【特集】柴を介護する#5 食事や入浴のやり方は?介護疲れを防ぐには?「自宅介護のノウハウ」をプロが伝授
特集『柴を介護(あい)する』シリーズでは、いつかはやってくる我が子の老後に備え、老犬介護の情報をお伝えしています。
今回は、自分の手で愛柴を介護する場合のコツや心構えを、『THEケネルズ東京』の宮下さんに詳しく教えていだだきました。
愛犬に介護が必要になった時、何をしたらいいのかわからなくて不安になりますよね。その不安を解消すべく、今回は東京目黒区にある老犬ホーム・ペットホテルの『THEケネルズ東京』スタッフで、動物看護師とトリマーの資格を持つ宮下喜美子さんに、知っておくと役立つ“自宅介護のノウハウ”をご紹介いただきました!
動物看護師兼トリマーの宮下喜美子さん。ご自宅でも2年半愛犬(チワワ)の介護をした経験があります。
THEケネルズ東京とは
ペットホテルと老犬ホームを併設し、一時預かりから終生預かりまでをおこなう施設。
認知症の子や寝たきりの子の受け入れも可能で、その子に合った完全オーダーメイドの介護プランで対応してくれます。しつけやレッスンをおこなう“平日定期利用コース”も有り。東急目黒線の洗足駅から徒歩1分という立地も魅力です!
生活リズム編
──こちらのペットホテル&老犬ホームを利用している要介護のワンちゃんで、多く見られる症状はどのようなものでしょうか。
宮下さん:
“高齢犬も預かってくれる施設”なので、加齢による四肢の衰えや、昼夜が逆転してしまっている症状が多いです。
──昼夜逆転は、認知症の症状としてですか?
宮下さん:
認知症傾向の子が多いには多いんですが、食事は自分でできるし、歩くこともできる。オムツは使いますけど、排泄も自分でできる子がほとんどなんです。
でも、昼間に寝てしまって、夜に徘徊や夜鳴きをしてしまうんですね。
──そういう子にはどういう対処を?
宮下さん:日中にしっかり太陽の光を浴びさせたり、適度な運動ができるようにしています。
人間も「朝起きたらカーテンを開けて朝陽を浴びると体内時計が整う」と言われてるじゃないですか。それとまったく同じです(笑)。
なので、うちでお預かりする時は、自分で歩ける子は自力で、歩けない子も抱っこやカートで日光浴をしに外に出るようにしています。
動けるうちは無理のない範囲でお散歩をして、足の筋力を落とさないようにしたり、「外に出ると楽しい!」という気持ちを忘れさせないようにすることは、じつはとても大切なんです。
外に出ていろんな景色を見たり、お友達と遊んだりできるお散歩は、筋力維持のためだけではなく、脳の刺激にもなって認知症の予防にも効果的なので。
そういう刺激がなくなると、人間でもボーッとしてしまったり、動きたくなくなったりするものですよね。そこは犬も同じだと思います。
──昼間に散歩することで、夜は心地よい疲労感とともにしっかり寝てくれる。それも昼夜逆転の改善につながるかもしれませんね。
宮下さん:
そうなんです。普段こちらのペットホテル利用でお預かりしている子の中に、柴犬さんではないんですが13〜14歳のシニアのワンちゃんがいるんですね。
オーナーさんが「この子、家ではずっと寝てるんです」とおっしゃるんですが、ここに来ると逆にまったく寝ないんです。
まわりにほかのワンちゃんがたくさんいるので、テンションが上がって、その子たちとフリースペースでずっと遊んでいます。
それをオーナーさんに伝えると本当に驚かれますし、「昼間にしっかり遊んでくれるぶん、夜グッスリ寝てくれる」と感謝されています(笑)。
そういう実例からも“日中はなるべく楽しく遊ばせて、夜は疲れて寝る”という方向に持っていくのは大切ですね。
でも、高齢犬の場合、興奮しすぎちゃうのはよくないので、あくまでも適度に遊ばせてあげるのがいいと思います。
──“適度”の見極めが難しいですね。
宮下さん:これもうちでお預かりしている子の話なんですが、放っておくとずっと歩き続けている19歳のダックスちゃんがいるんです。
起きてる間は本当にテクテクテクテク…ずーっと歩いていて。
歩いているとご機嫌なんですよね。でも、だんだん足がもつれるようになってきたり、見ていて明らかに疲れているのがわかる状態になってくるので、そうしたら「じゃあ、ちょっと休憩しようね」とお部屋に連れていきます。
お部屋に戻った直後は、「まだ遊びたい、まだ歩きたい」ってなるんですけど、体は疲れているので。そのまましばらく様子を見ていてあげると、ストンと寝ちゃうんですよ。
なので、ちゃんと見ていれば“適度”は、だいたいわかると思います。そして、ある程度のところでこちらがセーブしてあげることが大切ですね。
寝たきり介護編
──寝たきりの子を介護する場合、気をつけてあげるべきことはなんでしょう?
