【特集】柴を介護する#13 「認知症」はどんな治療をするの?基本から最新知見まで獣医師が解説
特集『柴を介護(あい)する』シリーズでは、いつかはやってくる我が子の老後に備え、老犬介護の情報をお伝えしています。
ほかの犬種に比べ、認知症になりやすいと言われている柴犬。そこで今回は、杉並区にある『ガイア動物病院』院長・松田先生に、最新の知見を交えながら、もし認知症になったらどんな治療方法があるかについて教えていただきました。
目次
「歳だから…」と見逃していませんか? その症状、認知症かもしれません
ペットフードの質の改善、動物医療の発達、それとも飼い主さんの動物への関心の高さ?
とにかく色々な理由でペットの寿命は伸びてきています。
それに伴って、昔は見られなかった病気も増えてきているように思います。
はじめまして、こんにちは。杉並区にある『ガイア動物病院』院長の松田です。
柴犬さんをはじめ、ネコ・ウサギ・ハリネズミ・フクロモモンガなど様々な動物さんを診察しています。
今回は、特に柴犬さんに多く見られる“認知症”について解説していきたいと思います。
認知症は誰しもが直面する可能性があるものです。
高齢のワンちゃんと一緒に生活している方はもちろん、まだまだこれからって場合にも心構えをしておく意味でぜひお読みいただけると嬉しいです。
実は、“とある病気”を持っていると、かなり若い頃から認知症の症状が出るとも言われています。
動物病院に行ったらどんなことを提案してもらえるのか、その一部を紹介したいと思います。
さて問題です。認知症になりやすい犬種は?
このクイズの答え…すぐにわかってしまいますね。
全体的に見れば日本犬は多いですが、その中でも圧倒的に柴犬が多いです。
他にも、ヨークシャーテリア、シーズー、トイプードルなどの人気犬種にも多く見られます。
統計的には、8歳以上の犬の14%が認知症であると言われていますが、実際に診断されているのはわずか2%弱です。
隠れ認知症が多くいる、ということですね。
シニアの柴犬と暮らしているというオーナーさん、以下のような愛柴の行動で思い当たる節はありませんか?
・家の中でも迷子になる
・トイレを失敗してしまうことが増えた
・夜鳴きする様になった
・目的の無い行動(徘徊)をする
・新しい場所に行くことを嫌がる
・挨拶したり、可愛がられたりすることに興味を示さなくなった
・突然、触ると怒る様になった
などなど。
実は、今挙げた項目は認知症の診断をするときに使う項目です。
これらの項目は言い換えると、“不安”、“睡眠サイクルの変化”、“不適切な排泄”など、認知症になると出てくる行動です。
…とは言え、柴犬という犬種は、もともと新しい場所や外出を嫌ったり、夜中に吠えたりする場合もあるので判断は難しいのですが。
セルフチェックだけで判断するのは危険
上記の質問だけで診断されるわけではありません。症状は似ていても、全く別の病気からきている場合があるからです。
例えば、
・トイレを失敗してしまう
→腎臓病や膀胱炎でトイレまで間に合わないだけかも…?
・夜鳴きをする
→日中飼い主さんが家にいないことでずっと寝ている場合、夜にかまって欲しくて鳴いているだけかも。
・触ると怒る
→関節炎などでどこか痛いのかもしれません。
・夜寝られない
→これもどこか痛かったり、甲状腺の病気があったりすると寝られなくなってしまいます。
高齢期に入ると、様々な病気や状況が重なって1つの症状として出てきます。
もし別の病気なら治療の方向が全く違ってくるだけでなく、放っておくと生活の質を落とすことにもつながるので慎重に判断したいところです。
また、「てんかん」を持つ場合には、かなり若い頃から認知症の症状が出ることもあると言われています。
認知症は、神経病学(頭の中の病気)と行動学の間にある様な病気。てんかんも、どちらも深く関係してくると考えられます。
なぜ認知症になるのかは、いまだに解明はされていませんが、てんかんの様な頭の中が原因となる病気がある場合には、5歳前後から症状が見られる場合があります。
治療の基本は?
