【取材】多くの病気と闘う17歳!動物看護師のオーナーさんによる看護は、さすがのアイデアだらけ #35もも
平均寿命は12〜15歳と言われる柴犬。そこで我が『柴犬ライフ』では、12歳を超えてもなお元気な柴犬を、憧れと敬意を込めて“レジェンド柴”と呼んでいます。 この特集では、レジェンド柴たちのライフスタイルや食生活などにフォーカスし、その元気の秘訣や、老犬と暮らすうえで大切だと思うことを、オーナーさんに語っていただきます。今回登場するのは、たくさんの病気と闘う17歳の女の子、ももちゃん。小学生のときからももちゃんと暮らしているオーナーの岡本さんは、ももちゃんがきっかけで動物看護師さんに。その愛の深さもさることながら、看護師さんならではの介護テクも必見です。
ももちゃんプロフィール
年齢&性別
17歳の女の子
体重
6.8kg(若い時は9kg)
大好きなこと
食べること、散歩、遊ぶこと、イタズラ
既往歴
・幼い頃から、時々皮膚疾患と外耳炎を発症。どちらも軽症。
・11歳で白内障に。
・14歳で慢性腎臓病が発覚。
・16歳で膵炎、肝炎、胆嚢炎を併発。
・17歳で2度の痙攣発作と眼病。
優しい食いしん坊
大人しくて優しいけれど、食いしん坊で、イタズラっ子なところもあるというももちゃん。オーナーの岡本さんが小学生の時、ペットショップで一目惚れして家族に迎えました。
「口に入る物なら何でも食べたがるような食いしん坊でした。それから人、特に男性が好きだったので、男性におやつをねだるときなんか、声がワントーン上がってました(笑)。
でも犬にはあまり興味がなく、ドッグランに行っても独りでひたすら走り回って、“さ、帰ろ”っていう感じでした。
後から迎えた雑種犬・ウメが来た時も、気にする素振りもなかったですね。唯一絡みがあったのは、ごはんを巡ってケンカしたときくらいです(笑)。
といっても、ずっと知らんぷりというわけではなく、ウメが鳴いてたら見に行ってあげたりとか、そういう優しさは持っていました」(岡本さん=以下「」内同)。
実は岡本さんは動物看護師。ももちゃんを可愛がってくれ、病院好きにしてくれた看護師さんの存在が、その道を目指すきっかけになったのだそう。
専門職の強みを活かして、病気やシニア期の悩みを克服してきた岡本さんに、治療や薬、食事にマッサージなど、レジェンドへのヒントを教えていただきました。
病気はシニア期から
まずは、シニア期以降に一気に増えたという、病気とその対応について伺いました。
「若い時は軽い皮膚の疾患や外耳炎くらいで、ほとんど何もありませんでした。病院によくかかるようになったのは、11歳の白内障からです。
治療方法は点眼で、『カリーユニ』という目薬でした。これを続けてきたおかげで、最近まで光を感じることができていたのかなと思います。
その後はまた3年くらい何もなかったのですが、14歳後半の検診で引っかかりました。慢性腎不全です。
薬で血圧を下げ、食事を『ロイヤルカナン』の 腎臓サポートセレクションにして、月1回の血液検査と血圧測定で経過を見ることになりました。
またこの時、目がうまく開かない、黒目が下がる、ふらついて歩けないなどの神経症状も出ていました。
症状が出るのは1〜2時間で、病院に着く頃には収まってしまうため、診断がつかず腎臓病との関連は判りませんでした。
この症状はその後もありましたが、頻度は年に1〜2回程度です」。
それからしばらくは落ち着いていたものの、1年程で再び腎臓の数値が悪化してしまいます。
皮下点滴と救急病院
16歳を目前にした冬、腎臓病が進行したももちゃんのために、自宅で週2回の皮下点滴が始まりました。
「ももは押さえ付けられるのが苦手で、無理にやろうとすると暴れてしまいます。なので、点滴をするのは寝ているときです。
