【取材】半年間、頭を触ることもできなかったアビー。人への不信感が雪のようにとけた理由とは #1 アビー、リディア、マチルダ
“保護犬と家族になって感じた幸せ”をテーマに、元保護犬を迎えた柴オーナーさんに愛柴との出会いから、家族になっていくまでの過程などを伺う特集「保護犬と家族になって」がスタートします。
記念すべき初回は、アビーちゃん、リディアちゃん、マチルダちゃんの3姉妹全員が元保護犬というDさんファミリー。
Dさんが語ってくれた話のひとつひとつに、3姉妹が穏やかで幸せな表情を見せてくれる理由が詰まっています。
目次
アビーちゃんのプロフィール
年齢&性別
推定10歳の女の子(年齢はもう少し上かも)
体重
12kg
大好きなこと
食べること。朝10時とお昼におやつタイムがあり、夕食後は必ずデザート(果物)を食べる。正確な腹時計でそれぞれの時間を知らせることができる。
リディアちゃんのプロフィール
年齢&性別
9歳の女の子
体重
10.5kg
大好きなこと
ママのことが大好き。毎晩ママにくっついて一緒に眠る。
マチルダちゃんのプロフィール
年齢&性別
推定2歳の女の子
体重
7.4kg
大好きなこと
食べることと褒められること。褒められると自慢気な顔をする。
3姉妹が家族になる前、それぞれのストーリー
東京都内で3頭の元保護柴と暮らすDさんファミリー。
まずはD家の3姉妹がどういう経緯で保護され家族になったのかをご紹介します。
2014年4月27日から2週間のトライアル期間を経て家族になったアビーちゃん。
3〜4歳の頃、飼い主によって保健所に持ち込まれたところを保護団体が引き出してくれたことで、Dさんご夫妻と出会うことになります。
「7年前はまだ保護犬というのが今ほど知られていませんでしたし、殺処分も存在していたと思います。
持ち込まれた理由は分かりませんが、団体の方の話では比較的人に慣れていたということでしたので、それが引き出せた要因の一つかもしれません」(Dさん=以下「」内同)。
アビーちゃんが家族になってから約2年後のこと。2016年7月9日から2週間のトライアルを経て家族になったのがリディアちゃん。
保護犬になった理由は、飼い主の飼育放棄でした。3歳で保護されるまで、2つの家でそれぞれ1年半ずつを過ごしています。
保護団体の方の話によると、最初の飼い主さんはペットショップから購入した後、1年半家の中だけで飼育。
その後何らかの理由で他の人に譲渡したけれど、その人も1年半家の中で育てた後、またもや飼えないということになり、獣医さんに里親探しを相談したことが保護されるきっかけとなりました。
「リディアは外に出してもらえていなかったので、出会った頃は骨と皮だけのガリガリで筋肉もなく、足の毛も舐めて薄くなってしまっていました。
肉球はぷにゅぷにゅで、外をうまく歩くこともできない状態だったんです」。
そして一番最近お迎えした3姉妹の末っ子マチルダちゃんは2021年8月22日から3週間のトライアルを経て家族に。
マチルダちゃんは劣悪な環境で飼育をしていたブリーダーのところから助け出された子です。
「糞尿まみれのひどい環境だったようで…。
たぶんそれが原因でお腹の調子が安定しないので、現在は腸内環境が整うよう頑張っているところです。
そこにそのままいたらブリーディングに使われていたかもしれませんが、今年の7月中旬くらいに救出してもらえました」。
「保護犬」の存在を知ってから、それ以外の選択肢は無くなった
今では3頭の柴犬と暮らす大の愛犬家のDさんご夫妻ですが、アビーちゃんを迎えるまでは犬と暮らした経験がありませんでした。
「犬は好きだったのでいつか犬を飼いたいと思っていました。そして自分たちの生活のリズムや家を買うタイミングが整ったので、ブリーダーサイトやペットショップを見て探し始めたのです」。
最初はブリーダーさんやショップからパピーを迎えようとしていたDさんが保護犬を迎えることとなったきっかけは何だったのでしょう。
「ネットで情報を集めている時にたまたまヒットしてきた団体のサイトを見たのが保護団体・保護犬というものを知ったきっかけです。それまではそういう存在自体を知りませんでした。
そして保護犬の存在を知って調べてみればみるほど、こんな子達がたくさんいるのにお金でパピーを買うということはもうできない、と夫婦で思うようになりました」。
そうして自分たちに合う子を保護団体のサイトで探し始め、一目惚れのようにビビッとくる子がいないかと思っていたところ目に留まったのがアビーちゃんだったのです。
アビーちゃんとの出会いとそこからの半年間のこと
「何度か譲渡会に行ったりもしていたのですがそこではご縁がなくて。
そんな時にサイトで見つけたのがアビーです。写真を見てビビッときたというか。アビーは目が寂しげで、すごく気になりました」。
早速その保護団体の譲渡会に行き、アビーちゃんの面会申し込みをしたそうです。
この時アビーちゃんはボランティアさんのところにいたので会えなかったのですが、団体の雰囲気を見るということが出来て良かったとDさんは言います。
「その後公園でアビーと会って一緒にお散歩してみて、やっぱりこの子だ!と思いました。
