2022年7月5日5,487 ビュー View

『家庭菜園の罠』ーKIKI連載・お転婆姉妹の椿と柊 #8

モデルや執筆家、写真家として活動するKIKIさんは、東京と逗子の二拠点で「柴犬ライフ」を満喫中。愛柴の名前は椿(つばき)で、キツネ顔とたぬき顔のハーフさん。そして忘れてはならないのが、KIKIさんの娘であり、椿の妹である柊(ひいらぎ)の存在。

お転婆娘たちが繰り出す、明るくにぎやかで、癒しに包まれた柴犬ライフー。KIKIさんご自身が、温かな文章で綴ります。

 

#8は、鎌倉の家で痛感した、家庭菜園の意外な罠ー。

『家庭菜園の罠』ーKIKI連載・お転婆姉妹の椿と柊 #8

柴犬ライフ,kiki,モデル

鎌倉の家の庭には、小さな畑スペースがあった。以前の住人から家を受け継ぐときに、「土が元気だから、放ったらかしでも大丈夫」と聞いていたので、庭仕事にはあまり自信はなかったけれど、家庭菜園を始めてみた。

 

たまたま知人から苗をもらえることになったので、初めの年に植えたのはトマトだけ。本当に放ったらかしにしていたら、勢いよくどんどんと横に伸びていき、花が散って、青い実が地べたについたまま実ったあたりで、何かおかしいぞ? と気づいた。どうやらトマトは、竿を立てて、上に誘導するらしい、と後になって知るくらいに素人だった。

柴犬ライフ,kiki,モデル

photo:KIKI

 

とはいえ、初年度は、そんなおおらかな育て方でも、トマトはつぎつぎに実り、数え切れないほどの収穫ができた。夏の暑さが落ち着いてくると、青い実が赤く色づくことなく、たくさんついたままになっていたので、それを収穫して、砂糖と一緒に煮て自己流トマトチャツネを作って、カレーを作るたびに隠し味に使ったりもした。

 

初年度の豊作経験で調子に乗って、翌年は畑の広さはそのままに、野菜の種類を増やすことにした。トマト用の竿を買いにホームセンターに行ったときに、たくさんの種類の野菜の苗や種を売っていたのが印象に残っていたからだ。それから、毎年、少しずつ内容を変えながら、トマトをはじめ、ゴーヤ、ナス、キュウリ、そしてパクチーなどのハーブを育てた。食べるためにではなく、見た目を楽しみたくて、ヒョウタンを植えた年もある。

 

そんなふうに毎年春先から、庭の一角での小さな家庭菜園が定番化していたので、椿がうちにやってきた年も、数種類の野菜が育ち始めていた。その畑は、椿にとって、他の芝生スペースと変わらず、すべてが遊び場になる。耕されたふかふかの土の感触も楽しかったようで、たびたび侵入された。「あー! ダメ!」とつい声は出てしまうのだけど、もちろん叱っても仕方がない。

柴犬ライフ,kiki,モデル

photo:KIKI

 

たいていは放っておいたけれど、困ってしまったのは、野菜によっては、葉が食べられてしまうことだ。椿がとくに気に入っていたのは、ナス。葉を食べられてしまうと、成長も止まる。一個だけ立派に育ったナスを収穫することができたけれど、その年はそれきりになってしまったのだった。

 

そんな椿には困ってしまったけれど、それ以上に、声を荒げたくなる輩たちもいた。たわわになる赤いトマトは目立つのか、2年目からは、カラスの襲撃に遭うようになった。大家さんにネットを被せるといいと教わって、それで凌げるようになった。けれど、カラスが来なくなったら、こんどは、台湾リス。こっちの方がもっと厄介で、どうやってかネットの目を潜って野菜を食べていくのだ。そんなわけで、段々と面倒になって、家庭菜園はだんだんと縮小していってしまった。

 

唯一、栽培が続いたのはゴーヤだ。軒先から吊るしたネットにぐんぐんと蔦をからませて伸びていき、小さな黄色の花が散ると、そこにゴーヤの赤ちゃんが実っている。ゴーヤは本当に手がかからず、食べ切れないほど実るので、そのまま放っておく。そうすると、実は黄色くなり、熟して爆ぜると中から赤い種が散って出てくる。そうやって種が自然と畑に撒かれるので、最初の年だけ苗を買い、その後は、毎年、放ったらかしの雑草だらけの畑の土の中から蔦が伸びてくるのだ。ゴーヤの葉っぱも実とおなじ匂いがするけれど、やっぱり苦味があるのか、椿も食べることはなく、実もカラスやリスの餌食になることがない。

柴犬ライフ,kiki,モデル

photo:KIKI

 

どちらかというと、椿のほうがゴーヤの〝餌食〟になっていた。

 

相変わらず、土にくんくんと鼻をつけながら畑に侵入し、わたしにコラっと叱られる。びっくりして畑から芝生の方へ飛び去ろうとする椿が、緑色のネットに引っ掛かるのだ。わたしが叱らなくても、家の中にいて、しばらく椿の姿を見ていないなと探してみると、ネットに引っ掛かっていたことも何度かあった。ワンとも言わず、何食わぬ顔で、まるでわたしここで休んでいるの、というような感じで毎度絡まっているので、思わず笑ってしまうのだった。そんなすまし顔の可愛い、おバカ椿を見たくて、ゴーヤの時期が終わってもいつもネットは張りっぱなしなのだった。

 

 

【PROFILE】KIKI

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東京生まれ。武蔵野美術大学建築学科卒業後、ファッション雑誌や広告媒体を中心にモデルとして活躍。

近年では写真家、執筆家として活動の幅を広げている。

著書は『KIKI LOVE FASHION』(宝島社)『山スタイル手帖 KIKI』(講談社)ほか

Instagram:@campagne_premiere

 

 

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