最初はカーテンレールにハンガーを掛けて点滴を吊るしていたのですが、いつもカーテンの下で寝てくれるわけではないので、点滴スタンドを購入しました。
途中で起きてしまったときの対策は、『ちゅ〜る』の、腎臓ケアに良い低リン・低ナトリウムのものです。これが大好きなので、暴れずに夢中で食べててくれるんです。
また、点滴で身体が冷えてしまうのを防ぐため、お灸や、『あずきのチカラ』という人間用の温熱グッズも使っています」。
どこでも点滴できるようになったという点滴スタンドは、Amazonや楽天で5,000円くらいで買えるそうです。
「それから16歳の夏に膵炎、肝炎、胆嚢炎を併発しました。
夜に仕事から帰ってきたらももが何度も吐くので、まず救急病院に行き、その後は職場の病院に連れて行きました。お盆期間でかかりつけ医が休みだったためです。
治療は血管への点滴と、吐き気止め、肝臓を保護する薬で、1週間くらいで落ち着いたと思います」。
連休中の夜間という難しい状況でしたが、知識と環境も活かした冷静な対処でピンチを切り抜けました。
次々と襲う病気
一難去ってまた一難。膵炎の後はまた腎臓です。
「膵炎の直後に腎臓の数値が悪化し、皮下点滴を週3〜4回に増やしました。それと、この頃から認知症の進行も早くなったと思います。
その後が17歳の痙攣です。夜に発症したのですが、呼吸や心拍の低下もあったので救急病院に行きました。
その時の検査でまた腎臓が悪くなっていたことも判り、そのまま3日ほど入院しました。これ以降、自宅での皮下点滴は毎日になりました。
入院時の治療に使ったのは、カリウムを下げる薬です。大元が脳か腎臓かは判らなかったのですが、症状の原因はカリウムだろうということでした。
退院して1週間程でまた痙攣が起きたのですが、この時は呼吸と心拍が正常だったので、かかりつけ医にも相談し、座薬を入れて様子を見ました。その後、痙攣は起きていません。
またこの頃、左目が大きくなっていたので眼科も受診したところ、緑内障か、メラノーマという腫瘍の疑いと言われました。
腫瘍だった場合は眼球摘出しかないそうですが、年齢も考えステロイドの目薬と漢方薬で様子を見ることにし、今は悪化せずに維持できています」。
次から次に発症した病気は、何とか落ち着きました。しかし、病気と並行して食事や足腰の問題など、シニア期の悩みも出てきました。
食いしん坊だったのに⋯
昔は何でも食べていたももちゃんも、病気や認知症による選り好みなどから、だんだん食べられるフードが限られてきました。
「若い時は皮膚のケアのため『ロイヤルカナン』のセレクトプロテインにしていました。腎臓が悪くなってからは同じメーカーの腎臓サポートです。
膵炎の時に低脂肪にしたのですが、ドライもウェットも食べないので、『森乳サンワールド』のチューブ・ダイエットという、粉ミルクみたいなものをあげていました。
その後、また腎臓が悪化したので腎臓サポートに戻そうとしましたが食べてくれず、病院で療法食のサンプルを色々もらって試しました。
その中で唯一食べたのが、『ドクターズケア』のキドニー(腎臓)ケアで、口の横から数粒ずつ入れて食べさせています。
それでも食べないときがあるので、同じような療法食の『ダイエティクス』のキドニーキープに変えてみたり、『薬膳百香』のふりかけやスープをかけたりして何とか食べさせています。
昔は本当に何でも食べていたのに、体調のせいか認知症のせいか、嫌となったら絶対に食べなくなってしまいました」。
食べてくれるか、身体に合うかも分からない療法食を購入するのは負担が大きいですよね。サンプルをくれる病院は結構あるそうなので、かかりつけ医に相談してみましょう。
また、口に入れてあげないと食べられない子には、ドライフードがあげやすいそうです。
立てるだけでもいい
続いて、足腰の対策を伺いました。