第一印象は“そっけない”って感じでしょうか。捨てられて人間不信に陥っていたのだと思います。
無反応なので耳が聞こえないんじゃないかと思うくらいだったと、預かりボランティアの方からお聞きしました」。
すぐにトライアルに申し込み、程なくして一緒の生活がスタートします。
しかしすぐにDさんとの暮らしに馴染んでくれることはなく、半年くらいは頭を触ることもできなかったのだそう。
そんなアビーちゃんに対してDさんはどんな風に向き合おうと思っていたのでしょう。
「飼い主さんに捨てられたと聞いていたので“もし自分が親に捨てられたら?”ということを考えてみました。
そんな経験をしたら、すぐに心を許せるかと言ったらそうじゃないよね、と。
そう考えながら暮らしていたら、大変な中でもちょっとずつの変化、例えば硬い顔だったのが柔らかい表情になったとか食事が待てるようになったとか、そういう変化を見るのが楽しくなって。
大変だったんですが、変わっていくのをもっと見たい、もっと見たい、となって、今となっては嬉しさだけが残っています」。
大変な中にたくさんの嬉しい出来事が詰まった日々。その中で特に心を開いてくれたと感じた瞬間について伺ってみました。
「保護団体のチャリティーイベントに参加した時のことです。預かりをしてくれていたボランティアさんに、ちょっと飽きてきたアビーを預けてコンサートを聞きに行きました。
戻ったら“アビーちゃんはママとパパが気になって、ずっとそちらの方向を見ていて動かなかったんですよ”と言われて。
そしてそれまで膝の上に乗るということをしたことがなかったのに、甘えて膝に乗ったんです! 家族になったんだなぁ、って思いました」。
信じて待っていれば必ず犬は心を開いてくれる。家族になってくれる。そう感じるエピソードですね。
保護犬は成犬であってもパピーみたいなもの
犬を家族に迎えたら、それがパピーであろうと成犬であろうと一緒に暮らしていくためのしつけというものが必要になってきます。
しかし保護犬の中にはトレーニングを受けることないまま大人になった子もいるので、その場合しつけが大変なのでは?と思う人もいるのではないでしょうか。
けれど、“まっさら”という点ではパピーと変わらないとDさんは考えています。
「0歳のパピーか、3歳のパピーかという考え方で、“保護犬だから大変”なんてことは考えませんでした。
ただ、つらい思いをしてきた子なので、出来ないことを叱るのではなくて、褒めることを中心に育てるようにしています」。
リディアちゃんのしつけではアビーちゃんが大活躍。
「最初柵越しに合わせたのですが、アビーが“ワン!”と大きな声で吠えて。それで終わりです。一瞬でお互いの立場が決まったのでしょう。
今の今まであんな風に吠えたのはあの一度きりですが、リディアはアビーに教わりながらお散歩や色々なことに慣れていきました」。
そしてごく最近家族になったマチルダちゃん。
大人しいリディアちゃんとは違って堂々としてちょっと気が強いので、迎えて1週間くらいはアビーちゃんとの関係が少しギクシャク。
しかし徐々に距離が縮まり、今では一緒のベッドに入るくらいの仲になったそうです。
「若いマチルダが来てアビーは若返りましたし、日々犬たちの距離が縮まり変化していく姿や新しいことが出来るようになっていくのを見るのがとても楽しいです。
愛情を与えればそれに応えてくれる、犬はそういう動物です。心を閉ざしていてもこれだけ変われるんだ!ということをアビーが教えてくれました」。
家に来た年齢はそれぞれ。でもどんどん新しいことを覚え、出来ることが増えていく。
それはパピーだからでも保護犬だからでもないのです。新しい家族が増えた時には犬同士で教えたり学んだりするのも変わりません。
保護犬を迎えることに身構えず、幸せへの一歩を踏み出そう
保護犬に興味があってもなかなか踏み出すきっかけがないという方も多いかもしれません。そんな方に向けてメッセージをお願いしました。
「保護犬のハードルが高いと思っている人が多いように思います。でも実際はパピーほど大変じゃないんじゃないかって私は思っているんです。
フィラリアの検査や避妊去勢、歯の治療なども済んでいたり、2〜3歳なら疾患についてもわかっていることもあります。
私でも育てられたので、愛情と根気があればパピーと同じです。深く考えることなく、肩の力を抜いて、まずは譲渡会などに行ってみると良いのではないでしょうか。
その時には何箇所か見てみるのがおすすめです。」。
保護団体はたくさんあり、それぞれに特色やルールに違いがありますし、タイミングもあります。
焦らず自分に合うところを探しているうちに、Dさんご夫妻とアビーちゃん、リディアちゃん、マチルダちゃんのような運命の出会いが訪れるかもしれません。
「毎日が幸せ。ご飯を食べている姿、笑顔、見ているだけ、いてくれるだけで幸せです。どこからきても差はありません」。
D家は今日も幸せいっぱいです。
撮影・取材・文/Roco
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