2022年10月17日13,819 ビュー View

『見せない一面』ーアキナ山名とおまめのラブい日々#18

お笑いコンビ「アキナ」の山名文和さんは、2020年6月9日に愛柴のおまめを迎えました。保護犬施設からやってきた彼女は、当時8歳。

長年夢みてた“柴犬ライフ”を、ようやく実現した山名さん。おまめとどのように出会い、どんな生活をおくっているのでしょうかー。

アキナ山名と柴犬おまめの最高にラブい日々を、山名さんご本人が綴っていきます。

#18は、おまめと子供とー。

『見せない一面』ーアキナ山名とおまめのラブい日々#18

柴犬ライフ,アキナ

夏の間、おまめは、すっかり寝床に来なかった。恐らく敷布団が暑かったんだろう。来たとしても、ものの五分ですくっと立ち上がりぶるると身体を震わせてからのそのそ寝室を出ていった。ため息混じりの横顔を幾度と見た夏。

 

ある夏の朝。開け放した寝室の隣の部屋でおまめがむくっと起き上がった。気配で起きた。入っては来ない。暫く目が合い、やがて廊下を歩いてそそくさと玄関に向かっていった。

「散歩いこか。そっちいくと長なるから先いっとくで」てな具合。

後から追いかけると玄関扉に張り付くように立って待っていた。

 

相当トイレに行きたかったんだろう。

こういう催促は初めてで嬉しかった。

柴犬ライフ,アキナ山名,おまめ

撮影:山名文和(アキナ)

 

夏の間は少しでも時間が遅くなると、ほとんど歩かなくなる。照りつける太陽が路面を熱くしてしまう。犬の体感温度は人間よりも幾らか高くなる。そんなことも解っているんだろうか。

「今のうちにいっとかんと、私歩かんようになるからお互いちょっとはよ起きよか」とでも。

 

まだ涼しい風が吹く朝の道を、それでもできるだけ日陰を選んでおまめと歩く。

 

子供が生まれて始まったルーティン。急に突然びたんと立ち止まり、てこでも動かなくなる時間。ゆっくりとこっちを見てくる。

「さあ、私の身体を撫で回してください」の時間。

散歩中、だいたい三回ある。ひとしきり身体を撫で回して満足すると、それまでの時間が鬱陶しかったのか、また身体をぶるんぶるんと震わせて歩き出す。

 

子供が生まれ、おまめは慣れてくれただろうか。

恐らく慣れるどうこうより寂しく感じている気がする。

おまめからしたら遊んでる時間が、半分になったから。

いつからか、ご飯を食べているとテーブルの下にやってくる。ご飯が欲しいのも勿論あるが、僕たちの足元に居たいような気もする。

柴犬ライフ,アキナ山名,おまめ

撮影:山名文和(アキナ)

 

幼い頃、弟が生まれる日、僕は泣き叫んだそうだ。お母さんを取られると思ったんだろう。少しずつそれにも慣れた。僕の記憶は、弟を両親に隠れてとびっきりあやしたこと。両親の前では弟を可愛がる自分を見せることが出来なかった。どうにも恥ずかしかった。普段見せない表情や声色を見られるのが恥ずかしかった。友達の前で初めてハットを被った姿を見せるのに似ているかもしれない。もしその姿を両親が見たら「お兄ちゃん偉いなあ。遊んであげてんの? あんた? お父さん? 文和がしっかりお兄ちゃんしてやるわ」「ほんまやな。文和、お兄ちゃんしてんのか?」こんなことを言われたら何を返せばいいのかわからない。「うん! 僕な、弟大好き。だから守ったるねん!!」こんな返しできるはずがない。だから兄という自覚が芽生えだした自分をさらけることは決して出来なかった。皆でリビングに居るときは、弟が遊ぼうと言ってきても素っ気ない返事をした。二階に上がり二人きりになった瞬間、思う存分僕なりの優しい兄に変身した。

柴犬ライフ,アキナ山名,おまめ

撮影:山名文和(アキナ)

 

夜中。ふと目を覚ます。いつも泣き出しそうな時間に子供はまだ寝ているようだ。妻は横でぐっすり眠っている。どうして目覚めたのか。気配がしたのだ。暗がりの向こうで何か動いている。耳を澄ますと「キャッキャッ」と子供の声がする。ご機嫌だ。

 

「お父さんとお母さん寝てるからお姉ちゃんと遊ぼっか」

「うん。遊んで」

「なにする? 絵本読んであげよっか」

「ううん。お姉ちゃんの毛が触りたい」

「いいよ」

「鼻も触らせて」

「いいよ」

「かさかさだ」

「うん。まだ少し眠いから。日中には湿ってるよ」

「へえー!僕と全然違うね」

「こっそりそっちのベッドにあがるね」

「すごーい。そんなに飛べるの?」

「秘密だよ。お父さんとお母さんに。まだ見せたことないから」

「見せないの?」

「うん。すごいって言われたらなんだか恥ずかしいのよ。どんな顔したらいいのかわからないから」

「わかる。僕も本当はこうやって話せるけどもう少し後にしてる。」

「どうして?」

「徐々に見せないと勿体ないから。一気に見せるとすぐに慣れちゃうから」

「大人ってすぐになれちゃうからね」

「そう、困ったもんだね。キャハハ」

「眠くなってきた?」

「うん」

「じゃあ、また明日の夜中話そうね、秘密だよ、おやすみ」

「大丈夫。まだ話せること知らないから。おやすみ」

 

居てもたっても居られず、咳払いをして僕はトイレに立ち上がる。

 

おまめと子供を通り過ぎるとき、二人はすやすやと寝息を立てている。薄目を開けている二人を僕は見逃さない。

 

 

【プロフィール】山名文和(アキナ)

柴犬ライフ,アキナ山名,おまめ

1980年7月3日生まれ。2012年、秋山賢太とお笑いコンビ「アキナ」を結成。

レギュラー番組を多数抱えるほか、『キンブオブコント』『M-1グランプリ』『THE MANZAI』で決勝進出を果たす。

愛柴は、保護施設から迎えたおまめ(10歳)。

 

 

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