宮下さん:
一番大事なのは、体位変換ですね。長時間一方向を向いたまま寝ていると、体重がかかる部分の血流が悪くなって、皮膚組織が壊死してしまうんです。
それを“床ズレ・褥瘡(じょくそう)”というんですが、一度なってしまうと治りにくかったりもするので、そうならないように適時寝返りを打たせてあげる必要があります。
ワンちゃんの体重にもよりますが、2時間おきくらいのペースで体位を変えてあげるといいですね。
──体位を変えてあげる時のコツはありますか?
宮下さん:
“その子が嫌がらないように”というだけで、何が正解というのはないと思います。触られたくない部分っていうのも、ワンちゃんによって違うでしょうし…。
私の考えとしては、“介護をやっていくうちに、その子に合った体位変換のやり方が見つかる”と思っているので、こちらではお預かりしている子も、症状や様子に合わせてやり方を変えている感じです。
ただし、疾患がある場合は、かかりつけ医に注意点を確認するとよいと思います。
あと、寝たきりの子にぜひ使ってあげてほしいのは、介護用のマット。参考までに申し上げると、こちらではユニチャーム・プロの介護マットを使っています。
──介護マットを使っていても床ズレができやすい箇所は?
宮下さん:関節や骨が出っ張っている部分は、やっぱり床ズレになりやすいです。なので、介護マットを使っていても、2時間おきでの体位変換は欠かせません。
うちの老犬ホームには、まだ寝たきりの子は入居していないんですが、ペットホテルをご利用くださっている寝たきりの子のオーナーさんはいろいろ工夫されていて。床ズレ防止に普段お使いのものをご持参くださるので、お預かりの時はそれをそのまま使わせていただいています。
──寝たきりになると腹筋が弱ってしまったり、腸の動きが悪くなったりして、便秘状態になりやすいと聞いたことがあります。そういう時は、どう対処すればいいですか?
宮下さん:
病気の可能性もあるので、まずはかかりつけの動物病院の先生にご相談ですね。
腸などの病気ではなく、ただの便秘であれば、肛門を優しく刺激してあげる方法があります。肛門線を絞るような感じで優しくマッサージしてあげると、ポロッと出てきたりしますよ。
──なるほど。たとえば、おもらしをしてしまったあとや通常の排泄後、簡単にはお風呂に入れない要介護のワンちゃんをキレイにしてあげる方法としては、何がオススメですか?
宮下さん:
排泄後は股のあたりが汚れてしまうので、ホットタオルやボディータオル、ウエットティッシュなどでキレイに拭いてあげましょう。食事後の口まわりも同様です。
もう少し汚れがひどい場合や、体全体をキレイにしてあげたい時に便利なのは、泡シャンプー。寝たきりのワンちゃんじゃなくても全身を濡らす入浴は体力を消耗します。
老犬の場合、入浴は月1〜2回にして、あとはホットタオルや泡シャンプーで対応してあげるのがいいと思います。
食事介助編
──次に、食事面での介助のコツを教えてください!
