【特集】柴を介護する#23 老犬のデイサービスと世話代行を無料でサポート!「最期まで飼い続ける支援」を行う『はまじぃの家』。
特集『柴を介護(あい)する』シリーズでは、いつかはやってくる我が子の老後に備え、老犬介護の情報をお伝えしています。
今回ご紹介する兵庫県川西市のペットホテル・ペットシッター『はまじぃの家』は、売り上げを使って無料のデイサービスや介護サポートを行う“社会貢献型”施設。代表の加賀爪啓子さんが「最期まで家族と過ごせるように」と始めた、まったく新しい試みです。
利用者の半数を柴犬が占めることもある『はまじぃの家』について詳しくお伝えします。
目次
捨てられた犬との出会いが社会貢献を考えるきっかけ
社会貢献型ペットホテル・ペットシッター『はまじぃの家』の由来は、飼い主に捨てられたあるラブラドール・レトリーバーの名前です。
代表を務める加賀爪啓子さんが動物保護施設で働いていた10年前に出会い、保護された場所・西宮浜の地名にちなんで“はまちゃん”と名付けました。
いつしか親しみを込めて「はまじぃ」と呼ばれるようになった犬は、加賀爪さんがこの社会貢献型施設をつくるきっかけになったのです。
加賀爪さん「はまちゃんは初めて会ったときには、すでに顔が白くてやせているおじいちゃん犬。しかも足が悪くて立てない状態だったので、迷子ではなく飼い主に捨てられたのだろうと思いました。
それに首輪を付けていませんでしたが、跡がくっきり残っていたので……。犬を捨てる人は身元がわからないように首輪をはずすのです」。
実は捨て犬、捨て猫の中には、飼い主に捨てられたショックでそのまま亡くなってしまう子も少なくありません。
「家に帰りたい」と訴えるかのように吠え続けるはまじぃに、加賀爪さんは毎日話しかけて一緒に過ごしました。
加賀爪さん「はまちゃんはタオルで拭かれたり膝枕をされたりするのが好きでした。きっと飼い主にかわいがられていた時期があったのでは……と切ない背景が垣間見える子でした」。
どの犬も最期まで飼い主と一緒に幸せな時間を過ごしてほしい
保護施設で相談窓口を担当して加賀爪さんは、動物を捨てたい飼い主から問い合わせを受けることもありました。
飼い続けるためのアドバイスをしても、動物を捨てようと思った人が再び愛情を持つのは難しく、悲しい思いをするばかり。
加賀爪さん「捨てられる動物を減らす方法を考えたかったのですが、捨てられていく子を引き取らないといけない状況に目まぐるしく追われていて……。
目の前の命を救うのが精一杯で余裕がない、人もお金も足りない状況だったんです」。
そしてはまじぃとの出会いからもうすぐ3年が経とうとしていたある日、別れは急にやってきました。
加賀爪さん「出会ったときすでにおじいちゃん犬だったはまちゃんの年齢を考えると、がんばってくれたと思います。
精一杯介護をするつもりで、はまちゃんを私の家に連れて帰りました。大好きな膝枕もして、最期にありがとうと伝えることができました」。
はまじぃも加賀爪さんもあきらめなかったからこそ過ごせた、幸せな3年間。この別れを通し、加賀爪さんは「動物と飼い主とが最期まで幸せを感じてほしい」と強く願うようになったのです。
ペットホテル・ペットシッターを開業、老犬を無料に
はまじぃを看取ったあと、加賀爪さんは11年間勤めた保護施設を辞めて飼い続けるサポートを行う『はまじぃの家』を立ち上げます。
犬の長寿化に伴う老犬介護、飼い主の高齢化による老老介護の相談が急増していたことも後押ししました。
加賀爪さん「まずは保護施設の経験をいかせるペットホテルとペットシッターを始めました。
売り上げを使えば無料で飼い続けるサポートができると思ったからです。今までの経験から、有料にすると本当に支援が必要な飼い主に届かないので、社会貢献として無料にこだわりました」。
■『はまじぃの家』が行う飼い続けるサポート
(1)老犬のデイサービス
要介護になった老犬を対象にした無料のデイサービスです。家族が仕事で留守にする日中に預かって介護をサポートします。
(2)自宅に伺って世話を代行
犬の世話が困難になった飼い主の代わりに、自宅での世話を無料で支援する「アニマルヘルプマン」の活動を行っています。
(3)里親募集活動
飼い主がいなくなってしまった動物たちを新たな家庭に送り出す活動を行なっています。
要介護の柴犬の利用者が増えている
加賀爪さん「最近はペットホテルとデイサービスを利用する柴犬が増えています。年齢層は二極化していて、通常のペットホテルは3歳以下、無料のデイサービスは15歳前後くらい。
柴犬は長生きしてくれることもあり、要介護の度合いが高い犬が多くて、寝たきりに近い犬が半数を占める日もあります。
