報もとても詳細で信頼できそうだ……ということで、夫婦2人で“お見合い”へと向かいました」。

 

見学当日、顔を寄せ合う様子を見て

柴犬

 

『ドッグシェルター大阪』は、柴犬たちをゲージにいれず、広々とした空間でのびのび過ごせるようにしているシェルター。

 

古屋さん夫妻が時も訪れたときも、広々としたリビングで柴犬5匹ほどが思い思いの様子で過ごしていたそうです。

 

「『こんにちは、よろしくお願いします!』と部屋に入ったら、真っ先にあんちゃんが主人の足元に寄ってきて。“私どう?”とアピールし始めたんですね。

 

主人とあんちゃんが自然に顔を寄せ合っている様子を横からみて『あ、いいな』と思いました。その様子が、強く印象に残ったんです」。

 

その後、あんじゅちゃん(当時6歳)と、もう一頭、気に入った3歳の黒柴のどちらを迎えるかですごく迷い、その日は決められずに帰ったという古屋さん。

 

「自分たちの年齢を考えると次に迎える子がきっと最後になる。それなら、少しでも長くいられるように若い子がいいのかなとか。

 

家に帰ってからも決められなくて、茶々に相談してみることにしたんです」。

 

茶々に相談した夜、不思議なことが…

柴犬

トライアル初日のあんじゅちゃん。

 

茶々ちゃんが亡くなってから、仏壇に線香をあげながら幾度もさまざまなことを問いかけてきたという古屋さん。

 

「最後、病気になったときは苦しくなかった?」「辛くなかったかな?」。それまでは、それらの問いに茶々ちゃんが答えてくれることはありませんでしたが、その日の晩は違っていたといいます。

 

「『今日見学に行ったんだけど、どうしても決められなくてね。茶々、夢で教えてくれる?』と言って寝たら、その日は珍しく茶々の夢を見たんです。

 

河川敷を赤茶の柴犬と散歩している夢でした」。

 

起きてから、あの赤茶の柴犬はあんじゅちゃんだ!と確信したという古屋さん。

 

ご主人にも夢のことを話し、あんじゅちゃんを家族に迎えて良いかと聞いたところ「いいよ」と言われ、決めたそうです。

 

「茶々が『この子にしたら』と示してくれた気がして。これからどんな大変なことがあっても、挫けないで乗り越えていける、そんな気持ちになりました。

 

嘘みたいな話ですが、私にとってはお告げのような不思議な経験でした」。

 

古屋さんは、その日のうちに『ドッグシェルター大阪』に連絡。面談後、スムーズにトライアルが決定しました。

 

トライアル開始。順調と思えた3日目に異変が…

柴犬

食欲は先代茶々の上をいくというあんじゅちゃん。毎食、古屋さんがつくる手づくりごはんをモリモリ! 手づくり食だと、カロリー調整がしやすいのだとか。

 

「食事はトライアル初日からモリモリ食べ、お散歩も問題なくでき、撫でる、抱っこ、アイコンタクトもスムーズにできたので順調だ!と思ったのですが……」。

 

異変が出たのは、トライアル3日目のこと。シェルターの人からは“繁殖犬時代のトラウマか同居男性が苦手”と聞いてはいたそうですが、本当に旦那さんのことが苦手になってしまいます。

 

「主人が3階から下りてくると吠えたり、同じ部屋にいたくないと窓枠から逃げようとしたり、主人と一緒だと散歩も途中で止まってしまったり……。

 

主人も『オレ、何にもしてないんやけどな~』と困惑していて。私には懐いてくれているものの、日に日に主人を苦手になっていくので、トライアル期間後半に、主人に『どうする?』と聞いたんです」。

 

すると、ご主人からは意外な言葉が返ってきたといいます。

 

「あんちゃんは僕が癒されたり、幸せにしてもらうために迎えた犬じゃないから。君と仲良く、うちで幸せに暮らしてくれるなら、僕には懐いてくれなくても構わない」。

 

レインコートを着るのも平気。

 

こうして、正式にあんじゅちゃんを迎えました。しかし1年3か月が経った今も、旦那さんには吠えたり逃げたりする状況がつづいているそうです。

 

「特に、主人が咳や咳払いをすると、すごく怖がるんです。それも、やはり何かトラウマがあるのかなと思ったりして。

 

喉が痛いときなどの咳は仕方ないですが、主人は早食いのせいで喉をつまらせて咳払いすることも多くて。そのときは、『ちょっと、それは気をつけてあげて』と言っていますね(笑)」。

 

仲良くなろうキャンペーン」2021/2022

柴犬と家族

2022年、心新たに! 帰省中の娘さんも一緒に初詣。

 

正式譲渡されてから今日まで、古屋さん夫婦はあんじゅちゃんとの絆を深めるために、さまざまなチャレンジをしてきました。

 

「2021年の方針は“積極的に関わる!”でした。一日一回抱っこ作戦、私と主人で散歩へ行ったあとに、主人とあんちゃんだけでお散歩に行ってみる、など。

 

