『九州上陸』ーKIKI連載・お転婆姉妹の椿と柊 #10
モデルや執筆家、写真家として活動するKIKIさんは、東京と逗子の二拠点で「柴犬ライフ」を満喫中。愛柴の名前は椿(つばき)で、キツネ顔とたぬき顔のハーフさん。そして忘れてはならないのが、KIKIさんの娘であり、椿の妹である柊(ひいらぎ)の存在。
お転婆娘たちが繰り出す、明るくにぎやかで、癒しに包まれた柴犬ライフー。KIKIさんご自身が、温かな文章で綴ります。
#10は、約2週間にわたる旅の話しー。
『九州上陸』ーKIKI連載・お転婆姉妹の椿と柊 #10
椿と一緒に、家族で九州縦断の旅。神奈川の横須賀を出発したフェリーが、福岡の新門司港に到着したのは夜9時過ぎだった。車で陸地に降り立ち、予約していた宿へ急ぐ。犬と一緒に泊まれるところを近隣に探すと選択肢はひとつしかなく、その宿の門限が夜11時。時間を過ぎると、問答無用で泊まれない、という融通の効かないものだった。宿までの道のりは1時間弱で、港の周辺もまっくら、道中もまっくら、まったく風景が見えず九州に上陸した感がしなかったけれど、とりあえずチェックインの時間に間に合ったのでほっとひと息。移動の疲れもあって、椿は持ち込んだ犬用ベッドで、人は備え付けのベッドで、倒れ込むように寝たのだった。
約2週間の旅路、初日だけでなく、犬連れでの宿泊場所を探すのはなかなかの難しいものだった。帰路のフェリーために、鹿児島方面を目指して少しずつ南下していかなくてはならない。子どもが幼いので、疲れがたまらないように、なるべくおなじ土地に2泊したい。そんなこんなで、犬連れオッケーの宿やキャンプ場に皆で泊まることもあれば、椿には車で夜を明かしてもらうこともあった。
いろいろ泊まって思ったのは、もちろん施設によるだろうけれど、安価で犬連れオッケーのところは、ちょっと残念に思うところがほとんどだった。不潔ではないのだけれど、カーペットにシミが付いていたり、匂いが少ししたり。しつけがあまりできていない子が過去に泊まったのだろうなと、人ごとながら悲しくなってしまう。長い旅だと、そうそう値の張るところには泊まれないので、無理に人とおなじ部屋にして、不快な思いをするより、気候がよい春先だったので、車中泊の方がむしろ椿にとっても、落ち着けて良かったかもしれない。
犬連れで予約したのではないけれど、思いがけず嬉しかったことも幾度かあった。長崎市内で泊まったところは、学生用の下宿の空いた部屋を一泊単位で貸し出しているところだった。たまたま大家のご夫妻が犬に好意的で、玄関先に繋がせてもらうことができたうえに、お孫さんや学生たちが出入りのたびに遊んでくれて、椿もうれしそうだった。
椿は小さいときから、いろいろな人に会っていたからか、人見知りをあまりしない。遊んでもらえそうと思ったらなおのこと、尻尾を振って自ら甘えにいく。他の犬に対しては、基準がいまだわからないのだけれど、散歩中に吠えかかることが時々あるのだけれど。ともかく、犬は環境の変化をあまり好まないというのを聞いてはいたけれど、行く先々で可愛いがってもらったり、昼間は家族皆で一緒に過ごしたりするのは、椿にとっても楽しい時間であったと願っている。
ちなみに、福岡の新門司からのルートは、平尾台、糸島、佐賀の唐津、長崎市内、島原半島の小浜、フェリーで熊本に渡り、熊本の菊池、阿蘇、宮崎の高千穂、宮崎市内、鹿児島の志布志からフェリーで大阪南港、和歌山のアドベンチャーワールド、鳥羽からフェリーで愛知の伊良湖に渡り(この伊良湖水道をわたるフェリーは私のお気に入りルートでもある)、静岡の浜名湖、そこから一気に東京へ帰った。細かなところを端折った道筋だけれど、それにしても、とにかくたくさん移動した。
椿が家に来る前、子どもたちが生まれる前、犬がいたら、子どもがいたら、きっと旅行とか全然できなくなるのだろうなと、ぼんやり思っていた。けれど、なんてことない。やる気になれば、そして移動の手段さえあれば、いろいろな旅ができることにあらためて気づいた。そして写真を見返すと、訪れた土地の風景や食べ物よりも、椿と子どもたちの写真ばかり。時々、彼らのわちゃわちゃ騒動に疲れてぐったりしたけれど、家族ひとりと欠けることなく皆で過ごすことができた今回の九州縦断の旅は、今だからこその、貴重な時間だったかもしれない。
【PROFILE】KIKI
東京生まれ。武蔵野美術大学建築学科卒業後、ファッション雑誌や広告媒体を中心にモデルとして活躍。
近年では写真家、執筆家として活動の幅を広げている。
著書は『KIKI LOVE FASHION』(宝島社)『山スタイル手帖 KIKI』(講談社)ほか
Instagram:@campagne_premiere
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