【取材】柴を介護する #24 15歳で認知症、17歳で寝たきりへ。ハードな介護生活でも心に余裕をくれた「ある視点」とは。
特集『柴を介護(あい)する』シリーズでは、いつかはやってくる我が子の老後に備え、老犬介護の情報をお伝えしています。
今回は、認知症や寝たきりなどの症状と闘いながらも、17歳という年齢まで生きた仔夏ちゃんのオーナー・堤さんに、介護生活での工夫や長生きの秘訣などを伺いました。そのお話には、具体的なハウツーだけでなく、“心の持ちよう”という意味でも介護への素晴らしいヒントがあふれていました。
介護の始まり
散歩が大好きで人懐っこい女の子・仔夏ちゃん。堤さんがまだ12歳の時からずっと一緒に暮らしてきました。
性格は活発ですが怒ることはまったくなく、野菜や果物以外は何でもよく食べるお利口さん。
そんな仔夏ちゃんに変化が訪れたのは15歳の頃。初めての前庭疾患をきっかけに、認知症が始まったのです。
「前庭疾患で歩けなくなり、食欲もなくなりました。1カ月で回復したのですが、そこから認知症の症状が出始めたんです。
まず大変だったのが夜鳴きです。トイレ、水を飲みたい、歩きたいなど、2、3時間置きに要求吠えするようになりました。
私が妊娠してからは主人が対応してくれましたが、ぐずるときは私が相手をしていました」(堤さん=以下「」内同)。
ぐずり対応については、ご主人が仕事で朝が早いこともありますが、付き合いの長い堤さんの方が落ち着かせやすいこともあったようです。
「それから、“食欲異常”というそうなんですが、満腹を感じないようで、ごはんをいつまでも食べたがるようになりました」。
犬の認知症でよく見られる食欲異常。満腹にならない、食後すぐにごはんを欲しがる、何でも食べたがるなどの症状があります。
元々の食欲が違うので、たくさん食べる=NGではありませんが、それまでの愛犬と様子が違うと思ったら、お医者さんに相談してみましょう。
様々な症状を見せる認知症
ほかにも認知症の症状は色々とあったそうですが、中にはこんな寂しい変化も。
「人が大好きだったのに、誰が来ても喜ばなくなり、撫でられたり触られたりするのも苦手になりました。
私や主人に対しても、喜んで迎えるなどの反応がなくなり、他の人との区別もできなくなったみたいでした。
散歩は変わらず好きだったのですが、行く前にリードを見せても喜ばなくなりました。外に出たら尻尾は振るんですけどね。
それから、バックができなくなりました。狭いところに入り込むと、その場でじっと固まってしまうんです」。
食に執着したかと思えば、人や遊びには無頓着になったり、純粋に身体を動かす機能が働かなくなったりと、本当に様々な症状が出る認知症。
何とかしてあげたい気持ちは山々でも、なぜそんなことをするのか、その理由すら分からず途方に暮れてしまうことも。
実際に堤さんも、なぜ夜鳴きをしているのか分からず、焦るばかりだったとか。
そんなとき、ある方から聞いた「犬自身も、何で吠えているのか分からなくて困っている」という言葉が救いになったそう。
「そっか、お互いに分からないんだね、と気持ちに余裕ができたんです。
それからは理由を探して焦ることがなくなり、じゃあ一緒に夜更ししよっか、と思えるようになりました」。
自宅での皮下点滴
認知症のきっかけとなった前庭疾患は15歳の時。
この頃から、肺に腫瘍が見つかり、肝臓への転移、そして腎不全に貧血など、他の病気も次々に発症、そのケアも必要になっていきます。
「腫瘍については、年齢を考えて検査や治療の負担を避け、症状が出たら抑える緩和治療にしようと思っていました。
ですが幸い症状は出ず、月1〜2回の定期検査で様子を見ることができました。ただ腎臓の方が16歳になって腎不全になってしまい、自宅で皮下点滴をすることになりました」。
皮下点滴とは、皮膚と筋肉の間に針を入れて輸液(生理食塩水など)を注入する点滴のこと。
仔夏ちゃんは2日に1回、生理食塩水を500ml入れていました。
通院しなくてよい分、犬には負担が少ないのですが、オーナーさんにとっては本当に大変な作業です。
輸液パック・チューブ・針などのセッティングや消毒だけでも神経を使いますが、時に嫌がり暴れる愛犬に針を入れるのは、精神的にも辛いもの。
堤さんも相当に苦労されましたが、回を重ねるうち、寝る瞬間や食事中だとあまり嫌がらず、スムーズにできることが分かってきました。
ほかにも、細い注射針は痛みが少ないものの時間が長くかかることや、点滴後の膨らみを見て吸収具合が分かることなど、仔夏ちゃんのために覚えたことはたくさんあります。
“自宅でもできる”とよく言われる皮下点滴ですが、“愛情と努力があれば”と付け加える必要性を感じました。
ハーネスと車椅子
ご夫妻のお世話の甲斐あって、17歳を迎えようとしていた仔夏ちゃんですが、今度は加齢で後ろ脚が弱ってきました。
「散歩中など、歩いていると後ろ脚がつまずくようになってしまい、外出時は歩行をサポートしてくれるハーネスを着けることにしました。前脚側に装着するタイプで、インスタで動画を見て買いました。