結果を言えば、どれも上手くは行かなくて。途中で完全に歩みが止まったあんちゃんを主人が抱きかかえて帰宅するはめになるといった感じです」。

 

柴犬と家族

何故か抱っこされてしまえばおとなしいというあんじゅちゃん。

 

1年つづけてみて、今年の正月にご夫婦でこの作戦をつづけるか話し合ったところ、ご主人が「無理に散歩させているようでつらくなってきた」と漏らされたことで、この作戦は中止に。

 

2022年は方針を180度変え、ただいま新たなチャレンジの真っ最中だそうです。

 

「2022年の方針は、あんちゃんが嫌がることは一切しない!です。

 

主人が上から下りてくるときには、必ずおやつを持ってきて、あんちゃんが主人に吠えるのをやめたらおやつをあげる、咳をしたらすかさずおやつをあげるなど。

 

『この人が来たらいいことがあるぞ!』『咳にはもれなくおやつが付いてくるぞ!』というイメージを少しずつ持ってもらう作戦です」。

 

作戦変更のかいがあってか、この冬に、旦那さんの手からあんじゅちゃんがおやつを食べたあと、手のひらをぺろぺろと舐めることがあったそう。

 

まだまだ撫でようとしては逃げられる毎日のようですが、「少し距離が近づいた気がした」と、元来大の犬好きである旦那さんは大層喜ばれていたそうです。

 

柴犬

同じく、この冬、あんじゅちゃんが旦那さんの傍で眠ることもあったそう。写真は旦那さんがうれしくて自撮りした一枚。

 

幸せを感じる瞬間

柴犬

 

あんじゅちゃんが家族になって、幸せを感じる瞬間についても聞いてみました。

 

「たくさんありすぎて、難しいですね。例えば、夜、わたしの足元で眠ってくれるときでしょうか。掛布団に重しがされているみたいで動きづらいんですけど、うれしいです。

 

お留守番の長い、短いにかかわらず、私が帰宅すると全身で喜びを表現してくれるときも。

 

私の手づくりごはんをモリモリ食べてくれるときや、周囲の匂いを嗅ぎながら嬉しそうに散歩したり、夏はへそ天でくつろいだりしているのを見たときも、可愛くて堪りません」。

 

柴犬

 

話しながら、目尻が下がる古屋さん。その他、家近くの緑の多い公園で、一緒におやつを食べる“お茶タイム”も大好きなひとときだそうです。

 

柴犬

公園の傍で、一緒に見る夕焼けが美しいのだとか。

 

「正直うちに迎えて3か月ほどは葛藤が多くて。あんちゃんは、本当にうちで良かったのかな。女性だけで暮らす家に引き取られた方が幸せだったんじゃないかなと……。

 

でも、そんな風に悩む私に、知り合いが『犬はよそ様と比べたりしないし、今を生きてるはず』と言葉をかけてくれて。それからは吹っ切れました。

 

今は、悩むのをやめた代わりに『うちに来てくれてありがとう、大好きだよ』『お父さんは優しいよ、あんちゃんと仲良くなりたいんだよ~』などと毎日たくさん話しかけるようにしています。少しでも伝わるといいなって」。

 

柴犬

合言葉は「気長に行こう」。今の楽しみは、お気に入り散歩スポットに桜がさくこと。

 

それでも心配になったときには、ご主人が『気長に行こうね』『まぁ、僕には一生懐かなくても構わないんだから』と、はじめと変わらぬ言葉をかけてくれるのだそうです。

 

保護犬を迎える人へのメッセージ

柴犬

 

最後に、これから保護犬を迎える人へメッセージをいただきました。

 

「オーナーさんが思い描く犬との暮らしを事前にイメージして、そのライフスタイルに合った犬と出会えるのが理想かなと。

 

例えば我が家は、どちらかといえば、インドアで家の近くに散歩に行く程度ですが、思い切り体を動かすのが大好きな子もいますよね。

 

そのためには、犬の個性をきちんと把握している信頼できる保護団体に出会うことが大切だと思います」。

 

保護犬サイト

「ドッグシェルター大阪」に掲載されていたあんじゅちゃんの紹介ページ。犬の個性、注意点等が詳しく書かれており、希望すれば誰でも譲渡してもらえるわけではない。

 

「それと、正式譲渡のあとに、予想外の嬉しい変化や反対に困った変化が起こるケースがあるようです。そのことも、しっかりと頭にいれて寛容な気持ちで家族に迎えてもらいたいなぁと思いますね」。

 

あんじゅちゃんと古屋さんの“仲良くなろうキャンペーン 2022ver.”は、まだまだ始まったばかり。

 

“日々の小さな前進”を見逃さず、そのとき、そのときの幸せを家族みんなでつみ重ねた先に――。

 

古屋さんご夫妻とあんじゅちゃんの心の距離が今以上に近づいていくのを、ご主人のお言葉を借りるなら「気長に」、見守っていきたいものです。

 

 

取材・文/浅田よわ美

 

 

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