【取材】「かぶらは何でも乗り越えられる!」根拠なく信じた気持ちに応えるように、少しずつ心を開いて…。#8かぶら
“保護犬と家族になって感じた幸せ”をテーマに、元保護犬を迎えた柴オーナーさんに愛柴との出会いから、家族になっていくまでの過程などを伺う特集「保護犬と家族になって」。今回は、真っ白な毛並みの美柴・かぶらくんを取材させていただきました。子犬のように無邪気にスリッパにイタズラし、飼い主さんが居眠りすれば寄り添って眠る…。そんな犬にとって当たり前の、しかし最高の幸せを感じる暮らしを送れるようになったキッカケとは…?
かぶらくん
年齢&性別
推定5歳で迎え入れた、現在8歳の男の子
保護されていた理由
首輪とリードを着けたまま迷子になっていた
性格
穏やかで優しい
最初は一時預かりで…
オーナーの小田さん曰く「喜怒哀楽から怒を抜いた」性格だという“かぶら”くん。
警察署の隣の家に迷い込んだところを保護され、警察署から動物愛護センターへ。その後、個人で活動されている保護主さんから、小田さんへと繋がりました。
「保護主さんは、先代犬のことを投稿していたSNSでのお知り合いで、最初は一時預かりをお願いされたんです。
当時は先代犬を亡くしてすぐだったので、しばらく犬との生活は考えていませんでした。
ですが、センターでの保護期間が迫っていたのと、1カ月の期間限定ということもあり、引き受けることにしました」(小田さん=以下「」内同)。
四国から近畿まで、かなりの長旅でやってきたかぶらくん。第一印象は中々強烈だったようです。
「かぶらには申し訳ないのですが、蜂の巣でも入っているかのように頭が大きく、泥臭い柴犬という感じでした。それに臭いもすごくて(笑)。
でも単に毛の手入れがされてなかっただけで、本当は白くてフワフワで、頭も小さかったんですけどね」。
かぶらくんの名前は、この大きな頭の第一印象で浮かんだ「聖護院かぶら(カブ。京野菜の一種)」から付けられました。
居候なんです
一時預かりとしてスタートしたかぶらくんとの生活。当初はどんな様子だったのでしょう。
「すごく緊張しているという感じではなかったです。人の手も怖がらず、暴力を振るわれたような形跡もありませんでした。
表情も豊かでしたが、どこか達観したようにも見え、“居候ですので…”という雰囲気でした。
それで、まずは落ち着ける居場所をと、サークルにベッドを置いて、出入り口以外にはカバーを掛けておきました。
安心して過ごせる環境だけ与えて、後はかぶらの意思に任せようと思ったんです。
するとすぐにベッドに落ち着き、数日はほとんど動かずじっとしていました。でも目をやると、いつもこちらを見ていました」。
その後も中々出て来ないかぶらくん。抱っこは嫌がらなかったので、抱き上げて外に出し、色々と話しかけたりするうちに、少しずつ変化がありました。
「“これまでどうしてたの?”、“怖いところじゃないよ”など、意味は分からなかったと思いますが、ずっと話しかけていました。
それから抱っこもよくしていました。臭かったんですが(笑)、いきなりトリミングサロンは怖かろうと、慣れるまで3週間くらい待ちました。
そうこうしていると、自分からおどおどと出てくるようになったので、触れ合いの時間も増やしていきました」。
とにかくかぶらくんファーストで、1カ月の預かり期間中、3週間も臭いに耐える決断をした小田さん。
満を持して訪れたトリミングサロンも、その間にじっくり探されたそうです。
元保護犬も安心のトリミングサロン
ネットや知り合いの情報を頼りに探したというトリミングサロンは、元保護犬を任せるのにぴったりなところでした。
「そこは5時間ほど預けるデイケア型で、犬の気持ちやタイミングを見計らってじっくりやってくださるんです。
しかも、預ける前に一度面談をするので、犬も施設やトリマーさんに慣れられるし、人同士もお互いに知り合うことができました。
それから、トリミング中の動画を送ってくれたりもして、かぶらが段々慣れていく様子が良く分かりました。
例えば、最初はかぶらがドライヤーを嫌がったので、大量のキッチンペーパーで拭いてくれていました。
2回目は何とかOKという感じでしたが、3回目にはトリミング台でゆっくりくつろぎ始め、それを見たトリマーさんは大喜び。
安心できるだけでなく、本当に犬に寄り添ってくれている、良いサロンだなと思いました」。
かぶらくんが怖くないようにという小田さんの気持ちに、しっかり応えてくれたトリミングサロン。
元保護犬や事情のある犬を連れて行くときは、こんなサロンを探してあげたいですね。
手放せない!