その後さらに後ろ脚が弱ってきて困っていたら、インスタの知人から、後ろ脚側に着けるパンツタイプのハーネスをいただいて。
両方のハーネスを着け、支えてあげれば歩けるので、しばらくはそうしていました」。
ハーネスなしでは歩けなくなった仔夏ちゃんに、インスタでもう一つ有力な情報が。
「偶然同じ名前の子が車椅子を使っているのを見たんです。その車椅子が『はな工房』というメーカーのものでした。
ここの車椅子は良いと他の方からもお勧めがあり、サイトを見てみると、オーダー品なのにレンタルもできるということでお願いしました。
採寸は家から遠かったので自分でしたのですが、測り方などはメールでていねいに教えてもらえます。
それと届いた後も、装着した様子を動画で送るように言われ、その動画を基に高さ調整などのアドバイスをしてくださいました」。
年齢を考えても、いつまで使うことになるか分からない車椅子。でも身体に合ったものでないと安全で快適に歩くことはできません。
そんな仔夏ちゃんにとって、オーダーメイドのレンタルはぴったりな選択でした。
体力的にもう散歩はできませんでしたが、家の中は自分で歩けるようになりました。
家の中だけでも歩けるということが、仔夏ちゃんにとって大きなストレス解消になったことでしょう。
介護用品は早めに準備
車椅子以外にも、介護で役に立ったアイテムや工夫を聞いてみました。
「他の記事でも挙げてありましたが、『ブレスエアー®』というマットが、床ずれ防止になり、洗えてすぐ乾くので良かったです。
寝ているときにオムツから漏れてしまうことがよくあったので、マットが手軽に洗えるのは助かりました。
オムツは、最初は犬用を使っていたのですが、値段が高いので人間用に尻尾の穴を開けて使っていました。
それからお尻洗浄液も便利でした。拭くだけではかぶれが心配だし、毎回シャワーで洗うのは大変なので。
保湿成分も入っていたせいか、使い始めてからはオムツでかぶれることがなくなりました。これもインスタで使われているのを見て買ったものです」。
仔夏ちゃんが実際に寝たきりになったのは17歳になってから。ですが、15歳で前庭疾患になった時、もしかしたら寝たきりになるかもと、オムツとマットを購入したそう。
インスタなどの情報を活かして早めに準備されたことが、スムーズな介護暮らしに繋がっています。
寝たきりになって
では、寝たきりになってからはどんな暮らしだったのでしょうか。
「まず、朝は6:30に起きておしっこです。ハーネスで外に連れて行きます。その後にごはんですが、寝たきりになるまではごはん中に点滴をしていました。
寝たきりになってからはいつでも点滴できたので、輸液の吸収具合を見て決めていました。
それから9時にまたおしっこ、11時にうんちをして、軽くごはんを食べて寝ます。また16時におしっこをして、18〜19時に晩ごはんです。
トイレは時間が割と正確で、したくなると少しハアハアと息をするようになるので、そのときに外に連れ出していました。
なのでオムツは基本的に外しておくことができ、オムツでする不快感がなくなったのは良かったなと思います。お尻も洗わなくていいですしね」。
ペットシートはいつも敷いていたこと、それからおしっこのときは膀胱を圧迫する圧迫排尿だったことも付け加えられました。
それから、ごはんは腎臓ケアのドライフードをふやかし、茹でたカボチャや豆腐などを混ぜたものがメイン。ご主人が体を起こして支え、堤さんがお皿を持って食べさせます。
普通のごはんが食べられなくなった後は、ヒルズの『回復期ケア』をあげていました。横になったまま、口にシリンジで注入する“強制給餌”です。
強制給餌は、自発的に食べられない子にシリンジや手から食べさせる方法。もちろん必要なときだけ使う方法なので、行なう際はまず病院に相談しましょう。
仔夏ちゃんの視点で
最後に、仔夏ちゃんとの介護生活を振り返っていただきました。
「仔夏のしたいことに寄り添って、できることは自分でさせてあげたいとずっと思っていました。
睡眠不足になって体がきつかったり、お金もかかるし、しんどいなと思うことは色々ありました。オムツが漏れて床がすごいことになったりとか(笑)。
でも、オムツのことなんかも、床が汚れて困るのは私たちなんですよね。そう考えたら、全部私たちの都合でさせていることなんだなと。
だったら、これまで以上に仔夏の気持ちを大事にしよう、尊重しようと思ったんです」。
自分たちが介護してあげているのではなく、仔夏ちゃんが介護されやすいように頑張ってくれている。
愛犬をどれだけ大事に思っていても、この視点はなかなか持てないのではないでしょうか。
いつでも、どんなことにも一生懸命な犬たちを思えば、本当はすぐに気付くはずのこと。
実感を持って語ってくださったおかげで、すっと心に入ってきました。
※最期まで一生懸命に頑張った仔夏ちゃんですが、取材が決まってすぐに虹の橋を渡っていきました。仔夏ちゃんのご冥福を心よりお祈りいたします。
取材・文/橋本文平(メイドイン編集舎)
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