【取材】保護柴2頭を迎え、人生が激変!「老犬介護の仕事」が将来の夢になり、愛玩動物飼養管理士の資格まで取得 #11きなこ&わさび
“保護犬と家族になって感じた幸せ”をテーマに、元保護犬を迎えた柴オーナーさんに愛柴との出会いから、家族になっていくまでの過程などを伺う特集「保護犬と家族になって」。今回は、きなこちゃん、わさびくんの2頭が登場。この2頭を迎えたことで、「老犬介護を仕事にしたい」という、将来の夢までできたというオーナーさん。歩けなくなったわさびくんのために歩行器を自作したりと、愛情にあふれたその柴犬ライフを伺いました。
きなこちゃんプロフィール
年齢&性別
推定5歳で迎え入れた、現在7歳の女の子
保護されていた理由
元繁殖犬で、繁殖できなくなったため(推定)
性格
食べるのが大好きなインドア派で、知らない人は苦手
わさびくんプロフィール
年齢&性別
迎えて2年になる、シニアの男の子
保護されていた理由
迷子
性格
犬も人もどんとこいの怖いもの知らず
きなこちゃんとの出会い
犬を迎えるなら保護犬をと思っていたオーナーさんご夫妻。里親募集情報サイトで見つけたきなこちゃんに会いに、保護犬カフェを訪ねました。
「そのカフェは割と大きめで、保護犬を迎えたい人だけでなく、触れ合いたい人も受け入れている施設でした。
私たちは迎え入れ目的だったので、事前に電話で結構詳しくヒアリングされ、本気で迎える気があるかを確認されたので、行く時はクレート持参です。
現地でもまた詳細にお話しがあったので、迎え入れ側のことはかなり厳しくチェックされているようでした。
逆にきなこのことについては、どんな病気があるかなどはちゃんと教えてくれましたが、保護された経緯などは教えてもらえませんでした。
それから、迎え入れ後の様子を知るためということで、インスタのアカウント開設も必要でした」(パパさん)。
ワクチンは接種済で、避妊はされておらず、病気は歯周病やパテラ(膝蓋骨脱臼)、乳腺腫瘍がありました。
また、カフェで与えているフード1カ月分を購入し、ペット保険にもその場で加入。
その保険会社が指定されていた点など、少し疑問なところもあったものの、“きなこと出会えたことが何より大事だから”と、深くは追求しなかったそうです。
散歩の後悔
きなこちゃんを迎え、まず気になったのは病気のことでした。
「ネットで近所の病院を探して、評判の良いところに行ってみました。すると先生も良い方だったので、かかりつけ医としてお世話になることにしました。
持病の歯周病、パテラ、乳腺腫瘍は、どれも経過観察で大丈夫でしたが、指の間が赤くなって膿んでいたことが判ったので、その薬だけ出してもらったと思います。
その後しばらくして避妊手術をした以外は、持病が悪化したり、ほかに病気をしたりもしていません」(ママさん)。
保護犬にはこれまでどんな状況で暮らしてきたか分からない子も多く、健康面は特に気を付けてあげたいところ。大きな問題がなく何よりでした。
ただ、今でも後悔しているという問題が別にありました。
「散歩や人が苦手になってしまったことです。今はなるべく人の少ない時間に散歩していますが、すぐ帰りたがるし、来客があると固まってしまいます。
最初の頃、散歩に行った時に、慣れてないな、外に出たことがなかったのかな、とは思ったのですが、怖がってまではいない印象だったので、普通に散歩に行っていました。
ですが、実は人への警戒心や怖さがかなりあって、人がたくさんいる場所も、そういうところを歩く散歩という行為も、“怖いもの”と覚えてしまったようなんです。
それに、散歩中に子どもがパッと飛び付いてきたこともあって、それ以来、特に子どもはダメになってしまいました」(パパさん)。
どんなに愛犬を大事にしようと思っても、その子のことを最初からすべて理解できるはずはありません。背景の見えない元保護犬ならなおさらです。
きなこちゃんの散歩も仕方のないことだと思いますが、オーナーさんは“もっと慎重に、最初は誰もいない安全な所から慣れさせれば良かった”と後悔しているそうです。
わさびくんとの出会い
もう一頭の元保護犬、わさびくんとはどんな出会いだったのでしょう。
「きなこを迎えて、保護犬のことをもっと知りたいと思うようになり、色々調べたり勉強したりしていました。
その中で、ある愛護センターの保護犬情報をフォローしていたのですが、日々流れてくる保護情報をただ見ているだけなのが苦しくなってきて。
何かできることはないかと思い、一時預かりに応募して、わさびを迎えることになったんです。
期間はオーナーさんが見つかるまでで、病気の治療等は私たちの責任で行ない、費用はオーナーさんが見つかったら負担してもらうことになっていました。
受け入れの誓約書等も書きましたが、きなこを引き取る時よりは厳しくないというか、“無理せず、飼育できなくなったら言ってください”という感じだったと思います」(パパさん)。
わさびくんもパテラと歯周病があったほか、白内障と認知症、それに腎臓も少し悪かったそうです。
そして10カ月後には前庭疾患になり、そこから本格的な介護も必要になってきました。
また、オーナーさん探しは保護団体から譲渡会の斡旋等があるものの、自分たちで動くことが前提だったそうです。
結局、わさびくんに新しいオーナーさんは見つからず、預かりからそのまま迎え入れとなりました。
徘徊対策は試行錯誤!