認知症と診断されたら、大切なのが「悪化をできるだけ緩やかにし、生活の質を落とさない様にする」ことです。
具体的には、
(1)環境面のケア
(2)サプリメント
(3)食事療法
(4)薬物療法
などをバランスよく行います。
(1)環境面のケア
オーナーさんにとっても愛柴にとっても快適な生活を目指すことです。
隅っこや狭いところで行き詰まって動けなくなってしまう場合には、円形のサークルの中に入れてあげると効果的です。
また、ご飯やお水、トイレは比較的近くに置き、通り道に障害物は置かない様にすると失敗は少なくなります。
寝ている時間が多く、床ズレができてしまうときには専用のマットを利用すると良いと思います。
さらに脳と身体に適度な刺激を与えることも大事!
お散歩やおもちゃを使って遊ぶこと、朝には日光を当ててあげる、おやつを使った宝探しゲームなど、できる範囲で構わないのでコミュニケーションをとってあげてください。
(2)サプリメント
効果があるとされているものが多く開発されています。
抗酸化物質のビタミンA・C・E、コエンザイム、ポリフェノール類、DHA/EPA…あげればキリはありませんが、これらのものがバランスよく配合されたもの(『アクティベート』、『メイベットDC』)が発売されています。
(3) 食事療法
抗酸化物質や、先ほど挙げた脳に良いとされる栄養素を多く含んだ構成になっているフードが発売されています。
それが、ピュリナ の『プロプラン ベテリナリーダイエット ニューロケア』(動物病院専売品)。
実際にこのフードを使った研究では、認知症の症状である「不安」や「睡眠サイクルの変化」などの全てにおいて改善されたという結果が出ています。
フードだけれど、侮れませんね。
(4) 薬物療法
まず初めに、現在のところ「完治を望めるお薬は無い」ということをお断りしておきます。
認知症とは、「寝られない」とか「記憶が曖昧になる」という症状が出るものでしたよね?
そもそも、睡眠とは何か。記憶とは何か。
いろいろな伝達物質や電気信号が関係しているのはわかっていますが、これらについては、全てが解明されているわけではありません。
なので、どこを標的にお薬を作って良いのかわからないのです。
こういった理由から、お薬はあくまで症状を和らげるために使っていくことになります。
薬に頼らないとオーナーさんが消耗することも
犬が不安を強く感じている場合には、抗不安薬を使います。
いくつかの種類がありますが、中には様々なお薬と相互作用してしまうため扱いが難しいものもあります。
一旦そのお薬を使いはじめてしまうと他の病気の治療が難しくなってしまう、ということです。
そのため、他の病気が安定してから使い始める…という一手間が必要になります。
また、夜鳴きや不眠に対しては鎮静作用(睡眠作用)のあるお薬を使います。
基本的には飲み薬となりますが、飲めない子には坐薬タイプを選択することも。
ただし、効き目はその子その子によって全く違うので様子を見ながら与えないといけません。
場合によっては、オーナーさんが不安になるほど、ずっと寝てしまうこともあります。
寝ている間はご飯を食べることができません。ですので、体力が落ちていってしまいます。
こういった理由から、ちょうど良い用量が決まるまではペットホテルを利用し、オーナーさんには休んでもらうのも作戦の1つだと思っています。
お薬の使い所、難しいですよね。高齢になってくるとなおさら。
だって、副作用の無いお薬はありませんから。
そのため、重症度にもよりますが、初めからお薬を使うことはせず、サプリメントやフードから治療をスタートすることが多いのです。
でも、使わないとオーナーさんの生活がままならないことも多々あります。
使い始めるタイミングは、オーナーさんの生活に支障が出ているかどうかが大きなポイントかなと、僕は考えています。
愛柴のことを考えてしまうがために、無理をして体調を壊してしまう、生活が不安定になってしまう。
そんな人が非常に多いんですが、動物病院に行った際は、遠慮なくご自身がどうしたいのか言うことも大事ですよ。
早めに気付いてあげることが何より大事
これはどんな病気にも通じることですが、早く病気に気付くことでフードやサプリメントなど(オーナーさんにとっても)負担の少ない治療で、現状を維持できるかもしれません。
また、悪化のスピードも遅くすることができます。何より大切な愛柴さんと長い間一緒にいることができます。
ゆっくりゆっくり進行していく認知症だからこそ、症状の軽いうちに気づいてあげたいものですね。
【病院DATA】
ガイア動物病院
〒167-0022 東京都杉並区下井草1-23-2
電話番号:03-5311-1250
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