2020年11月2日8,309 ビュー View

【柴犬お悩み解決NOTE】♯28 前の家で蹴られていた柴…前触れなく噛んできます【ドッグトレーナー・小野洋平がズバリ回答】

第一線で活躍するドッグトレーナーの小野洋平さんが、読者からのしつけ・トレーニングのお悩みに答える連載『柴犬のお悩み解決NOTE』。

今回のお悩みは、なんの前触れもなく噛んでくる5歳の柴犬について。1歳になるまで育てられた家が、しつけと称して暴力を振るうオーナーだったそうですが、果たして噛むことと子犬のころの環境は関係あるのでしょうか。

今月のお悩み:前の家で虐待、ネグレクトを受けていた子。なんの前触れもなく噛みついてきます。

5歳・男の子

 

1歳の時、「運動目的の散歩以外は大きめケージの中。言うことを聞かなかったら蹴り飛ばせ」と言っていた方から譲り受けた子です。

 

うちに来てからは、室内飼いにして、蹴るなどのしつけはしないようにしています。

 

嫌なことをされるからなのでしょうが、唸るなどの前触れ無しに噛みつきます。

 

リードを付けるときなど、こちらが「何度噛まれても平気」という態度を取っても噛みつきますし、いたずらを止めさせようとおやつで誘っても噛むことも。

 

特に寝起き時は、噛みつきが酷いです。

 

ケージを嫌がるので、我が家に来た当初から寝るときはリビングに室内用リードで所定の位置につないでいますが、私以外の家族にはよく噛みつき、機嫌が悪ければ私でも噛まれます。

 

「前の家での飼われ方のせいで…」という決めつけ、思い込みは捨てて

柴犬

Benoist/shutterstock

 

こういった経緯でお家に来た犬は、前のオーナーさんが何をしていたのかすごく気になりますよね。

 

でも、本当に何があったのかは想像の域を出ません。ですのでこういうケースの場合、僕は話半分で信じないようにしています。

 

実際、散歩以外をケージの中で過ごし、蹴り飛ばされていたとしても、それが“噛む犬になってしまった”原因であるのかもわかりません。

 

そういう飼い方をされても、噛む犬にならない子もいます。明らかな因果関係が見えない場合は、決め付けないことが大切なのです。

 

また、この文章からでは人間への信頼関係が「あるか」「ないか」も不明。

 

1歳で迎えて、現在5歳ということですので、いまのオーナーさんとある程度の信頼関係はあるとは思います。

 

しかし柴犬の場合、信頼関係が“あっても”噛みつくことがあります。

 

というわけで、まずは「前の家ではこうだったから」という犬への思い込み、前提をすべて捨て、いま目の前にいるその子だけを見るように心がけましょう。

 

1回の練習で噛まれなくなるまで繰り返すことが大切

柴犬

Maksym Fesenko/shutterstock

 

“唸りが無い状態からの噛み”をしているので、前のオーナーさんがしていたことで一つだけ、ほぼ確定だと思われることがあります。

 

それが「しつけ」と称して暴力を振るっていたであろうということ。

 

本当に唸りが無いか、噛みつく前の前触れがないか、きちんと見極めなければなりませんが、すでに噛む行為が出てきてしまった子に対してきつく当たると、どんどん噛みもきつくなっていきます。

 

短絡的なしつけをした悪い例ですね。

 

リードをつけるとき、何度噛まれても平気という態度をオーナーさんが取っているようですが、噛みつきをなくしたいなら、“リードをつけられたからお終い”としないこと。

 

“リードを付けては外す”を繰り返し行い、噛まれなくなるまでやり切ることがポイントです。

 

<噛まれた→でもなんとか付けた→お散歩>

 

この流れですと、オーナーさんが噛まれることに耐えてリードを付けただけになります。ですので、次も噛んでくるでしょう。

 

この子にとって、リードをつけることは“嫌なこと”。

 

嫌なことを“なんともないこと”もしくは“好きなこと”へ変化させていくことが大切です。

 

人間への信頼関係を築くためには

柴犬

Wollertz/shutterstock

 

この子が噛む理由は、主にふたつ。

 

ひとつめが、人間への不信感。

 

ふたつめが、家庭内にルールがない、好き放題にできていること。

 

つまり、ワガママに育てられたため、自分の思い通りにならないことや嫌なことがあると噛みに来ているのだと思います。

 

人間への不信感は、前の家の影響が少なからずあると思います。

 

それは蹴られていたからではなく、「人間は怖くないよ」「一緒にいても大丈夫だよ」という態度を見せてもらった経験が少なかったから。

 

