2022年7月1日17,186 ビュー View

『帰り道』ーアキナ山名とおまめのラブい日々#17

お笑いコンビ「アキナ」の山名文和さんは、2020年6月9日に愛柴のおまめを迎えました。保護犬施設からやってきた彼女は、当時8歳。

長年夢みてた“柴犬ライフ”を、ようやく実現した山名さん。おまめとどのように出会い、どんな生活をおくっているのでしょうかー。

アキナ山名と柴犬おまめの最高にラブい日々を、山名さんご本人が綴っていきます。

#17は、ある帰り道の出来事ー。

『帰り道』ーアキナ山名とおまめのラブい日々#17

地下鉄を上がり、最寄りのコンビニで箱のアイスクリームを買う。シュガーコーンにバニラが乗ってチョコがかかった六本入りのやつ。大通りから一本折れて、歩いて数分のただ家に着くまでの道。

 

夕陽が沈みきって間もないうす暗がりの、夜と呼ぶにはまだ早いその時間を歩くのが好きだ。

 

風は気持ちよくて、さっきまでのうるさい国道はすぐに忘れる。

 

アイスクリームを提げた僕は少し無敵だ。

帰り時間が早いと今夜は何をしようか可能性が無限になる。加えて、アイスクリームがあるのだから、それはもう、それはもう。

おまめが身体を震わせのそっと出てくるか、袋のかさかさと立てる音に自分のおやつじゃないかと勘違いして小走りでやってくるか、家に着くのが楽しみで、楽しみだからいっそ着かなければいいのにと思う。いじわるとかじゃなくて。

柴犬ライフ,アキナ山名,おまめ

撮影:山名文和(アキナ)

 

この街を出ていく人間は少ないみたいだ。だから、並ぶ住居も新しくなく、戸建てが多く建物は低い。そのおかげで空は大きくて、すぐに月を見つけることができる。勿論満月は素晴らしいけど、触れるだけで折れそうな切った爪のような月もなかなかいい。路地が多く、どこを曲がってもひょいひょいと通り抜けることができる。おまめは毎日自由に歩き回る。色んな路地をぐるぐると。把握出来ていな路地に行くと途端に歩みは遅くなる。

大阪市内だけど僕が生まれた町と似ている。雨が上がるとちゃんと香ばしい匂いがしてくれる。道に面した住居の窓からは、こちらもちゃんと夕飯の匂いとテレビの音がする。生きている音と匂いが充満している。昭和の雰囲気が漂っているのだ。がらりと音を立て出てきたおじいさんがこの令和の時代に肌着だったりもする。何十年も前から時間が止まっておじいさんはおじいさんのままなのかもしれない。あるいは亡くなったことに気づかない沢山の方が現在に貼り付いているのかも、と思う。そして、今と過去が溶け合ってお互いが干渉することもなく、それぞれうまくやっているのかもしれない。

柴犬ライフ,アキナ山名,おまめ

撮影:山名文和(アキナ)

 

「こんばんは」と声をかけてきたおじいさん。この方はどちらなのだろう。背中の扉は閉まっている。扉を出てきた気もするし、すうっとそこに現れた気もする。「こんばんは」と返す。門の外には丸椅子が置かれている。当たり前のようにそこに座り、ゆっくりと煙草に火を点ける。ゆっくりと吸い込まれた火の口がちりちりと音を立てて赤く燃える。いかにも旨そうに吸われるので僕も一本いいですか、と側に寄る。いいとも駄目とも言わない曖昧な返事。

 

「犬飼ってはるやろ、可愛いこんまい犬な」

「そうなんです、時々ここ通ります」

「昔おばあさんと飼うてたんや。16歳やったかな。長生きしてくれた」

「そうなんですね」

「大事にしたりいな」

 

と、眉を下げた顔は優しい。

おまめは間もなく11歳。あと何年生きてくれるだろう。家に来て2年。どこか白い毛が増えた気もする。無性に撫でたくなる。帰ったら抱っこして、ささみを一口あげよう。そろそろ病院に行かないとな。おまめにとっての天敵の季節が始まった。痒みが増す時期だ。左眼のめやにがひどい。目薬を頂いた。マラセチアのせいだと思っていた。「今のうちからさしておいてやってください。白内障の恐れがあります」と。年齢のせいなのか。そんな日は来てほしくない。出来るだけ抗いたい。

柴犬ライフ,アキナ山名,おまめ

撮影:山名文和(アキナ)

 

おじいさんは場違いなガラスの灰皿に煙草をもみ消す。哀しみはない。なにもかも乗り越えてきたんだと思う。年齢を重ねることは月日を重ねること。色んな想いを積み重ねること。悲しみに慣れていくというのは、凄いことだ。

 

「ゆっくりすうていきや」

 

おじいさんは扉を開けゆっくり家の中へ入っていく。少し覗いた扉の向こうに優しそうなおばあさんが見えた気がした。くうううんと犬の甘えた声が聞こえた気がした。生活の音。

 

アイスクリームが溶けそうですぐに揉み消し、僕も帰ることにする。

 

今日はたくさん時間がある。

 

そう。時間は沢山あるのだ。

 

 

【プロフィール】山名文和(アキナ)

柴犬ライフ,アキナ山名,おまめ

1980年7月3日生まれ。2012年、秋山賢太とお笑いコンビ「アキナ」を結成。

レギュラー番組を多数抱えるほか、『キンブオブコント』『M-1グランプリ』『THE MANZAI』で決勝進出を果たす。

愛柴は、保護施設から迎えたおまめ(10歳)。

 

 

いいなと思ったらシェア

おすすめ記事

特集

特集一覧

  • 柴犬,Ta-Ta,タータ