飼い主のみなさんが介護を限界までがんばって疲れ果てている姿を見るので、この試みが全国にもっと広まったらいいですね」。
『はまじぃの家』の利用者から届く感謝の声は、加賀爪さんやスタッフの励みになっています。ここで少し、その声を紹介します。
■経験豊富なスタッフがいるので安心です
仕事で日中は犬だけになってしまうのが心配でした。『はまじぃの家』のスタッフのみなさんは犬の介護にも詳しいので安心して預けられます。施設にいるときの愛犬の写真を送ってもらえるのもうれしいです」。
■無料のデイサービスに助けられています
「最初に老犬の預かりが無料と聞いたときにはびっくりしました。思わず“なんでですか?”と尋ねてしまいました。介護や治療でお金がかかるなか、経済的にも助けられて感謝しています」。
■社会貢献になると知り、こちらのペットホテルを選びました
「うちの犬はまだ若いのですが、どうせ預けるなら社会貢献になるペットホテルにしようと思って『はまじぃの家』に決めました。施設に向かって走って行くくらい好きな場所になっています。シニアになったらデイサービスのお世話もお願いしたいですね」。
ペットホテル・シッターを利用する柴犬へのアドバイス
加賀爪さん「飼い主のもとで寿命をまっとうしてほしいので、預かり続けるサービスよりデイサービスをおすすめしています。
朝出かけて夜帰ることがわかればルーティーンの一つになり、心細さを感じにくいのではないかと思います」。
最近柴犬を飼い始めた飼い主のなかには「愛犬を他の犬と仲良くさせたい」と希望する人も多いのですが、犬種の特性や愛犬の性格に合う預け方を考えることも大切。
そこで柴犬がペットホテルやペットシッターを利用するにあたってのアドバイスを伺いました。
■ペットホテルを利用するとき
・柴犬は環境の変化にストレスを感じやすいので、ペットホテルに預ける場合は子犬のころから施設に慣れる練習を行うのがおすすめ。
・番犬の歴史が長い柴犬は、ごく親しい存在以外を受け入れにくい犬種。部屋で他犬と自由に過ごす“ケージフリー”の預け方が、自分の柴犬に合っているかどうか確認を。
・「クレート(ハウス)」で過ごす練習をしておいてください。決まった場所で安心できる習慣が身についていればストレスを感じにくくなります。
■ペットシッターを利用するとき
・自宅に伺って世話をするペットシッターなら、犬が住み慣れた自宅で過ごせます。環境の変化が苦手な柴犬にとっては重要な選択肢の一つ。
・散歩の代行も依頼する場合は、ペットシッターと相談して脱走防止対策を。首輪やハーネスが抜けないように、小指〜人差し指1本が入る程度に調整しておきましょう。
加賀爪さん「柴犬は自宅が好きなタイプが多くて、日中には元気でも夜になると不安を感じる犬もいます。
ペットホテルに預けるときは数時間程度から練習を始めて、少しずつ時間を伸ばしていくといいですね。
長時間の利用は犬が『必ず飼い主が迎えに来る』と覚えてからのほうが安心すると思います」。
はまじぃの家を支援するためにできること
『はまじぃの家』は、有料のペットホテルとペットシッターで得た収益で、老犬や支援が必要な飼い主さんを支えるしくみです。
「動物のためにできることをしたい」と考えている飼い主さんから支持され、有料のサービスの利用者が増えています。
寄付に頼らないしくみを整えているとはいえ、動物の世話には時間も費用もかかります。遠方に住んでいて利用できない場合も、別の形で支援する方法があります。
加賀爪さん「ありがたいことに、動物の日用品や介護用品をご寄付いただくことが多いですね。デイサービスを利用していて亡くなった犬の飼い主さんから愛用品をいただくこともあります」。
加賀爪さんが勤めていた保護施設の元同僚のイラストレーターtamasistersさんとコラボレーションしたチャリティーグッズを購入することで支援も可能です。
施設を立ち上げるきっかけになったはまじぃがモデルとして登場しています。
「はまちゃんには『絶対あきらめたらあかん』ということを教えてもらいました」と加賀爪さん。
『はまじぃの家』を支援することが、多くの動物を救う社会貢献につながります。捨てられていた1頭の犬から始まった飼い続けるサポート。愛犬との幸せをより多くの犬にも広げる試みがもっと大きくなるように支援し続けたいですね。
【施設DATA】
社会貢献型ペットホテル&ペットシッター『はまじぃの家』
兵庫県川西市向陽台1-6-39 センタービル1階
電話番号:072-744-2244
取材・文/金子志緒
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