【特集】柴を介護する#10 最期は、私の腕の中で。寝たきりの老柴を介護してわかったこと、感じたこと
特集『柴を介護(あい)する』シリーズでは、いつかはやってくる我が子の老後に備え、老犬介護の情報をお伝えしています。
前回の記事『【特集】柴を介護する#9 人より早く「老いる」犬だから。やってくる変化と心の準備を17歳のハナちゃんに学ぶ』に続き、料理研究家の岸田夕子さんに18歳のハナちゃんの介護についてうかがいます。
自宅での介護にはさまざまな苦労や悩みがありました。岸田さんはどのように乗り越えていったのでしょうか。
認知症と寝たきり対策に役立つこと:生活編
16歳で認知症が出始め、17歳8ヶ月で寝たきりとなったハナちゃん。
老化の進行にともない、目立っていく認知症の症状や身体的な衰えに、岸田さんは悩みながらも、「ハナが少しでも楽に過ごせるように」と介護の方法を模索したそうです。
今回は、柴犬の自宅での介護について、そのリアルを岸田さんの経験から学んでいけたらと思います。
◆認知症の相談ができる動物病院に転院
最初にやったことが、転院でした。
当時通っていた動物病院では、認知症の対応を相談しても、症状の説明しかしてもらえなかったとか。
「別の動物病院に行ったら、親身になって相談にのってもらえました」(岸田さん=以下、「」内同)と、思い切って転院してよかったと言います。
◆回っても危なくないように布製の八面サークルを利用
認知症の症状が出始めると、座ったり寝たりする前にグルグルと回るようになりました。
そこで、ハナちゃんが回っても危なくないように、最初はステンレス製のサークルに入れていました。
ところがやがて走るようにぐるぐる回り始め、サークルごと倒れそうに。
そこで布製の八面サークルを利用しました。
◆ハナの近くに介護セットを置く
すぐにケアができるように、ティッシュペーパー、ウェットティッシュ、トイレシート、シリンジ、水をハナちゃんの近くに置いています。
◆寝る時間が長くなって高反発マットに変えた
寝たきりに備えて高反発マットを購入しました。
「最初は違和感があったらしく嫌がっていましたが、すぐに慣れて気に入りました」と、シニア犬にぜひおすすめしたいアイテムだそうです。
◆動物病院に通院するためのスリング
ハナちゃんが歩けなくなってから、動物病院に通院するときのためにスリングを購入。
「ハナの背中のカーブにぴったりです」と、思いがけないメリットもありました。
認知症と寝たきり対策に役立つこと:食事編
食事の面でも、たくさんの変化が起こり、さまざまな工夫が必要でした。
◆夜鳴き対策には精神安定の成分を含むフード
動物病院に夜鳴きについて相談した際、精神安定剤をすすめられました。
薬を飲ませることへの不安を伝えると、精神の健康に配慮したロイヤルカナンの『満腹感サポートスペシャル+CLT』を提案され、食事で落ち着かせる方針になりました。
「カロリー不足が心配なので、別のフードも少し混ぜています」
◆フードを食べやすいようにふやかす
フードをお湯でふやかし、高カロリーのペーストも混ぜて食べやすいやわらかさにしています。
◆フードをスプーンで食べさせる
ふやかしたフードは、スプーンを使って食べさせています。
17歳10カ月頃から、スプーンを舐めるものの、自力で食べられないことが増えたので、口の中に少しずつ入れながら食べさせるように。
食べこぼしはトイレシートをスタイ代わりにして予防。
「食事が長くなると鳴き始めるので、短時間で複数回を心がけています」
◆水分をシリンジで飲ませる
数時間おきに水分をシリンジでのませています。
「水は舌を動かして飲めるんです」
栄養補給のためにミルクを混ぜて与えることもあります。
ハナちゃんに合わなかったグッズ
ハナちゃんのために試行錯誤しながら介護グッズを選び、世話の方法を考えてきた岸田さん。
購入したものの中には使いづらいものもありました。
◆毛足の長いカーペットは爪が引っかかる
ハナちゃんが倒れてもクッション代わりになると思ったら、爪が引っかかってかえって危なかったそうです。
◆厚みのあるマットはすぐに薄くなる
