『立場と見え方』ーアキナ山名とおまめのラブい日々#14
お笑いコンビ「アキナ」の山名文和さんは、2020年6月9日に愛柴のおまめを迎えました。保護犬施設からやってきた彼女は、当時8歳。
長年夢みてた“柴犬ライフ”を、ようやく実現した山名さん。おまめとどのように出会い、どんな生活をおくっているのでしょうかー。
アキナ山名と柴犬おまめの最高にラブい日々を、山名さんご本人が綴っていきます。
#14は、おまめを迎えたことで見えてきた、人の見え方ー。
『立場と見え方』ーアキナ山名とおまめのラブい日々#14
立ち場が変わるとそれまで見えていなかった、気付いていなかったことが、目の前にひょっこり現れる。
以前コンビニエンスストアで随分長くアルバイトをしていた。客としてコンビニを利用していたのが、いざ店員の立場になるとお客さんの良いところも悪いところも途端に見えてくる。
お会計をした去り際にさらっと「ありがとう」と言ってくれる嬉しさ。
お金を投げるように払う人への途轍もない嫌悪感。
行列が出来ているときの電気代携帯代の支払いをしてくる方への不本意な苛立ち。など。
最後に関しては仕事への自分に余裕を持てば解決することだが、その前の二つに関しては少しだけ日々の感謝の気持ちを持たないと変わらないことだ。それを持つと持たないでは人間としての温もりに大きな差を生む。それまでお金を投げて払ったことなどない。でもきっと見かけていた気はする。気を止めることはなかった。それが店員として、投げられたお金を受け取ったとき、軽蔑の目でその人の背中をいつまでも見た。
普段礼儀正しい知り合いがコンビニでお金を投げるように払っていたとき、あっ、と思った。(この人はそういう人なんだろう)と即座に思った。その後、色んな所から自分よりも下の後輩にはきついところがあると噂を聞くようになった。彼は、上と下の区別があるのかもしれない。お客様と店員のような。
これは、人を見るときはいろんな角度から見たほうが良いという教えを無碍にしている。物凄く一面的な見方をしているけれど、恋愛にもきっとあるように、未来を決定するくらいの許せない何かはそれぞれにあると思う。
実際その知り合いは良いところも沢山あるし友人として好きだ。友達も多いだろう。だけど僕は、長い付き合いはしていかないだろうと直感めいたものを感じることだった。会えば話すしいつもそのことを思うわけじゃない。ただ、これからもその人とふたりきりでご飯に行くことはないと思う。
話は少し逸れたけれど、いざ立場が変わると考え方や物腰、態度はがらりと変わる。おまめがやってきて、ペットを飼う前と飼ってからで意識はすっかり変わった。
まず、ペットと言う響きに違和感を感じるようになった。飼うという言葉にも。
犬と暮らしているに変化した。
エサではなくご飯になった。
なかったはずの母性が溢れ出た。
蟻がたかりそうなほどの甘い声で話すようになった。
シバケンからシバイヌと言うようになった。
おまめが家に来る前、僕はひどい質問をしてきた。
「犬飼うのってお金どれくらいかかる?」
「エサってなんぼすんの?」
「何飼ってるん? オス? メス?」
おまめがやってきて、この質問はいけなかったなあと思う。
ただ、今後誰かにこんなふうに訊かれても、僕は当たり前だけどがっかりしない。犬と暮らすようになって変化した感覚は、同じ者にしかわからない感覚だから。飼っていない人に強制することではない気がする。飼わない人間に押しつけてはいけない。便宜上、「犬を飼っている」と今後も口にするし、甘い声で話すのは周りに誰も居ないときを出来るだけ心がけている。丸坊主の四十過ぎた男が所構わず「どぅしたぁん? おにゃかへったん? なぁ。どぅあしたん? んー??」と言っているのは客観的に見たときにやはり気持ち悪い。という自覚がある。事実、そういう男性を見たとき、あ、やばい、俺もなっている、気をつけよと強く思った。
「オスですか?」と訊いて「オスちゃうから。男の子!」と強く言い換えられたことがある。その必要はないやろと心底思った。おまえがどんだけ愛してるんか知らんけど、その愛はワンちゃんに向けたらええねん。ワンちゃんを愛する気持ちを周りに撒き散らす必要などない。ボケならいい。ツッコめる。でもその方は本気で言っていた。愛はひけらかすものではない。
小型のワンちゃんの写真を見せられたときに「何匹家に居るんですか?」と訊いたら、「頭(とう)ね、匹ちゃうから、犬は頭ね!」と言われた。最近調べたら、細かくは曖昧だが抱きかかえられるサイズは「匹」抱きかかえれない大型犬が「頭」だった。
僕、合ってたんですけど!!!!
そこまで知らんかったけど、匹は正解やったんですけど!!
愛を撒き散らす飼い主のネタをいつかつくりたいと思う。
【プロフィール】山名文和(アキナ)
1980年7月3日生まれ。2012年、秋山賢太とお笑いコンビ「アキナ」を結成。
レギュラー番組を多数抱えるほか、『キンブオブコント』『M-1グランプリ』『THE MANZAI』で決勝進出を果たす。
愛柴は、保護施設から迎えたおまめ(9歳)。
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