きれいサッパリ、本来のキラキラとした姿に戻ったかぶらくん。ですが喜びも束の間、お別れの時が近づいてきました。
「預かっている間に、引き受けてくださる里親さんの候補も何人か見つかり、ついに最終候補まで絞られたという連絡がありました。
それで引き渡しになるはずだったのですが、最後に私たちにも家族に迎え入れるか考える時間をくださったんです。
確かに、先代犬と暮らしていた頃から、次に迎えるなら保護犬をとは思っていました。
でも私たちで本当に幸せにできるのか、それこそ先代犬に学んだお世話の大変さや命を迎える責任など、夫婦で何度も話し合いました。
ですが、一旦家族に迎えたらという前提で話し始めると、それまで“預かり”だからと抑えていたかぶらへの気持ちが溢れ出し、もう手放すことは考えられなくなったんです」。
“預かり”の小田さんにも判断の機会をくれた個人保護主さん。悩みや気持ちに寄り添うだけでなく、預かり期間中のフードやサプリもすべて準備してくれたそう。
熱心で情が深い保護主さんのおかげで、かぶらくんと小田さんは幸運な出会いを果たし、新しい家族になることができました。
因みに里親の最終候補だった方も、別の元保護犬を迎え入れ、幸せに暮らされているそうです。
見て学ぶ
いよいよ本格的に小田家の一員となったかぶらくん。持ち前の順応性を発揮して、徐々に自分の居場所を見つけていきます。
「だいたい3カ月くらいで普通に過ごせるようになったと思います。他の犬も好きで、人も慣れれば誰でも大丈夫です。
でも食べ物への警戒心は強かったですね。まず舐めて、口に入れても一度出したりして。おやつも人の手からは中々食べません。
あと、最初の頃は車に乗せると肛門嚢が全開で、車内がすごい臭いになってました(笑)。もちろん今は車にも慣れ、そんなことはなくなりました。
それから、かぶらは順応性が高いというか、何でも見て学ぶタイプだと思います。
初めてボール遊びをしたときも、最初は他の子が遊んでいるのを30分くらいじっと見ていました。それから突然一緒になって遊び出すんです。
他にも、後から思えば見て学んでいたのかなということがありましたが、最初の数日じっと動かなかったのも、私たちのことを見て慣れようとしていたのかもしれません」。
慣れさせよう、覚えさせようと無理に色々やらせなくても、じっと見ることで学んだり慣れたりできる子もいるのですね。
「かぶらは何でも乗り越えられる!」と、“根拠なく”信じ切っていたご主人のように、どんと構えて待ってあげることも必要だと感じました。
3年経って仔犬のように
かぶらくんを家族に迎えて3年が経った今、小田さんはこんなことを感じています。
「3カ月くらいでこの暮らしに慣れた後は、かぶらに特別大きな変化はなかったように思います。
でも、来た時は“達観した居候”だったのに、今では仔犬のように色々なことに興味を持ったり楽しんだりしてくれています。
食に関心のなかったかぶらが我々の食事中にテーブル下で待機していたり、最近になってスリッパにイタズラを始めたり。これはもう飽きたみたいですけど(笑)。
一緒に旅行も楽しんでいるのですが、出発の朝には置いていかれまいと部屋の入口でスタンバイしているんですよ。
イタズラでも何でも、自分を出してくれるようになったのは嬉しいですね。次は何をやり出すのか楽しみです」。
来た当初から何事もかぶらくんの意思を尊重し、しつけも最低限にしてきたという小田さんご夫妻。
そのおかげで、かぶらくんも「ここでは自分の好きなことをやってもいいんだ!」と思えるようになったのですね。
幸せをもらったのは私たち
最後に、これから保護犬を家族に迎える方や検討されている方に、メッセージをいただきました。
「この子の過去のことは分からないけど、これからは幸せにしてあげたい。迎えた時はそんな気持ちでした。
ですが一緒に暮らすうちに、幸せにしてもらっているのは自分たちの方だと気付いたんです。
元保護犬たちは、最初は怖いことやできないこともたくさんあるかもしれません。
でも、気長に寛容に見守ってあげれば、きっとどんなハードルも乗り越えてくれると思います。
その成長を側で一緒に感じられる喜びは、何物にも代えられません。何よりこのユニークな表情を見ているだけで楽しく、笑いが絶えない家になりました。
かぶらと過ごす毎日がとにかく楽しくて仕方ありません」。
散歩中やSNSで楽しそうなかぶらくんを見た方から、「元保護犬とは思えない」「保護犬を迎えてみようかな」と言われることも。
そう思ってくれる人が一人でも増えることを願いながら、小田さんは今後も愉快なかぶらくんの姿を発信していくそうです。
取材・文/橋本文平(メイドイン編集舎)
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