宮下さん:
視力が弱っている子でも“ごはんの前に連れて行ってあげれば自分で食べられる”状態であれば、そうしてあげてください。
その際、頭が下がってしまうと食べにくいうえに、飲み込みづらくもなってしまうので、食器の高さを調節してあげるのが大切かと思います。
自力で食べられない子には介助をおこないますが、老犬だと舌の動きが弱くなっていることも多いので、自分ではすべて舐めきれないことも多いんです。
そういう時は。おわんの中でごはんをこんもりと山にしてあげたほうがパクッと食べれられて、ワンちゃん自身がラクだったりするので、そうしてあげてください。
──できる限り、自分で食べられるように工夫するわけですね。
宮下さん:そうです。やっぱり“食べる”って、すごく大事なことなんですね。“食欲=生きる意欲”でもありますから、失わせないようにしたいんです。
なので、こちらでサポートはしながらも、自分で食器から食べられる子は時間がかかってもペロペロしてもらって。それが難しくなってきたら、スプーンで口に直接運んであげる介助をするようにしています。ワンコ用のスプーンがあるので、そちらを使うのがおすすめですよ。
──固形物の摂取が難しくなってきたら、流動食に切り替えですか。
宮下さん:
そうなりますね。ミキサーなどでペースト状にしてもなめるのが難しいようでしたら、流動食をシリンジで口に流し入れてあげるカタチになります。
──フードは、どのようなものがオススメでしょう。
宮下さん:
それに関しては、今までどんなものを食べて育ってきたかにもよりますし、病気で療法食を摂る必要がある子もいますので、かかりつけの病院の先生とご相談されるのが一番だと思います。
──「歯がもろくなっている老犬にドライフードを与えるのはどうか」という声を耳にしたことがありますが、それについてはどう思われますか?
宮下:
ドライフードをふやかして食べさせるというのは、よくやることです。柔らかくなるので、歯への心配はないですよね。
また、水分をうまく摂れない子の場合は、ふやかして食べさせることで水分も一緒に摂れるという利点もあります。
もう亡くなってしまったんですが、以前こちらでお預かりしていたパグちゃんのオーナーさんは、ドライフードだけだと味気ないと思ったらしく、ふやかしたドライフードに野菜などを入れて、全部ひと口大のおだんご状に丸めて冷凍していらっしゃいました。
それをお預かりの時に持って来てくださるので、食事の時間にいくつかレンジでチンして温めてから、おだんご状のまま口に運んであげていたんですが、それは「すごい工夫だな」と思いましたね。
また、ドライフードは、多めの水分でふやかしたあとミキサーにかけると流動食にもなるので、思っている以上に便利なんですよ。
──野菜や肉、魚など、フレッシュな食材を加えたほうがいいのでしょうか?
宮下さん:
基本的に“総合栄養食”と言われている質のいいドライフードは、それだけで必要な栄養は十分に足りていて、「変に足すとバランスが崩れる」とは言われているんです。
でも、オーナーさん的には「ちょっとでもおいしいものを」と思いますよね。それに、私も個人的には「食べる楽しみもあげたいな」という気持ちなので、栄養が偏らない程度に加えるのはいいと思っています。
──食欲をキープしてあげることも大切ですもんね。
宮下さん:
そうですね。食べる子は、体も強いと思います。年をとっていろんなところが衰えてきても、食欲がある子は頑張れる。それは長年動物を扱う業界にいて一番感じるところです。
オーナーさんの心のケア編
──最後に、愛犬の介護をするうえでの心構えやアドバイスがあれば教えてください。
宮下さん:
最近は、ワンちゃんでも認知症の子が増えてきていて、夜鳴きに悩まされているオーナーさんがとても多いんですね。
その対処法を聞かれることもあるんですが、正直言うと、夜鳴きはしかたないんですよ。加齢による認知症や、脳腫瘍などの病気の影響であって、本人の意思ではないと思うので。
若い子のむだ吠えとは違って、トレーニングなどでは治らない。受け入れてあげるしかないんです。
じつは私自身も、2年半ほど自宅で愛犬のチワワの介護をして、夜鳴きに一番困ったんですが、「しかたないな」と思うようにしてました。
だけど、明日も仕事があるのに眠れない、近所迷惑も気になって参ってしまう、という悩みは、自分でも経験したのでわかります。
そういう時こそ、うちのような一時預かりの施設を利用して、オーナーさんにリフレッシュの時間を持っていただきたいんです。
少しでも気分転換ができたら、また「愛犬に会いたい。あの子にために頑張りたい」と思いますから。
最後に
愛犬を病気や事故で急に亡くしてしまったオーナーさんの中には「介護の時間が欲しかった」とおっしゃる方もいます。
介護は、愛犬への恩返しと、自分の心の整理ができる時間。決して簡単なことではありませんが、「その時間があってよかった」と思える時がきっと来るはずです。
【施設DATE】
THEケネルズ東京
東京都目黒区洗足2丁目19番地2号
TEL:0120-085-808
受付時間:8:00〜20:00
(24時間スタッフ常駐)
取材・文/永野ゆかり
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