【特集】柴を介護する#22 食事から得られる刺激が脳の栄養に!「認知症予防」と「長生き」に役立つ食事の介助方法
特集『柴を介護(あい)する』シリーズでは、いつかはやってくる我が子の老後に備え、老犬介護の情報をお伝えしています。
柴犬の平均寿命は15歳を超えるというデータもあり、長生きをしてくれる一方、歳を重ねるごとに食事などに介助が必要になることもあります。飼い主さんと愛犬の暮らしをサポートする「Dyplus(ディプラス)西麻布」で認知症専門外来を担当する小澤真希子先生に、老犬の食事の選び方や介助の方法をうかがいました。
目次
食事から得られる刺激が認知症の予防につながる
シニアの柴犬と暮らす飼い主さんの中には、食事のサポートの大変さを感じている方もいるのではないでしょうか。
療養食だけ与えればいいのか、やわらかくしたほうがいいのか、シリンジでの給餌に変えたほうがいいのか……。
特に愛犬が自力で食事を摂れなくなってくると悩みが増えてきます。
今回はDyplus(ディプラス)西麻布で認知症専門外来を担当している小澤真希子先生に、老犬の食事についてお話をうかがいました。
小澤先生:
「老犬にとって食事は栄養やカロリーを摂取するためだけのものではなく、脳が刺激を得る手段になります。
感覚から得られる刺激は脳の栄養になり、認知症の予防につながると考えています。
五感の中では視覚と聴覚の衰えが早いので、食事によって残された嗅覚、触覚、味覚から刺激を得ることが重要です。
感覚刺激が入らなくなると、脳のバランスが崩れて老化も進んでしまいます。
私が診てきた老犬でも、目が見えなくなり耳も聞こえなくなった後、夜鳴きが始まったというケースがとても多いのです。
たとえばドライフードは噛むことで触覚を得られます。
柴犬は高齢になっても歯がしっかりしている犬が多いので、噛む力が衰えていなければ、柔らかい食事だけでなくドライフードもあげましょう。
いろいろな感触を味わいながら食べることが脳への刺激になります」
愛犬が好きなおやつを見つけて暮らしを豊かに
アレルギーや病気などがある犬の場合、食べ物を食事療法食に限定している家庭も少なくありません。栄養バランスが崩れてしまうことを心配しておやつを与えていない方もいるでしょう。
小澤先生:
「総合栄養食や食事療法食を主食のベースにして、おやつで感覚刺激を増やすと考えてみてくださいね。
おやつは脳への栄養であり薬と思って、愛犬が喜ぶ食べ物を探しましょう。病気の治療だけでなく、豊かな暮らしということにも目を向けてほしいですね。
しつけの一環でおやつを禁止しているご家庭もありますが、高齢になったら少し甘やかしてもいいのではないでしょうか」
アレルギーで食べられる食材が限られている場合も、アレルゲン以外を選びましょう。
アレルギー対応のフードもたくさんあるので、主食とは別のメーカーのフードをおやつ代わりにするのも一案だとか。食の楽しみも増えそうですね。
認知症の予防や改善が期待できる栄養素を摂取する
柴犬は長生きなので、認知症になる犬も目立つ傾向があります。
10歳を超えたシニアからは認知症予防を意識した栄養素を積極的に摂取したいもの。小澤先生がすすめる食材を聞いてみました。
小澤先生:
「研究により脳に良いと証明されている栄養素は、抗酸化物質、ビタミンB、DHA、EPA、中鎖脂肪酸です。
認知症の犬たちを2つのグループに分け、これらの栄養素を加えたフードと加えないフードを与えたところ、脳に良い栄養素を加えたグループに認知症の症状が改善したという報告があります。
これらの栄養素は腎臓や肝臓の病気にも有用なので、高齢になったら必要と考えましょう」
[老犬におすすめの栄養素]
・抗酸化物質
大豆に多く含まれるフラボノイドやなど。例えば豆を煮て与えるのもよい。ただしマカダミアナッツは犬が中毒を起こす物質が含まれているので与えるのはNG。
・ビタミンB
豚ヒレ肉、鶏肉、サバなど。肉を茹でて冷凍しておき、おやつにするのもおすすめ
・DHA、EPA
サバ、イワシ、サンマなどの青魚。ビタミンBも摂れるのでフードのトッピングにもよい
・中鎖脂肪酸
ココナッツオイルなど。ただしアボカドは犬が中毒を起こす物質も含まれているので与えないこと。
コエンザイムQ10も脳に良いと証明されています。これらの栄養素を効率よく摂取するにはサプリメントが便利。栄養に詳しい獣医師に相談してみましょう。
老犬の食欲が落ちたり増えたりしたら病気を疑う
老犬の食欲が落ちたり、逆に増えたりしたときは、病気を疑って動物病院を受診しましょう。
病気の治療を始めてから、食欲を取り戻す工夫や食べさせる介助を始めることが大切です。
また認知症になると食欲が増える、食べたことを忘れて催促するともいわれますが、小澤先生によれば「認知症になっても基本的に食欲は変わらない」そうです。
小澤先生:
「老犬は消化器の機能が低下しているので、負担を軽くする与え方が基本。
食事1回で与える量を少なくし、その代わり食事回数を増やしましょう。
食べたがらなくても、食べ始めると勢いがついて完食できることもあるので、犬が好きな食べ物をトッピングして食欲をそそるのも良い方法です。
食事に関する注意点は、薬を混ぜないこと。犬がにおいで察知して、それからしばらく食事そのものを食べなくなってしまうこともあります。
薬をくるむトリーツを使うのがよいと思います」
老犬も飼い主も楽ちん!食事の介助方法
食事の時の姿勢も大事なポイントです。
小澤先生:
「老犬にとって楽な姿勢で食べさせてあげたほうがいいと思っていませんか?
