『ひとり』ーアキナ山名とおまめのラブい日々#28
お笑いコンビ「アキナ」の山名文和さんは、2020年6月9日に愛柴のおまめを迎えました。保護犬施設からやってきた彼女は、当時8歳。
長年夢みてた“柴犬ライフ”を、ようやく実現した山名さん。おまめとどのように出会い、どんな生活をおくっているのでしょうかー。
アキナ山名と柴犬おまめの最高にラブい日々を、山名さんご本人が綴っていきます。
『ひとり』ーアキナ山名とおまめのラブい日々#28
一匹の犬がいた
とても美しい白い犬
その犬は野良犬だった
思うままに歩きお腹が減れば街に行く
街を歩けばたくさんのにんげんが
「なんて可愛い犬だ」と声を上げ
うちに連れて帰ろうと
一声キャンと吠えれば
嬉しそうにごはんを出してくれた
それでもその犬は全くなびかなかった
どこかひとつの場所に留まることに幸せなんて感じなかった
犬は皆のものでいたかったし
皆が自分をとりあう状況をみているのがすきだった
たくさんのにんげんにちやほやされ
オス犬たちもたくさん寄ってくる
犬はすごく幸せだった
ある日
ひとしきり山を走り川で身体を洗った犬は
お腹が空いたので街に降りてきた
街にはほとんど誰もいなかった
大きな鐘が鳴り響いていた
年に一度の収穫祭で皆教会に出向き
楽しそうに踊っているようだった
つまらなく思った犬は道路沿いに寝そべり休むことにした
ふと目の前に皿が置かれた
ミルクが入っている
皿はひどく汚れ薄汚い老婆がしゃがみこんでいた
「あんたもひとりかい?これをお飲み。もし足りないなら家にたっぷりあるから来るといい」
犬は腹がたった
「ひとり」というだけで自分が老婆と同じ場所に置かれていることに
同じ「ひとり」でもこいつとはわけが違う
腹は減っていたが犬はそそくさと立ち上がりその場を去った
収穫祭の帰り道のにんげんたちが
犬をみて
甘えた声で沢山寄ってきた
おいしいものをたくさん食べて
犬は嫌なことを忘れた
一匹の犬がいた
毛は抜け落ちなにかの病を患っていることは一目でわかった
街のものたちは見向きもしなかった
それでも犬は歩いた
歩いていれば誰かひとりでもごはんを与えてくれそうな気がした
でもそんなにんげんはひとりもいなかった
キャンと吠えれば罵られそうで鳴くことなどしなかった
自分の命が終わっていく気がした
ある日
山を歩き川に入り
身体を引きずるように街へ降りた
街にはほとんど誰もいなかった
大きな鐘が鳴り響いていた
あぁ収穫祭か、と犬は思った
道に寝そべり休むことにした
ふと、目の前に皿が置かれる
ミルクが入っていた
前に見た皿だ
老婆がしゃがみこんでいる
「あんたもひとりかい?これをお飲み」
優しい目だった
こんな目を向けられたことはなかったと犬は思う
いつからか冷たい目で見られるようになった
元気だった頃はたくさんのにんげんが近寄ってきたがそれとはまた違う目だったようなきがする
犬はミルクを飲んだ
何日ぶりだろう
一気に飲み干した犬はたいそううまかったのか身体中をなめる
なめていると
自分の身体がひょいと宙に浮くのがわかった
犬は老婆に抱きかかえられ
そのまま家に連れていかれた
ゆっくりと身体を洗ってもらい
痒みでボロボロになった皮膚を
丁寧に拭いてくれた
犬は少しずつ快復した
今までに食べた美味しいものなんかでてこなかった
ミルクと少しのパンと芋
それでもよかった
そしてなにより
老婆は犬をいつも膝の上に置いてくれた
あたたかかった
誰かに抱きしめられたのは初めてだった
命が終わるのは嫌だと思った
あの頃撫でられることはあっても
誰かのものになりたくなかった
与えられたものを食べ
要らないと思えば口にもしなかった
無知なものたちは犬に必要のない食べものをたくさんくれた
そんな生活に無理がたたり犬は病気になった
老婆はあの時の自分を覚えているのかは知らない
きっと覚えていないだろう
ただ「ひとり」と思った犬にこれまでずっとそうしてきただけなんだろう
と、犬は思う
老婆は男の帰りを待っているようだった
数年前、隣の国との戦争に向かいそれっきりのようだった
いつからか老婆はずっと座っているかベッドに横になるようになった
犬は老婆のそばでずっと過ごした
老婆の命が終わろうとしているのがわかった
犬は決めていた
最期まで一緒にいようと
老婆の優しさに気づけず突き放した後悔
抱きしめられるという温もりを教えて貰い
帰る場所がある幸せを与えてくれた感謝
「ひとり」にはしたくなかった
夜更け
ノックの音
老婆は目を覚ます
ベッドのそばには
一人の男が立っている
真っ暗な部屋の中
老婆はその男だとわかる
男は申し訳なさそうな顔で
老婆に手を伸ばす
老婆は優しい笑みを浮かべその手をしっかりと握る
立ち上がろうとしたとき
老婆は犬を抱いた
男は一瞬驚くがやがてゆっくりと笑い
老婆の腰に手を回し
扉の方へ向かう
犬は目を覚まし老婆の腕からするりと降り
男と老婆の前をいく
犬は
ついてきているか不安になり
甘えた声で鳴く
後ろの二人が笑う
柔らかい光に包まれた三人はゆっくりと消えていく
部屋には誰もいなくなる
皆様、新年明けましておめでとうございます。
おまめ共々、本年も宜しくお願い致します。
【プロフィール】山名文和(アキナ)
1980年7月3日生まれ。2012年、秋山賢太とお笑いコンビ「アキナ」を結成。
レギュラー番組を多数抱えるほか、『キンブオブコント』『M-1グランプリ』『THE MANZAI』で決勝進出を果たす。
愛柴は、保護施設から迎えたおまめ(12歳)。
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