2024年7月5日8,284 ビュー View

『主人骨折』ーアキナ山名とおまめのラブい日々#24

お笑いコンビ「アキナ」の山名文和さんは、2020年6月9日に愛柴のおまめを迎えました。保護犬施設からやってきた彼女は、当時8歳。

長年夢みてた“柴犬ライフ”を、ようやく実現した山名さん。おまめとどのように出会い、どんな生活をおくっているのでしょうかー。

アキナ山名と柴犬おまめの最高にラブい日々を、山名さんご本人が綴っていきます。

#24は、主人、やってしまいましたー。

『主人骨折』ーアキナ山名とおまめのラブい日々#24

ロケ中に転倒し、肩甲骨が折れた。人生初めての骨折。最悪なのは、利き手だったこと。何一つ出来ない数日があった。当然のことが出来ないのである。部屋のスイッチ、扉の開閉、ザッピング、鼻ほじり、あそこみて! の指差し。流れ星を見なくてよかった。これほど、日常で右手にお世話になっていたとは気づかなかった。食事も面倒になりあまり食べない。トイレなんて普段無意識の力加減で拭いているのだから、左手がすぐにそれを習得できるはずもなく。少し力めば、指はティッシュを突き破り、何度か人差し指は終わった。数日の間、何度舌打ちしたことか。

 

骨折してからの三日間、胴体と右腕を固定する為、バンドを巻いた。右腕が揺れなければ痛みはほぼなくなる。ただ、脇がびったりと締められていることで、皮膚が擦れ、蒸れ、痒みが出始めた。なんの気なしに、指を入れ嗅いでみると、鼻は悲鳴をあげた。絶叫に近かった。秋山さんに嗅がせたら、えづいてた。一日でもこれほど臭いのだから、ギブスはすごいだろう。それでも自分の匂いはやはり可愛いもので、臭いと思いながらも何度か嗅いだ。四日目、バンドを外しても痛みは和らいできたことで、固定することをやめた。少しの痛みよりも、脇の痒みの方が我慢できなかった。「バンドは別に痛みを軽減するもので治癒を早くするものではないからね」と、全く嬉しくないトーンで言った先生の言葉が、あとになって優しく舞い込んできた。僕の脇に風がようやく吹き抜けた。

撮影:山名文和(アキナ)

 

とはいっても、抱っこは出来ない。二歳の息子は、毎日抱っこをせがんでくる。骨折初日、ゆっくりと抱っこが出来ない理由を話した。伝わったんだろうか。長男は、抱っこしてと言わなくなった。それどころか、ふんふん言いながら、右肩を指差してなにか話して撫でてくれた。驚いた。いい子に育ってるんだなあと感動した。気持ちを込めて話すことが、どれほど大事か改めてわかった。人と人の間には、言葉など要らない瞬間はあるのかもしれない。

 

数日経った頃、事態は変わりだす。「え? まだ? そろそろ抱っこしていかんとあかんのちゃう? 二歳やで? 俺、二歳やで? 嘘やん? いつまで? そない長いって聞いてないけど。いやいやいや、こっち結構我慢したで。知ってる?撫でましたやん。柔らかく撫でましたやん」みたいな顔になった。呼んでもこちらを見ないようにもなった気がする。気のせいだろうか。保育園で覚えた「ママ」を異常に連呼している。私のことを呼ぶ際の「ちゃん」が恐ろしく減っている。気のせいだろうか。息子は夜中に数回起きる。寝室から飛び起きてきて、扉を開け、見えていないかのように私の横を走り抜け、妻に飛び込んでいくのは、気のせいだろうか。脇にすり抜ける涼しいはずの風が、沁みる気がするのは、気のせいだろうか。

撮影:山名文和(アキナ)

 

おまは、気づいているのだろうか。おまに対しては、結構通常運転の僕を見せているので、ひょっとしたら大丈夫かもしれない。散歩終わりの足拭きは、初めのうちはまごついた。今は全く問題ない。出来たら知らないままでもいいかなあと思う。理由はないけど、なんとなくそう思った。主人のプライドかもしれない。崩れた主を見せてはいけない気がするのだ。愛だ。

 

この文章を打ち込む今、そばで何か食べたそうに鳴いている。おまは、確実に何も知らない。それでいい。明日もトレイに行きたいとまたくううんと鳴く。おまも通常運転だ。それでいい。

おまよ、それでいい。

 

 

【プロフィール】山名文和(アキナ)

柴犬ライフ,アキナ山名,おまめ

1980年7月3日生まれ。2012年、秋山賢太とお笑いコンビ「アキナ」を結成。

レギュラー番組を多数抱えるほか、『キンブオブコント』『M-1グランプリ』『THE MANZAI』で決勝進出を果たす。

愛柴は、保護施設から迎えたおまめ(11歳)。

 

 

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