「床の滑り止めには『ディパン』というクッションマットを敷いています。また徘徊対策として、ももの居場所は大きいサークルのようになっています。
縦2.5m、横1mくらいの広さをフェンスで囲い、フェンスだけだと挟まって動けなくなったりするので、ジョイントマットを貼って柔らかい壁のようにしています。
それから足腰の弱りが最近顕著で、自力で起き上がれなくなり、支えてあげても歩けないようになりました。
そこで、『はな工房』の三輪車椅子をレンタルしました。四輪よりもコンパクトなので狭い部屋の中でも使え、四輪ほど車椅子に頼り切りにならないところが決め手でした。
車椅子のおかげで1年振りくらいにしっかり散歩できたのですが、本当に嬉しそうで、止まろうとしたら怒ってました(笑)。この時は1時間弱くらい歩いたと思います。
ところが、車椅子が来てからも身体に変化があり、鼻とお尻が引っ付くくらい、首と背中が横に曲がってしまいました。そのせいで、今は車椅子でもうまく歩けません。
それでも、立った状態でいられるので、起き上がれないストレスからは解放されています。
起き上がれないときは、寝たまま暴れて犬歯がほっぺに刺さり、穴が空いたこともあったんですよ。
それに床ずれの心配もありませんし、立っているだけで筋トレにもなります」。
日毎に変わっていく状況にも、前向きに対応される岡本さん。さらに特別なケアも実践されていました。
体温と巡りが大切です
ももちゃんへのスペシャルケアは、マッサージとお灸。勤務先の病院が東洋医学を取り入れていて、先生からやり方を教わったそうです。
「身体を温め、血行を良くするマッサージを、毎日小一時間やっています。その間は気持ちも穏やかに休めているようです。
認知症で暴れていても、5分もマッサージしていると落ち着いてくるんですよ。
それに筋肉もほぐれて、突っ張って曲がり難かった脚が曲がりやすくなったりもしました。
お灸は、『せんねん灸』の火を使わないタイプを使っています。お灸もマッサージと同じような効果があります。
それから、寝るときは筋肉や関節が伸び、肺が潰れず、床ずれ防止にもなる寝方をさせています。
柔らかいクッションやブランケットを丸めて丸太みたいにして、丸太に並行に、うつ伏せのバンザイで乗せる感じです」。
シニアになると、巡りが悪くなったり、冷えも出てくるので、マッサージやお灸が有効なのだとか。人間と同じですね。
それからシニアケアとしてもう一つ挙げられたのが、サプリの『アンチノール』。必須脂肪酸を含み、腎臓や関節、認知症にも効いた実感があるそうです。
ももちゃんが教えてくれたこと
ももちゃんに導かれて動物看護師になった岡本さん。今回お話を伺っただけでも、そのことがももちゃんへの手厚いケアに十分活かされていると感じました。
でも、岡本さんは逆だと仰います。
「病院で得た知識や経験、オーナーさんに教えてもらったことなど、もものためになった学びや気付きはたくさんあります。今使っている車椅子も、オーナーさんに教えてもらったものです。
でも、ももが教えてくれたことは、私にとってはもっとずっと大きなものでした。
病院で動物たちのケアをするとき、私が大切にしているのはオーナーさんの目線でいることなのですが、そう思えたのも、そうできるのも、ももと暮らし、ももに学んできたからなんです」。
岡本さんが動物看護の道に入ったきっかけがももちゃんなら、その道を歩く道標もまた、ももちゃんでした。
中高生の時は部活で忙しく、今は“想像以上の大変さだった”という動物看護師の仕事に奮闘している岡本さん。
普通の家族として一緒に過ごせた時間は短くても、互いを必要とする濃厚で特別な時間を、今日も精一杯過ごしています。
取材・文/橋本文平(メイドイン編集舎)
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