【取材】外に出るのは朝夕5分だけ。孤独で残酷な環境から保護されたジェームスは、今や保護犬・猫のために尽力する有名犬! #10ジェームス
“保護犬と家族になって感じた幸せ”をテーマに、元保護犬を迎えた柴オーナーさんに愛柴との出会いから、家族になっていくまでの過程などを伺う特集「保護犬と家族になって」。今回は、元保護犬にして、今や保護犬・猫のための支援活動に携わり、山口県岩国市観光大使やラジオDJまでこなす、嵐山の柴犬ジェームスくんを紹介します。
ジェームスくんプロフィール

錦帯橋前にて。
年齢&性別
4歳で迎え入れた、現在8歳の男の子
保護されていた理由
オフィスビルで飼われ、十分な世話をされていなかった
性格
大人しく我慢強い。人間が大好き!
耐え続けた2年半

ビルにいた頃の、無表情なジェームスくん。
オーナー・髙谷さんとジェームスくんとの出会いは、知人から聞いた里親探しのSOSがきっかけでした。
オフィスビルで最低限の暮らしをしていたジェームスくんを見兼ね、ビルのスタッフさんが里親を探していたのです。
「先代のジェームスを亡くして8カ月くらい経った頃にこの子の話を聞き、そのビルを訪ねました。
そこにいた無表情で無反応な子を見て、そしてどんな暮らしをしてきたのかを知って、思わず涙が出ました。
ずっとビルの中にいて、外に出るのは朝夕5分のトイレだけ。ビルのスタッフが帰宅した後は明かりと冷暖房を消され、休みの日にはごはんもお水も替えてもらえません。
そんな暮らしを2年半、暑い日も寒い日もずっと続けていたと聞かされ、その場で引き取ることを決めたんです」(髙谷さん=以下「」内同)。
17歳で亡くなった先代のジェームスくんが元保護犬だったことから、次に犬と暮らすならまた保護犬をと考えていた髙谷さん。
自分から探してもなかなか良縁がなかったところに、二代目ジェームスくんのSOSが届き、家族の絆が結ばれました。

先代ジェームスくん。DJ姿がかっこいい!
初日からリラックス!?

引き取られる前は、ビルの階段で寝て過ごしていました。
過酷で寂しい暮らしを続けてきたジェームスくん。初めての環境とは言え、髙谷家が安心できる場所であることはすぐに感じたようです。
「引き取ることは会った日に決めましたが、家に迎えたのは4日後でした。一度会っただけの人といきなり住むのも怖いだろうと思い、その間にもう一度会いに行きました。
保護団体は関わっていないので、我が家に連れてきてくれたのは仲介されたトリマーさんです。
検査や予防接種等もすべて引き取り後に行ないました。幸い病気やケガはありませんでしたが、トリマーさんがシャンプーした時にノミはいたそうです。

庭でおしっこ。すぐに環境には慣れてくれました。
家に落ち着くと、すぐ庭でおしっこして、散歩にもその日から普通に行きました。
抱っこや歯磨きもさせてくれ、夕食時には食卓の側でお座りしたりもしてたんですよ。
居場所はケージを用意していましたが中で閉じこもったりもせず、家中で自由に過ごしていました。寝るときも私の側に置いたベッドでちゃんと眠れていたようです」。
フードだけは色々な種類を試し、普通に食べるようになるまで5日程かかりましたが、それ以外は先代と同じように接するとすべて受け入れたというジェームスくん。
見た感じもリラックスしていて、散歩中などに人と接しても全然動じなかったそうです。
諦めと言葉の壁
迎え入れ初日から、元保護犬とは思えないような落ち着きを見せたジェームスくんですが、その理由は大人しくお利口な性格だからというだけではありませんでした。
孤独な時間を過ごす中で、“人に何かを求め、応えてもらう”という、犬にとって基本的な喜びを諦めるようになっていたのです。
そしてもう一つ、ジェームスくんが大人しかった理由が“言葉の壁”でした。当初は呼びかけても全然応えてくれなかったそうです。
「本当に大人しくて、呼んでも反応がなく要求吠えもしませんでした。だから家のどこにいるか分からなくて、しばらくは首輪に鈴を付けていました。
ところがある日、通りがかりのお店から聞こえてきた言葉にジェームスが反応したんです。びっくりしてよく聞いてみると、それは中国語でした。
この子の元々のオーナーは中国からの留学生で、その後に住んでいたビルのスタッフさんも中国の方だったので、ジェームスは中国語しか知らなかったんです」。
言われてみれば当然のことですが、犬にも言葉の壁があるのですね。もちろん今ではちゃんと日本語を覚え、言葉のコミュニケーションもできています。
先代を引き継いで
要求したり楽しんだりすることを知らないジェームスくんと、髙谷さんはどう向き合っていったのでしょう。
「実はこの子と出会ったのが先代ジェームスの追悼番組が放送された日で、我が家では“先代が連れてきたのかも”、“先代が中に入って帰ってきたんじゃない!?”などと話していました。
そんな想いもあり、最初から先代と同じように接してみたんです。すると、すごく喜んだりはしないものの、表情が和らぎ、どこか嬉しそうな感じでした。
これまで先代に良くしてくださった方々にも自然に受け入れられたので、これなら先代の“お仕事”を引き継げるかもしれないと思いました」。
実は先代のジェームスくん、自分も元保護犬でありながら、保護犬・猫のための支援活動に尽力し、大きな功績を残した犬だったのです。