高齢であることは判っていたものの、想定外の早さで訪れたわさびくんの介護生活。特に必要だったのが徘徊対策です。
「いつか介護も必要になるだろうとは思っていましたが、迎えて10カ月で介護生活が始まるとは正直思っていませんでした。
前庭疾患から徘徊が多くなり、視力も落ちたのですが、まだ食欲もパワーもあるし、身体を動かしたいという気持ちもありました。
それをどうしたら解決してあげられるか、というのが最初の課題でした。
まずやった対策は、部屋中の角を保護することです。でも角以外のところにぶつかるのも痛そうだったので、次は子ども用のビニールプールに入れてみました。
しばらくはそれで安全に歩けていたのですが、パワーがあるし外に出たい気持ちもあったようで、端にぶつかった時に飛び出すようになったんです。
そこで高さのあるネットタイプのベビーサークルに変え、今度こそ大丈夫と思っていたら、その1週間後、足腰の衰えから自力で立てなくなってしまいました」(パパさん)。
試行錯誤を重ねてやっと答えに辿り着いたと思ったら、それが根底から覆される⋯。普通ならちょっとガックリきてしまいそうな状況です。
しかしご主人は諦めることなく、どうやったら今のわさびくんでも歩けるようになるかを研究し、柱と回転体の付いた歩行器を自作。
柱を中心に、独りで円を描いて歩くことができる大掛かりな装置で、遂にわさびくんの“動きたい!”を安全に叶える環境ができあがりました。
お利口すぎるお姉さん
わさびくんは歩行器以外にも何かと手がかかる上、お子さんも生まれたばかりというオーナーさん一家。
そんな中、きなこちゃんはとてもお利口にお姉さん役を務めていますが、オーナーさんはそのことも少し気になっています。
「わさびと子どもに手がかかるので、どうしてもきなこのことが後回しになってしまうんですよね。
でもきなこはちゃんとお利口にしてくれていて、わさびや子どものことを気遣ってくれたりするんです。
本当は遊びたいのに、自分の番が来るのをじっと待っていて、きなこが寂しさやストレスを溜めていないかが心配です」(ママさん)。
迎えた当初、きなこちゃんはオーナーさんご夫妻にまったく関心を示しませんでした。
そんなきなこちゃんに、お二人は“初対面の人と接するように”距離感と気遣いをもって接したそう。
すると、まずいつも一緒にいた奥さまに、それからお仕事で留守がちだったご主人にも、次第に心を許すようになっていきます。
初めて自分の胸に頭を預けて寝てくれた時。初めてドッグランで自由に走り回る姿を見た時。そんなきなこちゃんの“初めて”が、お二人の宝物になりました。
本来ならもっと早くに味わえていたはずの普通の喜びを、日々少しずつ手に入れているきなこちゃん。
お姉さん役を頑張る今の日常にも、きっと喜びを感じているのではないでしょうか。
将来は老犬たちのために⋯
元保護犬の二頭と暮らした経験、そしてわさびくんの介護の経験を活かし、将来は仕事として老犬介護に関わりたいと考えているオーナーさんご夫妻。
単に経験したからというだけでなく、犬への想いが益々強くなったことも大きな理由ですが、特にご主人の“犬へのハマり方”がすごいのだとか。
「きなことわさびを迎えて、本当に人生が変わったと思うくらい、暇さえあれば犬のことを考えるようになりました。
保護犬や介護のことはもちろんですが、食事や栄養管理、散歩やトレーニングなど、調べたり学んだりするのが楽しくて、もう生き甲斐になっています。
愛玩動物飼養管理士の資格を取ったのも、最初は二頭のためだったのですが、介護が必要な老犬が多いことを知り、そんな犬たちのために仕事がしたいと思うようになりました。
介護をしていて大変なこともありますが、要求に応えてあげられた時は、本当に嬉しいんですよね」(パパさん)。
日向ぼっこしたり河原をのんびり歩いているわさびくんを見るのが幸せという奥さまも、お子さんが大きくなったら老犬介護の仕事をやりたいそう。
そんなお話を伺って、思わず“絶対やってください!”と言ってしまうほど、お二人は深い犬愛と、“もっと犬たちの力になりたい”という気持ちに溢れていました。
飼育放棄や不当なビジネスなどで犬を不幸にする人がいる一方、お二人のように犬を幸せにしようと頑張る方もいます。
“不幸にする側”に憤り嘆くだけでなく、私自身も“頑張る側”の人間でいなければと、気持ちを新たにさせていただいた取材でした。
取材・文/橋本文平(メイドイン編集舎)
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