5cm厚みのあるマットは、ハナちゃんの世話のために岸田さんものっているうちに、1cmの薄さになってしまったとか。
◆やわらかい素材のシートは爪で削れる
やわらかい滑り止めシートは、ハナちゃんが走るように回るため、爪で削れて粉や破片が部屋に散らばってしまったとか。
「私にアレルギー症状まで出てしまいました」と、体質に合わない素材だったのも難点。
「部屋全体に敷きつめるのではなく、食事のスペースだけに使えば問題なかったかもしれない」と使い分けの大切さを教えてくれました。
◆歩行補助ハーネスを使うのが遅かった
17歳を過ぎた頃に歩行補助ハーネスを使ってみましたが、うまく歩けなかったそうです。
「後ろ足が弱ってきたくらいのもっと早い段階で使ったほうがよかったと思います」
◆老いが進んで枕が合わなくなった
高さを調節できる犬用枕は便利でしたが、ハナちゃんがやせてきてからは顔が埋もれそうになるので使うのをやめたそうです。
岸田さんは老化の進行に合わせて使用するグッズを見直しています。
犬の介護には家族の協力が欠かせない
ハナちゃんの介護を振り返って、岸田さんは家族の協力の大切さを実感したと言います。
「夫は会社勤めで忙しく、娘達は独立していて、ハナの世話をするのが私ばかりになってしまったんです。
自宅にいることが多いから当然なのですが、一晩中ハナに付き添っていると、ほとんど眠れませんし、いろいろと相談したいことがあってもタイミングが合わないのです。
それで家族に対して爆発したことがあったんですよ(笑)。
それから家族が気を使ってくれるようになり、週末の食事、添い寝は夫が介助しています」。
老犬ホームを検討したこともありましたが、岸田さんが家にいられるのでできる限り世話をしてあげたいと思ったそうです。
「自宅での介護は手探りでしたが、ハナの体調に合わせて工夫しながらお世話ができてよかったですね。
友人が紹介してくれた動物看護師さんのアドバイスも役に立ちました。
家族、友人、動物病院と相談できる人が周囲にいると本当に心強いですね」
介護生活を振り返って
最後までその命に寄り添い、自分の手で介護をするということは、全オーナーの願いかもしれません。
しかし、どんなに深い愛があっても、そこには介護をした者にしか分からない苦労や苦悩があるはず。
と同時に、介護をしたからこそ得られる幸せ、喜び、愛の交換もあるでしょう。
最後に岸田さんに、介護生活を通して感じたことを伺いました。
「ずっと悩まされ続けた夜鳴きが、17歳10ヶ月を過ぎた頃から徐々になくなり始め、今では(取材を受けた頃)全く夜鳴きをしなくなりました。
老犬の夜鳴きの凄まじさは経験した者にしかわからないことかと思いますが、鳴くというレベルではなく、焦点が定まらないままの叫び声が4〜5時間続きます。
今思うと信じられないことですが、ハナと一緒に死んでしまおうかと真剣に考えたこともあるほど、辛くて悲しい日々でした。
あの凄まじい夜鳴きの先にはハナの死しかないと思っていた私は、今のような穏やかな日々が戻るなんて夢のようです。
こんな時間を過ごしてしまうと、やがてやってくる別れがますます辛くなるかもしれませんが、今はゆっくり流れる時間の中でハナと一緒に笑っていたいと思います」
そう語ってくれた岸田さんでしたが、ハナちゃんは取材後の4月14日20時30分に、岸田さんの腕の中で旅立ちました。
18歳の誕生日を、岸田さん手作りのケーキでお祝いしてまもなくのことでした。
最期まで家族のそばで暮らし、大好きなママに抱きしめられながら、犬としては大往生といえる年齢でその生涯を終えたハナちゃん。
きっと、幸せな一生だったなと思いながら永遠の眠りについたに違いありません。
心からご冥福をお祈り申し上げます。
【取材・撮影協力】
岸田夕子さん
料理研究家・JSA認定サケエキスパート
オフィシャルブログ:勇気凛りん*おいしい楽しい
Instagram:@y.kishida
※お問い合わせはブログのコンタクトフォームからお願いします。
取材・文/金子 志緒
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