チャリティーイベントにてお仕事をするジェームスくん。
地元・京都では、様々なイベント等に参加しながら、オリジナルカレンダーなどの売り上げを動物愛護センターに寄付。

ロータリークラブで動物愛護について話す髙谷さん。
また髙谷さんの出身地・山口県岩国市では、観光大使としてPR活動や啓蒙活動でも活躍していました。

観光大使として子供たちと触れ合う。
しかも、そんな活躍を伝える看板ラジオ番組(FM京都『J&M THEATER』など。ジェームスくんは『NEW J&M THEATER』に出演中)まで持っていたというから驚きです。
日々の暮らしだけでなく、そんな“お仕事”の数々も、二代目ジェームスくんは先代に導かれるように引き継いでいきました。
最初から後継者ではなく

観光大使として高齢者ホームへ慰問。
辛い日々を耐え抜き、我慢強く何でも受け入れて順応できる子になったジェームスくん。髙谷さんと出会えたことで、その能力が開花し大活躍の日々が始まりました。
一方、迎えた髙谷さんの方は、ジェームスくんの受け入れや先代からの代替わりを、どう感じているのでしょう。
「最初はとにかく可哀想な境遇から救いたいという一心だったので、先代の仕事を継がせようとか、そのために引き取ったとかいうことではありませんでした。
感情豊かに喜びを表現していた先代とは性格も全然違いますしね。今でも尻尾を振って大喜びしたりすることはほとんどないんですよ。
何でもお利口に頑張ってくれるのも、もしかしたらあの寂しい暮らしに戻りたくないから、というのが理由なのかもしれません。
それでも、私はこの子がいるだけで毎日幸せですし、この子も安心できる家や、愛してくれる家族を求めていると思うんです。

テレビ番組『週刊さんまとマツコ』で紹介されたことも。
もちろん今では、この子が先代のやってきた活動を引き継いでくれたことを本当に嬉しく思っています。
先代が遺してくれた繋がりをさらに広げて、より多くの方が寄付や支援活動に興味を持ってくださるよう頑張っていきたいです」。

昨年には、山口県岩国市にある村重酒造から、市観光大使のジェームスJr.をラベルにあしらった日本酒が発売に。売り上げの一部を動物の保護活動に寄付するというもので、地元のテレビ局や新聞社の取材を受けました。
里親探しの協力者の中には先代ジェームスくんのことを知る方もいて、“ジェームスくんのお宅に引き取ってもらえたら”という声も挙がっていたそう。
ご本人たちは自然体で出会い、一緒に暮らすために結ばれましたが、後から見ればやはり先代に導かれ、後を継ぐ使命を持って出会ったように思えてきますね。
何よりも大切なこと

嵐山をお散歩。
最後に、これから保護犬を迎える方、迎えたい方にメッセージをお願いしました。
「私が初めて一緒に暮らした犬が、元保護犬で成犬だった先代ジェームスなので、それが特別だと感じたことはありませんでした。
先代は、岩国から京都に来て知り合いもいなかった私の唯一の友だちでしたし、二代目ジェームスも、自然に愛情を注ぐことができる子どものような存在になりました。
保護犬だから、成犬だからと構えて考えず、区別も差別もない家族として接すれば、良い関係が築けるのではないでしょうか」。
寂しいオフィスビルの片隅から温かい髙谷家に迎えられ、これ以上ない先代の後継者になったジェームスくん。
順応性や自立心に、逆境に耐えた我慢強さも発揮し、どんな現場でも立派にお仕事をやり遂げています。
そして髙谷さんも、ジェームスくんの頑張りに応えるように、毎日のほぼすべてをジェームスくんとその仕事に注いでいます。
それだけ懸命に取り組み、多くの保護犬・猫の支えになって、しかも先代の遺志も込められた特別な仕事。
でも、それがどれだけ特別だったとしても、二人にとっては一番大事なことではありません。
一番大切なのは、何をしていても、一緒に過ごす時間そのものだから。
特別でも普通でも、保護犬でもそうでなくても、そんなふうに思える関係を築けたら、犬も私たちもきっと幸せになれるのではないでしょうか。

2011年東日本大震災をきっかけに、動物のための義援金活動をスタート。ジェームスJr.をイラスト化してデザインしたグッズの売上金の一部を、先代ジェームスの命日2月7日に毎年、京都動物愛護センターへ寄付しています。
取材・文/橋本文平(メイドイン編集舎)
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