もし蹴られずに育てられていても、「人間は怖くないよ」を見せずに育つと、噛む犬になる可能性はあります。

 

それは、どの子でも同じ。犬側が「嫌だ」「怖い」と感じたことがあれば、噛む犬になってしまうものです。

 

例えば、強引なシャンプーやブラッシング。

 

しつけと称して正しい知識と技術がない人からの“ひっくり返し”、“マズルつかみ”、“リードショック”など。

 

人間にしてみれば、蹴ることとブラッシングは全く違うものですが、犬からすれば同じ“嫌なこと”。

 

人間がどう思っているかではなく、犬がどう捉えているのかが大切です。

 

もしお家に来てすぐの時でも、リードを付けようとして噛むようなら、その時点で“噛むようなこと=嫌がること”をしないのが大切。

 

一緒に暮らしていくことで前のオーナーさんとの差はできますが、犬からしてみると最初のうちは前のオーナーさんも今のオーナーさんも差はありません。

 

触ることやリードを付けることで「この人間も同じか」という印象を与えないことが大切なのです。

 

僕の場合、犬からのアクションがない限りは何もしません。

 

細かく言うと、自分の位置や目線、メンタルのコントロールや雰囲気、それに加え犬の動きを細かく気づかれないように観察はしているのですが。

 

食事や排泄はもちろんさせます。しかしそれも、距離が縮まるまでは、どんなところでどのようなタイミングかなど、全てにおいてこちらからは一切求めません。

 

ですので、はたからは何もしていないように見えると思います。

 

しかし、どうしてもしなきゃいけないことはあります。

 

それが、リードを付けたりハウスに入れたりです。

 

とにかく犬の不信感や恐怖感を膨らませないように配慮し、極力少ない動きや犬への負担が少ない方法でリードを付けられるように頭を使います。

 

投げ輪タイプのリードを使ったり、ケースによっては付けっぱなしにしたり、それでも外さなければいけない場合は、1時間以上かけてリードを外したりなど。

 

ですので、慣れてくるまで1ヶ月以上かかる場合も多くあります。

 

ハウスができるようになれば心も体も健やかに。

柴犬

AkaneHY/shutterstock

 

寝起きや眠たい時の噛みつきは、この子に限らずトレーニングやしつけがうまくいってないお家でよく起こります。

 

これをやめさせるためには、ハウストレーニングは必須かと思います。

 

なぜなら、相談者さんのように家のどこかに繋いだだけでは、犬の動きだけが制限され、人間は自由に動き回っている状態。

 

これでは、犬は余計に自分の場所を守る意識が強くなってしまう場合があります。

 

そのせいで警戒心が立ってピリピリしているため、ちゃんと寝られていないのかもしれません。

 

きちんと睡眠が取れていないと、犬のメンタル状態は悪くなっていってしまいます。

 

ハウスの練習をとにかく頑張る。もしくは家人が誰も近寄らない、犬のテリトリーが侵されることのない場所を作ってあげてください。

 

運動、食事、睡眠。この三つの質をできるだけ高い状態にしてあげると犬の健康もメンタルも保たれます。

 

ハウストレーニングのやり方

クレート

frantic00/shutterstock

 

上下に別れるクレートタイプのハウスを使って、最初は下半分にこの子の大好きなおやつやご飯を乗せて食べさせてあげましょう。

 

プラスチックの感触が嫌な時もあるので、タオルなどの柔らかいものを敷くなどして下半分になれるようにしていきます。

 

慣れてきたら上半分を被せて同じように。中で休むようになったら扉をつけて…と、徐々にステップを踏んでください。

 

トレーニング中は、上半分が落ちてくるなどの事故が起こらないよう細心の注意を払ってくださいね。

 

「前の家がこうだったから」という思い込みを持っていると、いま目の前にいる子の本質を見れなくなってしまう可能性があります。

 

現状を正しく把握し、より安心して暮らせることができるよう、オーナーさんも頑張ってくださいませ。

 

小野洋平 PROFILE

『inu-house』代表。

通信のベンチャー企業に勤務後、カナダに渡りドッグトレーニングを学ぶ。カナダでは、いきなり家庭犬のトレーニングを行う現場で問題犬と呼ばれている犬たちに囲まれての修行。帰国後、介助犬育成と家庭犬トレーニングのケイナイン・ファミリーを立ち上げるが、日本人の犬の考え方や家庭犬の在り方に疑問を抱き、家庭犬トレーニングを主に行うようになる。日本独特の犬文化を守ることと変えていくことが目標。

 

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