じつは足腰が弱った犬や寝たきりの犬でも、立った姿勢のほうが食べたり飲み込んだりしやすく、命に関わる誤嚥も防げます。
飼い主さんが支えてあげて、上半身だけでも立たせたほうがいいですね。
アロン化成から販売されている『姿勢サポートクッション』や『リラクッション』を使うと、犬も飼い主さんも楽ちん。立つことはできても首が下がってしまう老犬にもおすすめです」
■自力で食べられる場合
犬が立てる場合でも、首を下げずに食べられるように食器台を使う。立てない場合は『姿勢サポートクッション』で立った姿勢にして食事を前に置く。底が丸い食器のほうが食べやすい。また、飼い主が食器を持って傾けるだけでもさらに食べやすくなる。
姿勢サポートクッションは医療用です。獣医師や動物看護師の指導を受けた後、動物病院から購入できます。
リラクッションは自宅用なので、通信販売でも入手可能です。
■自力で食べられないが飲み込める場合
『姿勢サポートクッション』で犬を立った姿勢にして、食事をスプーンで口に入れる。
老犬は体をうまく使えなくなってくるので、噛むときに力加減ができないことも。
手で与えると噛まれたり噛んだまま離せなかったりする危険があるので、やわらかいシリコン製のスプーンを使う。
食べるときスプーンに歯が当たっても犬は不快な思いをしなくて済む。
■自力で食べたり飲み込んだりできない場合
犬が舌を使って食べ物を口に入れたり飲み込んだりできなくなったら、流動食やウェットフードなどを給餌用のシリンジに入れて、少しずつ喉へ流し込む。1回で食べられる量が少ないので数時間おきに与える。
高齢になると舌や口をうまく使えなくなります。しかし自力では食べられなくなくても食欲はあるというケースも多いので、シリンジでの給餌を試してみましょう。
「本当に食べたくないときは、食べ物を口に入れても嚥下しなくなります」と小澤先生。
無理に食べさせる強制給餌は誤嚥の危険があるので、まずは動物病院に相談したほうが安心です。
水を飲ませる場合も食事のサポートと同様に行います。
ただし自力で飲める場合も、疲れてすぐに飲むのをやめてしまうケースも少なくありません。水を油さしに入れて口の横から少しずつ注いで飲ませましょう。
「食べさせなければいけない」という執着を手放す
食欲は元気のバロメーターです。愛犬の病気や老いが進んでも、ごはんを完食してくれるだけでホッとする飼い主さんは多いのではないでしょうか。
小澤先生:
「『愛犬にごはん食べさせなければいけない』と思い込んでいる飼い主さんが多いように思います。
しかし病気の末期や老衰が進行すると、食への興味を失って何も食べなくなります。
この段階になったら、飼い主さんが食への執着を手放すのも一つの考え方です」
老犬になってもおいしく楽しく食べられるように工夫することは大切ですが、いつかは食べなくなる日がやってきます。
食にこだわるよりも、そのときの愛犬が求めていることを与えるほうが大切。たとえば、家族に寄り添ってほしいと思っているかもしれません。
認知症外来を設けるDyplus西麻布では、老犬のケアや介護の相談も行っています。飼い主さんが迷ったときや悩んだときには心強い味方になってくれるでしょう。
【施設DATA】
Dyplus(ディプラス)西麻布
Dyplus(ディプラス)西麻布では、医師をはじめ、理学療法士・ドッグトレーナーが「予防・健康」「マナー」「体づくり」「衛生・美容」「食事」「住環境」をサポートするオリジナルカリキュラムを提供しています。
東京都港区西麻布4-22-7
電話番号:03-5464-1028
公式サイト:https://nishiazabu.dyplus-pet.com/
取材・文/金子志緒
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